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 ロンはラベンダーとパーバティにぎちぎちに絞められたのか、翌日ソフィアにかなり気を遣って声をかけてきた。
ソフィアはそれを適当にかわして談話室から出た。

 昨晩ハーマイオニーにああは言ったが、ソフィアはやはり寮でゆっくり過ごす気持ちでいた。ホグワーツ中の好意のベクトルがいろいろな方向を向いていて、ソフィアはなんだかもう疲れてしまったのだ。

(せっかくシリウスが選んでくれたのに…申し訳ないこと、しちゃったな…)

 マフラーに顔をすっぽり埋め、ふくろう小屋を目指してうすら寒い廊下を進む。シリウスに断りの手紙を出そうと思ってきたのだ。ふくろう小屋が見えてきたところで、外が猛吹雪なのを見てソフィアは身震いした。手紙を出してさっさと談話室に帰り、暖炉の前で温まりたい。

 「おい」

 静かな廊下に響いた声にソフィアは振り返った。マルフォイだ。お付きの者は見当たらない。談話室が地下にあるはずの彼がどうしてここにいるか考え、地下にあるからこそ同じ用件、ふくろう小屋に来たのだろうと思い至る。
 どういうわけか、ソフィアをまっすぐ見ている気がする。ソフィアはまず右を見た。それから左。うすら寒い廊下には人っ子一人いない。

 (私…?)

 ソフィアは訝った。

 「あの、何…?」

 お前なんぞに声をかけたわけではないとマルフォイが嘲笑で通り過ぎてくれるのがベストだ。

 「ダンスパーティーの相手は決まってるのか?」

 三メートルは離れたところに立っていたマルフォイが大股で近付いてきた。ソフィアは思わず後ずさる。

 「まだだけど、関係ないわよね…?」

 パーティーの相手がまだ決まっていないことをからかうのだろうか。いや、そんなことでわざわざ話しかけてくるのはおかしい気がする。いつの間にかすぐそばまでやってきたマルフォイを怖々見上げて、ソフィアは眉を下げた。

 「僕と来い」
 「え…?」

 ソフィアは目を見開いて目の前の男の子を見た。

(どこに…?)

 ぐりんぐりん脳みそが回る。どこにと問われれば、パーティーだという答えが返ってくるだろう。マルフォイがソフィアをパートナーに誘う?ソフィアはこんなことはあり得ないと思い、一つの考えが浮かんだ。

 「…な、何をするっ!?」
 「熱はないようだけど…」
 「あるわけないだろ!馬鹿かキミは!」

 まさかドラコが風邪でも引いて、頭が可笑しくなったのではと、ソフィアは彼のおでこと自分のおでこを重ねてみたのだ。しかし、顔が赤い割に熱があるわけでもなかった。それでもマルフォイに熱がないとなると、ソフィアはもうただただびっくりするしかなかった。
 マルフォイがソフィアを誘うのがありえないことなら、ソフィアがその誘いを受けるのもありえないことだ。ソフィアの発言は彼にとっての逃げ道を作ってやったようなものだったのに、馬鹿かと鼻で笑われた。というか今逃げるべきはソフィアの方だ。
 このドラコ・マルフォイという男は、怖い。その一言に尽きる。

 固まったままのソフィアを薄青の瞳で意地悪そうに見て、マルフォイは長い腕をドンと壁に押し当てた。壁とマルフォイの間に挟まれて、ソフィアの脳内で非常警報が鳴り響く。

 「さっさと返事したらどうだ」

 大きく目を見開いてマルフォイを見上げるソフィアを、マルフォイはやれやれという風に見た。
 喋ったことのない他寮生に誘われても、ここまで怯むことはなかった。ただ彼は別だ。ソフィアの認識が正しければ、マルフォイは今までもこれからもソフィアとは相入れない立場に立っている男の子だ。その認識が間違っているとも微塵も思わない。

 「む…――」

 無理です、そう言おうとしたときだ。

 「チョウ!」

 梟小屋の方から聞きなれた声がした。マルフォイから目を離し、振り返ってみるとハリーがいた。そしてそこには彼の憧れのチョウ・チャンもいた。

 「よ、良かったらボクとダンスパーティー行かない…?」

 ソフィア達のところからハリー達は見えるが、ハリー達からソフィア達のことは見えないようだ。彼は今かなり大きな声でチョウを誘っていた。緊張からか、焦ってしまったようだ。

 「へぇお偉いポッターじゃないか。あいつはレイブンクローの者を誘ったみたいだが………ってオイ、どうした」

 ドラコは驚いた顔をしていた。ソフィアの顔を覗き込むと、彼女の瞳はウルウルと揺らいでいた。それは、まるで透き通った海が凪いでいるかのようだ。僅かに一筋だけ涙が流れていた。口をぎゅっと固く結び、決して声が漏れないようにしている。それはとても痛々しかった。

 「お前…」
 「っ…ぅ…」

 ついにはしゃがみ込み顔を膝にうずめたソフィアに、ドラコはどうしていいか分からず、彼女と同じ目線になるようしゃがみ込んだ。それから、不器用な仕草で優しくソフィアの背中をさすっていた。

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