大広間へと続く二重扉を開けると、一年生の誰からともなく感嘆のため息が漏れた。

「…すごい」

ハリーは集まる視線に緊張しながらも、広間全体を見渡さずにはいられなかった。
何千という蝋燭が空中に浮かび、四つの長テーブルを照らし出している。
テーブルには各寮それぞれの上級生が既に着席しており、卓上には金色に輝くゴブレットと皿が置いてあった。
広間の上座にはもう一つ長テーブルがあり、そちらは教員用になっているようだ。

マクゴナガルは一年生を教員席の前まで連れて行くと、上級生側を向くよう横一列に並ばせた。
広間中の視線が一斉に一年生たちに突き刺さる。
こちらを見る何百という顔が蝋燭の灯りに照らされて、青白いランタンのように見えた。
その中に点々と、ゴーストだけが銀色の霞のように煌めいている。

広間は蝋燭のおかげか魔法がかかっているのかとても暖かい。
しかしソフィアは緊張して、手足が冷えていくのを感じた。
助けを求めるように、右隣に立つハリーの袖を握る。

「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」

ハーマイオニーが誰かにそう説明しているのが聞こえた。
そこに天井があるなど、とてもではないが信じられない。
大広間はまさに天空に向かって開いていると思えるほど、目の前に広がる空は本物そのものに見えた。

ハリーが緊張も忘れて空に魅入っている間に、マクゴナガルが一年生の前に四本脚のスツールを置き、その上によく魔法使いがかぶっているとんがり帽子を乗せていた。

その帽子は、この綺麗な城の中で一際浮いているように思えた。
何故なら帽子のあちこちはツギハギだらけだし、ボロボロでとても汚らしかったからだ。
スツールの上で本来の三角帽子の形を保てずにくたびれていて、相当な年季が入っていることは明らかである。
しかし、何故こんな帽子が?と怪奇な表情を作って眺めていると、くたびれていた帽子が歌いだした。

私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの

グリフィンドールに入るなら
勇気ある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
ほかとは違うグリフィンドール

ハッフルパフに入るなら
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない

古き賢きレインブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
必ずここで得るだろう

スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る?
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ

かぶってごらん! 恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!

歌が終わると、広間は大きな拍手の音で包まれた。
隣ではロンが正しい組分けの方法を知って安堵し、嘘を教えた双子に悪態を吐いている。
すぐにマクゴナガルが羊皮紙の巻紙を手に前に進み出た。

「名前を呼ばれた者から順に帽子を被って椅子に座り、組分けを受けて下さい」

マクゴナガルによって次々に名前が呼ばれ、組分けを終えた生徒が一人ずつ広間の長テーブルへと駆けていく。
並んだ生徒が一人、また一人と減っていく中、隣で黙って組分けされていく生徒たち。

「グレンジャー、ハーマイオニー」

ハーマイオニーが呼ばれた。
彼女は椅子へ駆け寄ると待ちきれないというように勢い良く帽子を被り、固唾を飲んで組分けの宣言を待った。

「グリフィンドール!」

帽子が叫んだ途端、歓声に紛れて左隣でロンが呻いたのが聞こえた。
その後に呼ばれたネビルやドラコもそれぞれ寮に選ばれていく。
残った生徒はあと数名しかいない。

「ハリー・ポッター」

名前を呼ばれハリーは椅子へと座ると、半ば機械的に腕を動かし帽子を被った。
広間中が静まり返り、生徒や教員総ての注目が自分に集まっている事になどハリーは気付きもしなかった。
組み分けは難航しているようだった。かなり長い間、ハリーは帽子を被ったまま。

「グリフィンドール!!」

けれど次の瞬間には割れるような歓声がグリフィンドール席から沸き上がった。
ハリーを迎えようと、上級生たちは全員立ち上がった。

広間が興奮を押さえきれない状態のまま、それでも無理矢理静かになるとハリーは教員の席に目を向けていた。
組み分けも残すところあと数人となり、次はロンの番になった。
ロンは青ざめていたが、帽子を被るとすぐに帽子は「グリフィンドール!」と叫んだ。
皆は大きく拍手をし、ウィーズリー兄弟らが一番にロンを歓迎した。
気がつけば、残りはソフィアがたった一人、未だに組み分けの儀式を待っている。
よりにもよって最後。注目を浴びる格好の的だった。
居心地の悪さが、チクチクと体中を突き刺してくるような感覚に目眩がする。

「ソフィア・エムリス」

マクゴナガルの厳格な声に呼ばれ、なるべく顔には出さないように、しかしやや顔をしかめて前へ進んだ。
伸びた背筋の黒いローブの上で、彼女の白銀の髪が踊る。
黒いローブに、ソフィアの白銀は映えすぎる。

まして真珠のような少女の真っ白な肌と顔つき。
その美貌は助長されすぎており、まさしく今にも強烈な光を放って消えてしまいそうなほどの儚さを醸し出していた。
美しすぎる姿に、危うさも滲ませながら。

明るい日の目の下に現れてはいけないとすら思わせるほど。
彼女のような花が咲いていたとしたら、誰もが摘み取ってしまいたくなる。

上級生や新入生は、息を飲んで動けなくなり、気味の悪い沈黙が大広間に訪れた。
四脚椅子に腰掛けたソフィアは、目深に組み分け帽子をかぶる。

「フーム……君の心に空白が見える」

帽子は、開口一番に低い声でそう言った。

「そして燃えるような何かが君の中に眠っている。私が感じるのは君の血の強さだ。それもとても偉大な……。
君は力もある、才能も」
「そ、そんなのありえない…」
「君は自分を卑下しすぎだね。でも……君の体内に流れる血が私に語りかけてきている。君は……グリフィンドール!」

帽子の言葉と共に、グリフィンドールの席は歓声に溢れた。
それにはソフィア自身が一番驚いていた。
グリフィンドールの生徒達は皆、嬉しそうに立ち上がったり喜びを分かち合っていたりと、どこからどう見ても自分は歓迎されているからだ。

「ソフィア・エムリス」

会場中が湧き上がるなか、ソフィアは後ろから帽子に声をかけられ振り向いた。

「君に幸運が訪れるようにと祈っているよ」

組み分け帽子に一礼して、ソフィアは今までで一番の割れるような歓声と拍手喝采に沸く中、ふらふらと覚束ない足取りでグリフィンドールの席へと歩を進める。
そしてハリーを見つけ、駆け寄るように傍に行くと、今までの不安や緊張が一気に抜け落ちたからなのか、彼に思いきり抱き付いた。
その時、ハリーの隣でロンが声のない悲鳴を上げたが、周りの歓声により打ち消されていた。

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