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 大広間は、昼間の状態とは様変わりしていた。壁はキラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く暗い天井の下には、何百と言うヤドリギや蔦の花綱が絡んでいる。各寮のテーブルは消えて無くなり、代わりにランタンの仄かな灯りに照らされた、十人ほどが座れる小さなテーブルが百余り置かれていた。それらのテーブルが代表選手以外の生徒達で埋まると、代表選手の入場が始まる。

 大広間に集まった全員が着席したが、金色に輝く皿には何も現れず小さなメニューがあるだけだった。しかし、メニューを眺めていた一人の男子学生が「ローストチキンが食べたいな」と呟くと、希望通りにローストチキンが現れたので、同じテーブルに座った生徒たちはそれぞれ自分の食べたい物を自分の皿に向かって注文し始めていた。

 食事を食べ尽くしてしまうと、立ち上がったダンブルドアから生徒達も立ち上がるよう促された。そしてダンブルドアが杖を一振りすると、テーブルは一斉に壁際に退き、大広間の中央に広いスペースが作り上げられる。そこから更に右手の壁に沿ってステージを立ち上げ、ドラム一式とギター数本、リュート、チェロ、バグパイプが設置された。

 いよいよ「妖女シスターズ」が、熱狂的な拍手に迎えられ、ステージに上がると会場のボルテージは最高潮に達した。メンバーは全員異常に毛深く、着ている黒いローブは、芸術的に破られていたり、引き裂いてあったりした。彼らがそれぞれのポジションの楽器を取り上げ、スローな物悲しい曲を奏で始めると、代表選手たちは煌々と照らされたダンスフロアに歩み出て踊り出す。

 拍子に合わせてステップを踏み、ターンをし、女の子を抱き上げて下す。一連の動作を繰り返しているうちに、ダンブルドアがマダム・マクシームの手を取ってフロアに出てくる。ダンブルドアの三角帽子の先が、やっとマダム・マクシームの顎をくすぐる程度の身長差あったので、ダンブルドアはどうやってマダム・マクシームを抱き上げるんだろう? とみんなが思ったが、二人は楽しそうにワルツを踊り始めた。それがダンスタイムの合図だ。観客に徹していた他の生徒や先生方も関係なく、大勢がダンスフロアに出て行き、みんながそれぞれに踊り始めた。

 一方でソフィアは、代表選手であるハリーがバーパティと踊っている様子を黙って見つめていた。恐らくハリーは最終手段で彼女を選んだようだ。それはバーパティ自身も知っている。ただハリーが「代表選手」であるから、その肩書だけでも踊るには申し分ない相手だから了承したのだ。
 しかしソフィアはそれでも誘われなかった。一年生のときからずっと近くにいたのに、何も伝わっていなかった。そんなことを考えているソフィアに対し、隣に立っていたドラコは突然、グイッとその白く細い手首を掴みフロアに歩み出したのだ。

 「僕たちも行くぞ」
 「え、わ、私…」
 「馬鹿かキミは、ずっとここで突っ立っているつもりか。そんなパーティ聞いたことはないぞ」
 
 ドラコはそう言って半ば強引にソフィアをフロアへと引っ張った。
 フロアに出たソフィアは咄嗟に右手でドラコの手を取り、左手は彼の肩に置き、不慣れながらにも懸命にドラコのステップについて行った。

 「あの…私、ダンスは、そんなに得意じゃないんだけど…」
 「構わん。これでも幼少の頃から、こういった行事には慣れている。どんなに下手な足使いでもリードぐらいできるさ」
 「……そう」

 ドラコはさも当然のように自身を持って言っているだけあって、ソフィアよりは足使いが慣れている。スローテンポな曲のおかげで、リードもソフィアには難しすぎず、優しすぎずで調度良い。バグパイプが最後の音を震わせるまで二人はきっちり踊りきると、一度ダンスフロアから外れることにした。
 
 「飲み物を取ってくる」
 「分かったわ」

 慣れないことをすると途端に疲れて熱くなるもので、少し火照った顔のソフィアにそう言い残し、ドラコは立食席の方へと歩いて行った。それを見送り、一人で立っていたソフィアだったが、突然後ろから誰かに腕を掴まれ、驚きで振り返るとそこにいたのは神妙な面持ちのハリーだった。

 「ちょっと来て、ソフィア」

 有無を言わせないような雰囲気の彼に、ソフィアは何も言えず、ハリーに引かれるがまま大広間を出て行った。

 ***

 「キミ、正気かい!?」
 「……えぇ。私はいつも通り、至って正気ですよ」

 ハリーに連れてこられ、ソフィアは大広間から少し離れた階段下にいた。今は皆、パーティに夢中でソフィアたち以外誰もいない。そして着いた途端、開口一番にハリーの口から出た棘のある言い方に、若干ムッとしてしまった。
 
 「どうしてマルフォイの奴とペアなんて組んだのさ!」
 「私が誰を選ぼうと私の勝手でしょう。…放っておいてよ」
 「キミだって知ってるだろ!?アイツが今まで僕たちにどれだけ馬鹿にしてきたか!キミがそんなに愚かな人とは思わなかったよ!」
 
 プツンとソフィアの中で何かが切れる音がした。

 「――……そこまで言うならお教えしてあげるわ!」

 ソフィアはこれまで自分の感情を、人前でこんなに露にすることはなかった。特にこのように激情したようなところなど。だからハリーはつい戸惑ってしまい、今までの威勢はどこへやら。たじろいだように応えた。

 「なにを?」
 「今度から真っ先に私を誘えばいいじゃない!私の選ぶ人に文句を言うぐらいなら、その方がいいんじゃなくて…!?」
 「…な、何を言ってるんだよ」
 「私の気も知らないで、自分勝手に振り回さないでよ!!」
 「キミのことなら良く知ってるよ!何年の付き合いだと思ってるんだい!」
 「ハリー、全然分かってない…!もういい!今日はもう貴方の顔見たくない!」
 「だからどうして―――「エムリス!」

 二人の大声を上げた口喧嘩に第三者が現れた。ソフィアの今日のパートナーであり、ハリーの天敵でもあるドラコ・マルフォイだ。どうやらフロアにソフィアがいないことに気づき、探しにきたようだった。
 そしてドラコは二人の只ならぬ雰囲気と、ソフィアが今にも泣きそうに目に涙を溜めている姿を見て、何かを察したように険しい顔つきで、つかつかと近づいてきた。

 「行くぞ、エムリス」
 「待て、マルフォイ。彼女をどこへ連れて行く気だ」
 「ポッター、キミは自分のパートナーと一緒じゃなくていいのか?それともフラれたか?お前のおそまつなリードにでも呆れて」
  
 今度はドラコとハリーの口喧嘩が始まりそうだった。二人が対面するといつも何か喧嘩が始まる。しかし、今日ばかりは普段と光景が違っていた。いつもハリーの後ろにはソフィアがいたのに、今日はドラコの後ろにソフィアがいるのだ。ドラコはまるでハリーからソフィアを守るかのように壁になって立っているのであった。
 しかし動いたのはソフィアだった。もうこの場にはいたくないのか、溢れる涙を片手でぬぐいながらその場を足早に立ち去っていったのだ。

 「ソフィア!」「エムリス!」

 二人の声が重なる。するとドラコはハリーへと向き直り、

 「今日ばかりはその無能な頭を呪うべきだポッター!」

 そう言い捨てると、ソフィアの後を追って走って行ってしまった。

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