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ハーマイオニーとゴイルを連れて医務室に駆け込んできたソフィアを見て、マダム・ポンフリーは目を丸くした。
二人を正常な状態にするには少し時間がかかるらしく、ソフィアは授業に戻るように促され、渋々医務室を出る。先程の出来事を頭の中で反芻して、ソフィアはげんなりしていたのだ。
スリザリン生の態度は腹は立つが仕方がない。今までも、これからも相容れない立場に立っていくのがこの二寮だとソフィアは思う。創設者の代からそうだというのだから、ソフィアが頑張ればみんなが仲良くなれるというのはお花畑のような思考だ。
スネイプは教師として間違っているというより、人として間違っているとソフィアは思った。人を悪く言うことに裏があるとロンの件で知ったソフィアにも、スネイプの行動は不可解、そして不快だ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神だろうか。ハーマイオニーはハリーの親友だ。でも、それにしてはスネイプのソフィアへの態度は柔らかい気がする。ロンへのそれも比較的ひどくない。
マルフォイのような純血至上主義が彼にああいう態度を取らせるのかもしれない。ハーマイオニーはマグル生まれだ。ロンは純血で、ソフィアも魔法生物の血は入っていても純血だ。それでもハーマイオニーは優秀な学生で、勤勉で熱心な模範的生徒だとソフィアは思う。
(マグル生まれの秀才にコンプレックスでもあるのかしら…?)
「どうしたの?」
「わ…っ!」
驚いて振り向いた先にいたのはセドリックだ。ソフィアはほっと胸をなでおろした。授業中にほっつき歩いているのを、マクゴナガルあたりに見つかっていたら説教案件だ。
「なんかボーっとしてたけど」
「何でもないの…」
一人で考えごとをしていたせいか、ソフィアの足は止まっていた。不思議に思われても仕方がない。弱弱しく呟いて、ソフィアははたと止まった。
「セドリック」
「ん?」
「代表選手に選ばれたわね、おめでとう」
「ああ、ありがとう」
セドリックはふわっと笑った。
「ポッターと一緒にホグワーツの代表だよ。彼、どんな手を使ったのか教えてくれなかったんだけど、ソフィア知ってる?」
「セドリックまで…。違うの、ハリーは立候補してないの。だけど代表になっちゃった…」
「本当に立候補してない?」
セドリックは少し驚いたようだった。
「…でもそう言われてみると、そっちの方が自然だな。ムーディも言ってた、かなりの手練がゴブレットに錯乱の呪文をかけてポッターを架空の学校のたった一人の代表選手としたんだろうって」
「そんなことを?」
ムーディの見立てがソフィアの考えにしっくりきたので、ソフィアは感心してため息をついた。
「ディゴリー」
正面から歩いてきたのはダームストラングの代表選手、ビクトール・クラムだ。
「やあクラム」
セドリックの表情がぱっと華やいだのでソフィアは少し笑ってしまった。クラムはセドリックが憧れるクィディッチのスター選手だ。ふと視線を感じて、ソフィアはセドリックから目線を外して横を見た。クラムがソフィアを見ていた。
「この子、俺の妹のソフィア」
「えっ」
突然なにを言い出すのかと、ソフィアは目を見開いてセドリックを見上げた。クラムがまじまじとソフィアを見て、恐る恐る口を開いた。
「…人種が違う」
「あの、セドリック流の冗談ですよ」
頭の上にいくつも疑問符を浮かべ、大混乱のクラムにソフィアは冷静に突っ込んだ。
「はじめましてミスター・クラム、ワールドカップでのご活躍、お見事でした」
「ありがとう」
落ち着きを取り戻したクラムが、言われ慣れてるだろうセリフにさらりと返した。
「ディゴリー、代表が呼ばれているという部屋は、どこ?校長が先に行った…」
「ああ、案内するよ」
片言の英語を話すクラムにセドリックはにっこり言った。
「ソフィア、俺たち呼ばれてるんだ。またね」
「えぇ」
ソフィアがセドリックに小さく手を振ると、またクラムと目があった。小さくお辞儀をすると、向こうも同じようにぺこ、と頭を下げる。世界的に有名でクールな青年だが、拙い英語のせいでなんだか幼く感じる。あっという間に去っていった二人を見送って、ソフィアは足を上階へ向けた。