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 「ええ、そうね。ハーマイオニーは、とっても素敵な女の子よ」

 クラムが頷きながら、机から立ち上がったハーマイオニーを目で追っていた。ハーマイオニーは、一瞬クラムとソフィアへ視線を投げかけ、本棚に隠れているクラムの追っかけをしている女子学生の一団へ目線をずらした。彼女達の一人が腰に巻き付けているブルガリアのスカーフを見て、サッと顔を背けて足早に図書館を出て行く。ハーマイオニーは、クラムを追いかけまわしている女の子集団がどうしても気に入らないらしい。残されたハリーは、机に散らかしていた本を全て片付け終えると、ソフィアとクラムへ近付いて来た。

 「やぁ、クラム。あの、話し中悪いんだけど、僕、ソフィアに用事があるんだ。だから、その……ソフィアを連れて行ってもいいかな?」
 「構わない。ヴォくの用ヴァ、もう済んだ。ありがとう、ソフィア」
 
「読みたい本があるし、ここで別れよう」とクラムが言った。
 「ううん、いいの。ハリーはどうしたの?」
 「ここじゃ話せないことなんだ。僕と一緒に来て」

 神妙な面持ちのハリーに手首を掴まれたソフィアは、今日はよく連れ回される日なのかもしれないと思いながら、ハリーについて行った。

 ***

 「カルカロフ校長が元死喰い人?」

 いつもの玄関ホール脇の小部屋で、ハリーとハーマイオニーを正面に座るソフィアは、眉字を寄せた。ソフィアは、一瞬聞き間違いかと思って復唱したけれど、イゴール・カロカロフはムーディに捉えられアズカバンでシリウスと一緒に投獄されていたのだと、ハリーは言う。

 「僕も最初は信じられなかったよ。でも、シリウスが確かにそう言ったんだ」

 カルカロフは、軽刑を条件に魔法省と取引をし、自ら罪を認め、ほかの死喰い人の名前を吐いたことによって釈放されたのである。それ以降、ダームストラングに入学してきたすべての生徒に『闇の魔術』を教えてきたのだと。

 だから、ダンブルドアはカルカロフの動向を監視するために今年ホグワーツに闇祓いだったムーディを置いたんじゃないかとシリウスは憶測しているらしい。

 更に、シリウスは、新学期が始まる前にムーディが襲撃されたこともきな臭いと睨んでいた。ムーディが近くにいると、仕事がやりにくくなるということを知っている誰かがムーディがホグワーツに来るのを邪魔しようとしている。その「誰か」が、かつて死喰い人だったカルカロフで、彼がハリーの名前をゴブレットに入れた可能性があるとシリウスは気を張っているようだ。

 「それじゃあ、カルカロフ校長があなたの命を狙っているってことよね?」
 「そうかもしれない。どうやら最近『死喰い人』の動きが活発になっているらしいんだ。僕たちも、クィディッチ・ワールドカップで見ただろう? 『闇の行進』や誰かが『闇の印』を打ち上げたのを……それに、シリウスは行方不明になっているバーサ・ジョーキンズのことも気にしてた」

 バーサ・ジョーキンズと言えば、クィディッチ・ワールドカップのキャンプ場でルード・バグマンが口にしていた名前だ。確か夏の休暇が始まって間もなく、忽然と消息が途絶えてしまった魔法省勤めの魔女職員だった覚えがある。

 「アルバニアでいなくなった人ね?」

 ソフィアは、当時の記憶を辿りながら言った。

 「そうよ。アルバニアは、例のあの人が最後に居た場所だっていう噂がある場所そのものなの。彼女は、魔法省に務めていたから三大魔法学校対抗試合が開催されることを知っていたはずだわ。いくらなんでも、タイミングが良すぎると思わない?」

 ソフィアは二回ほど頷いた。もしもバーサがヴォルデモートに捉えられてしまったのだとしたら、どんな手段でも用いて魔法省の内情を洗いざらい吐き出させるだろう。となれば、ヴォルデモートはホグワーツで三大魔法学校対抗試合が行われることを知っているかもしれない。

 本当にカルカロフがゴブレットにハリーの名を入れたのかは分からないが、誰かが故意にハリーの名前を入れたのは、選抜があった時から分かっていた。他の生徒ではなく「ハリー」の名前が呼ばれたこと事態、不可解だ。水面下で静かに何かが動いているのを、ソフィアははっきりと感じていた。いくら魔法省やホグワーツの教員が死者が出ないよう配慮を重ねていたとしても、試合中はハリーを襲う絶好のチャンスだし、相手は本物の犯罪者なのだから、何が起きるかなんて誰にも分からない。

 「ああ、ハリー……」

 ソフィアが古いスツールから立ち上がり、ハリーを抱きしめた。強く抱きこまれたハリーは、おずおずとソフィアの背中を撫でて「大丈夫だよ、心配しないで」と呟く。しかし、ハリーは正気のない落ち込んだ目をしている。エメラルドの綺麗な虹彩が濁って見えた。

 「ハリー、強がらなくていいの。怖がっていいのよ。全部受け止めるから、ね?」
 「うん……怖いよ、すごく」

 ハリーの腕がソフィアの体に回り、服に皺が寄るほど強く握りしめられ、口許から震えた吐息が吐き出されて耳を擽られる。安心させるように背中を優しく叩くと、肩口にハリーの額が埋められた。

 第一の課題の猶予まで、残り二日間。

 すこしずつ、ホグワーツに闇が迫り来ているのをハリー、ハーマイオニー、ソフィアの三人は、はっきりと感じ始めていた。

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