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別れて作業をした三人だったが、ドラゴンを出し抜く妙案を見つけられないまま月曜の朝を迎えた。ハリーの顔色は悲惨で、もしソフィアがハリーだったら魔法界から逃げ出していたかもしれない。誹謗中傷や、親友との仲違い、立候補したわけでもない危険な課題に立ち向かわざるを得ない状況でも、ハリーは逃げない。彼にとって魔法界こそが生きていく世界だからだ。
「スプラウト先生、すみません」
ハリーは薬草学の授業が始まって十分してようやく第三温室に現われた。スプラウトはハリーの遅刻に眉をひそめたが、特に反応することなく授業を続けた。
「ハーマイオニー、ソフィア」
ハリーは『ブルブル震える木』を剪定するソフィアとハーマイオニーに小声で声をかけた。
「助けてほしいんだ――」
「ハリー?わたしたち、これまでだってそうしてきたわ」
ハーマイオニーが気遣わしげに言うのに、ソフィアは同意して頷いた。ハリーはほっと息をつき、口を開く。
「『呼び寄せ呪文』を、僕はきっちり覚えなきゃいけない」
***
ハリーはセドリックに第一の課題がドラゴンを出し抜いてなにかをすることだと伝えに行ったらしい。代表選手の足並みをそろえなければ公平ではないという理由からだ。ハリーが道徳的な男の子だというのは紛れもない事実だった。悪知恵が働く人物なら、自分より悪い結果を残す誰かを期待するものだ。ムーディに見とがめられたのかと思ったらしいが、ムーディはハリーにちょっとしたアドバイスをしてくれたらしい。
『自分の強みを生かせ』。ハリーは、自分の強みは空を飛ぶことだと思っている。杖以外の持ち込みは禁じられているが、『呼び寄せ呪文』は禁じられていない。ハリーは試合会場でファイアボルトを呼び寄せることにしたという。
「集中して。ハリー、集中するのよ」
「これでも頑張ってる」
ハリーはいらいらとハーマイオニーに返した。昼食を抜いて、三人は空き教室に籠っていた。ハリーは『呼び寄せ呪文』をなかなか成功させられず、床にいくつも本や羽ペンが落ちている。ハリーの手元まで飛んでいく途中で失速して床に落ちてしまうのだ。
「頭に巨大なドラゴンがちらついて離れないんだ――」
「ねえ、ハリー…?」
ソフィアは床の羽ペンや教科書を拾い上げて、教室の隅に運びながらハリーに声をかけてみた。
「ハリーが上手くいくって信じなきゃ、上手くいくことも上手くいかないよ。自分を信じて」
それを聞いたハリーはソフィアに頷いた。
「そうだね。…よし、もう一回だ」
「よくなったわ、ハリー。とっても」
ハーマイオニーは疲れ切った顔で、でもとても嬉しそうに言った。
「僕、これから呪文が上手く使えないことがあったらこうするよ」
ハリーはそこで言葉を切って杖を振った。
「アクシオ!」
重たい辞書がハーマイオニーの手を離れ、部屋を横切ってハリーの手に収まった。
「ハリー、出来たわね…!」
「成功よ!」
ソフィアとハーマイオニーが拍手すると、ハリーはにやっとした。
「ドラゴンが来るって、僕自身を脅せばいいのさ。…だけど、ドラゴンの目の前でも出来るかな?」
さっと表情を変えたハリーにソフィアは意気込んだ。
「ハリーは椅子も、チェスセットも、ネビルのトレバーも呼び寄せられたよ」
「ファイアボルトはここにあるものよりずっと遠いところにあるんだ。城の中、僕は外の競技場…」
「関係ないわ」
ハーマイオニーはハリーにきっぱり言った。
「距離は関係ないわ。あなたが集中しさえすればね。さあ、ハリー、わたしたち、少し寝ましょう。あなたには睡眠が必要よ」
談話室の時計は午前二時過ぎを指している。ハリーは頷いて、三人は各々自分の部屋に引き上げた。