33

 一週間が経った。クリスマスにホグワーツに残る希望者リストに、こんなに大勢の名前が書き込まれるのをソフィアは初めて見た。四年生以上は全員残るようだったし、女子学生は全員ダンスパーティのことで頭がいっぱいのようである。廊下や空き教室の隅で数人の女の子たちの塊りが、男子学生たちを品定めしてキャアキャア騒いだり、クリスマスの夜に何を着て行くかの話に夢中になっていた。

 四年生以上の生徒の殆どがダンスパーティの事で頭がいっぱいのようだった。それはハリーとロンにも例外ではなく、普通の女の子はいつもまとまって移動する事に眉をしかめているようだった。
 ソフィアは結局、ハリーが自分ではない女性を誘うのに夢中という事を見ていられなく、一人で行動する事が多くなった。そしていつの間にか、次の課題までには、誰がヴォルデモートの手先か考える為には丁度いいのかと、ソフィアは思い一人考えに耽るようになっていった。が、それも思うようにはいかない。

 「ソフィア、良かったら一緒にダンスパーティに行かないか?」
 「ごめんなさい。他を当たって下さい」

 そう、名前も知らない男性からこうやっていきなり頻繁に声をかけられるのである。ラベンダー達の言う通り、ソフィアは男子から憧れの的として見られているようだ。

 学期の最後の週になるとその騒がしさは最高潮となり、フットフリック先生はその状態にお手上げで、最後の授業はゲームをして遊んでもいいと授業を投げてしまったが、それとは反対にスネイプは最後の授業で、解毒薬のテストをする、と意地悪そうな笑みを浮かべて言い放っていた。

 「ソフィア、パートナーは決まった?」
 「いいえ、まだよ」

 本当? とハーマイオニーは面食らった後、「実は私もまだなの」と。今度は、ソフィアが意外に思う番だった。

 「……ロンから誘われていないの?」
 「どうやら、あの人には私が女の子に見えないみたい。顔さえ良ければ性格なんてどうでも良いって感じなのよ。エロイーズ・ミジョンのこと、鼻が曲がっているなんて失礼なことを言うし、デリカシーが無さすぎるわ!」
 「私も…ハリーには女の子として見られてないのかな」
 「そんなことないわよ!」
 「私、ハリーが何人かの女の子から誘われているところを見たの。全部断っているみたいだけど」

 第一の課題を突破して以来、ハリーの周囲は状況が改善した。みんなハリーがドラゴンをやっつけてから、まるで掌を返したみたいに廊下で投げかけられる言葉は悪態から賞賛に変わったし、「セドリック・ディゴリーを応援しよう」バッジもあまり見かけなくなってきた。確かに今までのハリーへの酷い態度がなくなったことは喜ばしい。しかし、恋する乙女であるソフィアからしてみれば複雑な状況でもあったのだ。

 一通り話題が尽きて、ソフィアとハーマイオニーの間に沈黙が流れた。気まずい沈黙ではなく、穏やかな心地の良い沈黙である。優しく肌を撫でる風も、冷たければ爪を立てて引っ掻いていくように二人のローブをはためかせ、身体をぶるりと震わせた。かじかむ指先を擦り合わせて温めていると、唐突にハーマイオニーが「話は変わるんだけど……」と切り出す。

 「ソフィアの言う通りクラムはそこまで悪い人じゃなかったわ。彼、私と話がしたくて毎日図書館に来ていたんですって。実はね、夕食の後も彼と約束をしているの。クラムは私の名前の発音が上手く出来ないみたいだから、会った時にハーミーって呼んでもらおうと思っているんだけど、どう思う? やっぱり変かしら?」

 あんなにクラムのことを疎ましく思っていたハーマイオニーが、急にクラムへ好意的な印象を抱いていると語られたソフィアは放心し、瞠目した。ハーマイオニー自身も、彼を思い改めることにした自分を打ち明けるのが照れ臭かったようで、ソフィアが何も言っていないにも関わらず、慌てて「そうよね、変よね」と癖の強い栗色の髪を撫でつける。

 「変じゃないわ、ハーマイオニー」

 恥ずかしさを隠して髪を撫で続けているハーマイオニーの手を取り、止めさせて体ごとこちらに向けさせた。ハーマイオニーと親しくなりたがっていたクラムは、紳士的に真髄に彼女に対して接したのだろう。いつの間にか距離を縮めていた微笑ましい二人に、ソフィアまで嬉しくなった。

 「喜ぶと思う。前に私とクラムが図書館にいたとき、あなた達と会ったことがあったでしょう? あの時ね、クラムったら私にハーマイオニーのことばかり聞いて来たのよ」

 ソフィアの言葉にハーマイオニーは頬を赤らめて可愛らしく微笑んでいたのが、印象的だった。

 ***

 学期最後の週は、日を追って騒がしくなった。ホグワーツでは、ダンブルドアが、マダム・ロスメルタから蜂蜜酒を八百樽買い込んだだとか、「妖女シスターズ」の出演を予約したとかいう噂が飛び交っていた。「妖女シスターズ」は、魔法界でとても有名なバンドで、無論生徒たちにも大人気であり、彼らに関する噂が事実だと判明してからは、クリスマスが待ち遠しくてみんな異常に興奮していた。
 
 そしてそんな中、ついにソフィアを仰天させる出来事が起こった。友人たちと違い、午後が空き時間のソフィアは昼食をゆっくり食べて大広間を出た。玄関ホールでよく見知った顔がソフィアに近づいてくる。セドリックだ。

 「やあ、一人?」
 「え、えぇ」

 普通の挨拶を交わしただけだと思った。しかし、

 「じゃあちょうどいい。ソフィア、俺とパーティーに行かないか?」
 「……え、」

 まるで午後のお茶にでも誘うかのように、セドリックは照れた様子もなくさらりとソフィアに言った。驚くのはソフィアばかりだ。玄関ホールに人影はない。

 「な、な、何故?」

 驚いたあまり挙動不審気味になるソフィア。まさか知り合いから誘われるとは思ってもみなかったからだ。一方でセドリックはかなり落ち着いている。

 「何でって、俺がソフィアとダンスパーティーに行きたいと思ったから。これじゃ理由として不十分かい?」
 「そういうわけじゃ……」
 「良かった。じゃあ、早速返事を聞こうかな」

 爽やかな笑顔のセドリックに、ソフィアはチクリと胸が傷んだ。もう既に自分の答えは決まっているから。

 「……ごめんなさい、一緒には行けない…」
 「…そっか、分かったよ」

 セドリックは少しだけ悲しそうな瞳を見せて、すぐにまた笑顔を作った。まるで、ソフィアが心配しないよう気遣ってくれたように。

 「キミはやっぱりハリーが好きなんだね」
 「…っ!?」
 「ハハハ、ほんとに分かりやすい」
 「か、からかわないで…っ」
 「ごめんごめん、もうしないよ」

 笑いながら言うものだから、ソフィアは少し頬を膨らませて怒っていることを表現したが、彼には全く伝わっていない。寧ろ何だか嬉しそうだ。

 「もうハリーに申し込まれた?」
 「…まだ」
 「そうなのかい?てっきり、ハリーと約束してるからだと…」
 「ハリーは…別の女の子に夢中なのよ…」

 伏し目がちに呟いたソフィア。

 「……ソフィア、俺は――」
 「それじゃあ、またね」

 セドリックの言葉を遮って、足早にその場を立ち去っていった。綺麗な銀髪は風に揺られてキラキラと輝いて見える。

 「…キミのことが好きだと伝えたら…また怒られるかな」

ALICE+