23
昼食のあと三人そろって地下牢教室へ赴くと、スリザリン生が廊下でハリーを待ち構えていた。一人残らずローブの胸に大きなバッジをつけている。薄暗い廊下で、赤い蛍光色の文字が輝いていた。
『セドリック・ディゴリーを応援しよう』浮かぶ文字をさっと読んで、ソフィアはげんなりした。
「気に入ったかい、ポッター?」
腕を組んで壁にもたれているマルフォイがせせら笑いをしたので、ソフィアは眉間にしわを寄せる。嫌な男の子だ。ハリーへの攻撃の機会を、今か今かと待ちわびていたのだろう。
「これだけじゃないんだ――ほら!」
マルフォイがバッジを胸に押し付けると、赤の文字が消え、今度は緑の文字が現われた。『汚いぞ、ポッター』。スリザリン生全員が胸にバッジを押し付け笑いだした。不快な嘲笑が石の廊下に溢れている。
「あら、とっても面白いわね」
皮肉たっぷりの口調でハーマイオニーが腕を組み顎を上げる。
「本当におしゃれだわ!」
「一つどうだ、グレンジャー?たっぷりある。ただし、僕の手に触るなよ、手を洗ったばかりだ――」
マルフォイがハーマイオニーの真正面に立ってバッジを一つ突き出した。
「『穢れた血』でべっとりにされたくない」
マルフォイの言葉にハリーが動いた。素早く杖を掲げ、杖先でマルフォイを狙っている。
「「ハリー!」」ソフィアとハーマイオニーのハリーをなだめようとする声が重なった。
「やれよポッター。今はかばってくれるムーディもいない――やれるもんなら――」
ぎらぎら睨みあうハリーとマルフォイの間で、ソフィアには火花が散ったのが見えた。
「ファーナンキュラス!」
「デンソージオ!」
二人の杖から飛び出した光が空中でぶつかり、折れ曲がって跳ね返った。ハリーの光線――鼻呪いはゴイルの顔に直撃し、ドラコの光線――歯呪いはハーマイオニーに命中してしまった。
ゴイルは両手で鼻を覆って喚いた。醜い大きな腫物が、鼻にボツボツ盛り上がりつつあった――ハーマイオニーはぴったり口を押さえている。
「ハーマイオニー!」
そこへロンが飛び出してきた。どうしたのかと屈み込む。ソフィアも二人に駆け寄った。ロンがハーマイオニーの手を引っ張って顔から離すと、そこには見る間にグングン成長していく前歯が現れた。もともと平均より大きかったが、今はビーバーそっくりになっている。
ハーマイオニーは慌てふためいた、歯を触り、驚いて叫び声を上げた。その間にも歯は伸び続ける。女の子が、人前にこんな姿を曝け出せるわけがない。――刹那、
「何事だ?」
低い、冷え冷えとした声がした。スネイプの到着だ。スリザリンの生徒が口々に説明しだすと、彼は長く黄色い指をドラコに向けた。
「説明したまえ」
その言葉にソフィアはいち早く反応し立ち上がった。
「ポッターが僕を襲ったんです――」
「違うわ!二人同時に攻撃したのよ…っ!」
ツカツカと歩み声をあげる。ドラコは吃驚してソフィアを見た。スネイプも僅かに目を大きくさせている。
「くだらない物を付けて、ハリーとハーマイオニーを侮辱したんです!喧嘩もそっちから!」
ソフィアは問答無用でまくし立てる。ドラコの胸のバッジを毟り取り、赤と緑の文字をチラチラ変えながら言った。
「っ、でもゴイルがやられたのは事実だ!」
「それならハーマイオニーも同じよ…っ!何が面白いのかしらね!?下らなすぎて涙が出てくるわ!」
ズイッと前に出る。流石にドラコが一歩下がった。ソフィアはそれを見逃さない。更に詰め寄り責め立てる。
「だいたい、やる事が稚拙過ぎるのよ…!陰気で、意地が悪くて、そうやって卑怯な手を使うからロクな結果が出ないんだわ!ハリーが羨ましいなら貴方もやってみたらどうなのよっ度胸も勇気もないくせに――」
喋っている内にソフィアの怒りは頂点に達し、もはや原因も見失った発言が出てくるようになる。
「――そこまでだ、リンジー」
スネイプの重い声が落ちた。ソフィアはビクリと肩を震わせる。見上げると、ねっとりとした前髪を掻き上げたスネイプが、不機嫌な顔でこちらを見下ろしていた。
「ゴイルを医務室に連れていけ」
そう言って、スネイプはドラコを庇うようにソフィアの前に立ちふさがる。彼がどんな考えでそう言っているのか、ソフィアは毛頭理解できないでいる。
「聞こえなかったか?医務室だ」
うんざりした様子で顎で示す。不思議と、いつもは感じる嫌味には聞こえなかった。
「は、い」
途切れながらも頷き、ソフィアは一歩下がった。辺りを見回しゴイルを探す。彼よりも先にハーマイオニーが目に入った。
「先生、ハーマイオニーも……」
「いつもと変わらんだろう」
その言葉を聞いて、とうとうハーマイオニーが泣き出した。
「……そう見えるのなら、眼鏡を買うことをお勧めします…っ!」
顔を赤くして言い捨て、ソフィアはハーマイオニーとゴイルの手を引いて早足で歩き出した。周りが騒然とする中をかいくぐり、地下牢に続く通路をスタスタと歩いていく。後ろから誰かが大声で何かを叫んでいたが、他の喧騒に紛れてハッキリとは聞こえなかった。
医務室に着き、二人をマダム・ポンフリーに引き渡す。既にゴイルの鼻は爛れはて膿を浮かべていたし、ハーマイオニーの歯は顎まで伸びていた。