30

 第一の課題当日――クィディッチの競技場が、今年は驚くほどの変貌を遂げていた。観客席はいつもより高く広く、グランドは荒野のように岩が敷き詰められている。先ほどバーティ・クラウチから課題の内容を聞き、驚きと興奮の渦が出来上がっていた。
 岩の合間に置かれた卵を守るドラゴン。それを出し抜き、卵を取るのが課題だ。ドラゴンと卵以外は全て魔法で作られている。しかし、天然物の感触がしたことに驚く者はいなかった。

 「大丈夫かしら……」

 心配だわ、とハーマイオニーが隣で言った。ホイッスルが高らかに鳴らされた。瞬間、歓声が停止したかの如く場内が静まり返る。
 いよいよ課題が開始される――期待と緊張が同時進行で沸き立っていくのを、ソフィアは雰囲気で感じた。ハリーが出てきたのは四番目。一番最後だった。

 「いよいよだわ!」

 ホイッスルが鳴った。ハーマイオニーがソフィアの腕にしがみついた。ロンも目をこれ以上ないくらいに見開き、下の荒野を凝視している。グリフィンドールの生徒が今までの倍以上の歓声をあげた。寮旗を何本も閃かせ、ハリーがテントから出てきたのを確認するとその内の何本かが高く投げられた。

 「アクシオ・ファイアボルト!」

 ハリーは叫び、待ち、そしてファイアボルトにまたがって空高く舞い上がった。ホーンテールがその動きを追う。
 こぶしを握り締めて、ソフィアはハリーの一挙一動を見守る。ハリーがくるくるひらひら旋回すると、その動きにあわせホーンテールが首を動かし、火を吹き、尻尾を振るう。炎を避けたハリーの肩をホーンテールの尾のとげがかすめてローブを裂いた。それでもハリーはひるまなかった。射程圏内の外で、ホーンテールを挑発するように飛ぶハリーに、しびれを切らしたホーンテールが前足を卵から離して金の卵が無防備になった瞬間。ハリーは急降下して、あざやかに金の卵を掴んだ。

『"やりました!最年少のポッター選手が最短時間で卵を取りました!"』


 テントに入ると、椅子に座って居るハリーに、ソフィアは飛びついた。それをハリーは笑みを浮かべながら受け止めてくれる。

 「良かった、ハリー…私…っ」

 ギュッと抱きしめ涙目でいうソフィアにハリーは軽く笑うが、ソフィアは離れようとはしなかったし、ハリーも無理に離そうとはしなかった。

 「ハリー!あなた素晴らしかった!すごい!本当に!」

 ハリーはハーマイオニーに笑顔で頷いて、それからハーマイオニーの後ろで幽霊のように青白い顔をしているロンを無表情で見る。ソフィアは息を呑んだ。

 「ハリー」

 ロンの声はかすかに震えていたが、ロンはぎゅっとこぶしを握ってハリーをまっすぐ見た。

 「きみの名前をゴブレットに入れた奴が誰であったにしろ、僕――そいつがきみを殺そうとしてるんだと思う」
 「ようやく気がついたってわけ?」

 ハリーが冷たい声色で言うと、ロンが小さく揺れた。ハーマイオニーは男の子二人を心配そうに交互に見ている。

 「ずいぶん長いことかかったな」

 ハリーはそう言って、最後ににやっと笑った。

 「ハリー、僕――」
 「いいんだ、気にするな」
 「僕、もっとはやく――」
 「気にするなって」

 ロンはこの一カ月弱の自分の態度を謝りたかったのだろう。でもハリーはそうはさせなかった。もう心が通じ合っているからだと思う。やっぱり、ハリーの一番の友だちはロンなのだ。

 「あなたたちって――」

 ハーマイオニーの言葉は続かなかった。感極まったハーマイオニーが泣きだすと、男の子たち二人は面白いくらいにおろおろした。

 「泣くことないじゃないか――」
 「二人とも、本当に馬鹿よ!」

 ソフィアごと二人を抱きしめると、わんわん泣きながらテントを駆け出して行く。

 「どうなってんだ?」

 ロンが困惑してソフィアを見る。

 「ふふっ…私はハーマイオニーを探してくるわ。また後で…ハリー、本当に素晴らしかったわ。クリアおめでとう」
 「ソフィア」

 ソフィアが首を傾げると、ハリーは眉を下げてソフィアに言う。

 「いつも力になってくれてありがとう。これからもよろしく」

 ハリーがそういう行動に出るのが意外過ぎて固まったが、この文化圏では挨拶のようなものだ。ハリーもさきほどのハーマイオニーに感化されているのかもしれない。

 「う、うん。よろしくね、ハリー」

 真っ白い頬をほんのりピンク色に染めたソフィアは、少し戸惑いながらもその表情は嬉しさで一杯だった。

ALICE+