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 「ここにいたのね」

 ロンと別れてソフィアは城内でハーマイオニーたちを探し歩いた。そして、ハーマイオニーとハリーをふくろう小屋の近くで発見した。なんだかやつれて見えるハリーはソフィアに弱弱しく笑って手を軽く掲げる。

 「今シリウスに手紙を出したところよ」
 「そうするだろうって思ったわ」

 ハーマイオニーの言葉に同意してソフィアは頷く。だからソフィアはここに来たのだ。トライウィザード・トーナメントはイギリス魔法省が絡んだ一大行事だというから、『生き残った男の子』として有名なハリーが出場することはきっと新聞やらで大々的に報道される気がする。ハリーのことをとても心配しているシリウスに、連絡を取るだろうとソフィアは確信していた。

 「ハリー、自分の名前を入れただろう誰かに心当たりはある?」
 「ないよ、まったく」

 ハリーは困り顔でソフィアに返事をした。

 「ソフィアは僕が入れたんじゃないって、信じてくれてると思ってた。あのとき頷いてくれたから」

 ダンブルドアに名を呼ばれた直後、ハリーの訴えに頷いたソフィアをハリーは覚えていた。

 「出場することになったって、聞いたわ。…どうする?付け焼刃かもしれないけど、図書館にいって勉強とか――」
 「人目につくところにいるのは嫌だ」
 「そうね…」

 ハリーは今までにも何度か、学校中から悪い意味でも注目を浴びてきた。そのときの周囲の異様に冷えた視線に耐性がつくことはないのだろう。

 「僕、自分の部屋で休むよ。今はなにも考えたくない気分だ」
 「あまり気に病み過ぎないで。…ハリーには私たちがついてるから」

 ソフィアの声援にまた弱弱しく笑って、ハリーはのろのろした足取りで談話室に戻っていった。ハーマイオニーとその場に残り、ソフィアは考え込んで腕を組む。

 「ハリーが代表選手としてどういうことをするのか、ハーマイオニーは聞いた?」
 「十一月二十四日に最初の課題があるそうよ。なにをするのか、詳しいことは聞かされてないみたい」
 「あと一か月もないのね…。私たちだけでも図書館に行く?ハリーのサポートをしないと…」

 ソフィアが提案すると、ハーマイオニーは渋い顔をした。

 「私たちがハリーの手助けをするのは、ちょっとずるい気がする。他の代表選手は自力で課題に挑むのよ。先生方からの援助も受けてはいけないと言われているらしいし…」
 「そんな…っ、ハリーは他の選手と同じじゃないわ。立候補したんじゃないから。誰かのあくどい手にかかって危険な立場に立たされてるのに。…先生方じゃない、私たちがちょっとサポートするくらい大目に見てもらえるわよ。…ちゃんと事情を知ってる人には」

 ハリーが立候補したと思っている人たちには、ソフィアとハーマイオニーの手助けはずるだと映るだろう。あまり大っぴらなことはできない。

***

 ソフィアの悪い予感は当たった。ホグワーツの雰囲気は、対抗試合に向けて士気が高まりつつあったが、その反面で対抗意識を燃やす生徒達も大勢いた。それも、相手のダームストラングやボーバトンに対してではなく、四人目の選手に選ばれたハリーに。

 ハリーを英雄扱いするのはグリフィンドール生が大半で、ほとんどのホグワーツ生はセドリックを支持する者ばかりである。鼻筋がすっと通り、黒髪にグレーの瞳というずば抜けてハンサムのセドリックは、今やクラムと並んで憧れの的だった。

 女の子達の群れに囲まれている彼を、ソフィアは、ここ何日かで幾度も見かけた。その度に、セドリックとは取り囲む女の子越しに視線を絡ませていたけれど、声をかける勇気もないまま目を逸らし、伏せ、ただ気まずさだけがソフィアを占めていく。「おめでとう、頑張ってね」とも言えないまま。

 しかし伝えたくても、セドリックはハッフルパフ生や女の子達にも囲まれていたし、そもそも近付きようが無い。特に、めったに脚光を浴びることが無かったハッフルパフ生は、四六時中セドリックを追いかけ、くっついて回っている。

 監督生でハンサムで、選ばれるべくして選ばれた彼は、一度クィディッチでグリフィンドールを打ち負かし、ハッフルパフに栄光をもたらした貴重な人物であり、今度は代表選手という名誉を手に入れたのだ。同寮生がセドリックをもてはやすのは当然のことである一方で、ハッフルパフ生は四人目の代表選手に選ばれたハリーがその栄光を横取りしたと思い込み、ハリーを目の敵にしている。レイブンクローでさえも、ハリーがもっと世間に名を馳せようと躍起になってゴブレットを騙し、自分の名前を入れたと思っているようだった。ハリーにとっては、辛い日常になっていることだろう。ロンとは未だに仲直りしていないらしく、口も効いていない様子だった。
 グリフィンドールの同級生すらハリーの立候補を信じ切っている今、味方はソフィアとハーマイオニーだけだ。
男の子たちはどういう手段を使って代表選手になったか漏らさないハリーに少し冷たくなり、
彼を遠巻きに見るようになっている。

 「そんなに難しくないのよ」

 呪文学の授業で『呼び寄せ呪文』を成功させられなかったハリーに、ハーマイオニーが励ましの言葉をかけている。クラス中のほとんど、というかハリーとネビル以外は『アクシオ』を成功させた。

 「あなたはちょっと集中してなかっただけで――」
 「どうしてだろうね?」

 ハリーは自嘲気味に笑った。ロンと仲違いしているという事実がハリーの気分をどん底に叩き落としている。

 「はあ…。午後から二限続きの魔法薬学だ…」

 ソフィアは気の毒になってハリーを見た。入学以来スネイプ教授の魔法薬学の授業はハリーにとって最悪の時間だったが、この頃はこの言葉が相応しい。まさに拷問だ。前回の授業ではハリーの隣に座ったハーマイオニーが『我慢、我慢』と念仏のようにハリーに語りかけていた。
 スネイプはハリーを懲らしめてやろうと思っているのか、複雑な魔法薬の作り方の手順をハリーに尋ね、答えられないでいるハリーを『代表選手としての資質がない』とこき下ろす作業を楽しんでいる。

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