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 日曜日の朝、ソフィア、ロン、ハーマイオニーの耳に衝撃の事実が飛び込んできた。大広間へ向かう途中の廊下で、マクゴナガル先生とフリットウィック先生がひそひそと何やら話し込んでいたのだ。側を通りかかるふりをして、聞き耳を立ててみると、なんとグリフィンドール一年のコリン・クリービーが昨夜石になって医務室へ運ばれたというのだ。三人の心臓が一瞬にして凍てつき、ハーマイオニーは深刻な面持ちで「すぐに薬の調合に取りかからなくちゃ!」と宣言した。そして、朝食が終わるとソフィアは真っ先にハリーを迎えに行き、
 ロンとハーマイオニーはポリジュース薬に取りかかるために先に「嘆きのマートル」のトイレに行くと言って、大広間の前で分かれた。ソフィアが図書館の前を通り過ぎようとした時、ちょうどハリーとパーシーが話しているのを見つけた。

 「…おはよう…ハリー、パーシー」
 「やぁ、ソフィア。君もおはよう。」

 パーシーは随分機嫌が良さそうだった。昨日の試合でグリフィンドールが勝利したおかげで50点も獲得し、寮杯獲得のトップに躍り出たかららしい。ソフィアはハリーの隣に立って、さり気なく右腕を確かめた。しっかり骨は入っているようだ。ハリーはどこかそわそわしながら、パーシーを横切ろうとした。

 「それじゃ、僕たちは行くよ。パーシー」
 「ロンはまさかまた女子用トイレなんかにいやしないだろうね……」

 ハリーは無理に笑い声をあげて見せた。ソフィアも同様に曖昧に笑った。パーシーの姿が見えなくなるところまで来ると、ソフィアは「…そのまさかなんだけどね」とハリーにだけ聞こえる声で呟いた。

 「僕、君たちに話したいことがあるんだ。」
 「コリンのこと…?」

 ハリーはまさしく言おうとしていた話題を先に出され、面食らって口をぱくっとさせた。

 「もう知ってるの?」
 「うん。ハーマイオニーたちも、知ってるよ。今朝、先生たちが話してるのを聞いて……ハーマイオニーがすぐに薬の調合を始めなきゃって―――だから急ごう」

 ソフィアとハリーは横に並んで、急ぎ足で三階の廊下へと向かった。フィルチも監督生も、誰も周りにいないことを確かめてからトイレのドアを開けると、二人の声が内鍵をかけた小部屋の一つから聞こえてきた。

 「ロン、ハーマイオニー、ハリーを連れて来たよ」
 
 ドアを後ろ手に閉めながらソフィアが声をかけると、小部屋の中からゴツン、パシャ、ハッと息を呑む声がした。ハーマイオニーの片目が鍵穴からこっちを覗いた後、小さく開いてソフィアとハリーを小部屋に入れてくれた。古い大鍋が便座の上にちょこんと置かれ、パチパチ音がするので、鍋の下で火を焚いていることがわかった。防水性の持ち運びできる火を焚く呪文は、ハーマイオニーの一年生の頃からの十八番だった。ハリーがぎゅう詰めの小部屋の内鍵をなんとか掛け直した時、ロンが「ここが薬を隠すのに一番安全な場所だと思って」と、二人に説明した。――が、狭すぎる。
 ハーマイオニーと大鍋に場所をなるべく提供できるように、ソフィアはロンとハリーの間にサンドイッチのように挟まれていた。ほんの数十センチ近くにあるハリーの顔をなるべく見ないようにして、ソフィアは少し火照った顔を見られないようにした。

 「コリンの話はもう知ってるんだよね?あのさ、僕、もう一つ話があるんだ」

 ハーマイオニーは便座と壁のすき間に器用に座って、ニワヤナギの束をちぎっては、煎じ薬の中に投げ入れているところだった。

 「夜中にドビーが僕のところに来たんだ」

 ソフィアだけでなく、ロン、ハーマイオニーもハリーの顔をじっと見つめた。ハリーはドビーの話したこと(というより話してくれなかったこと)を全部三人に話して聞かせた。ハリーとロンをホグワーツ特急に乗れなくさせたのはドビーで、ブラッジャーを狂わせた犯人もドビーで、「秘密の部屋」が再び開かれたこと、ドビーがひたすらハリーにホグワーツを去るように願ったこと。

 「『秘密の部屋』は以前にも開かれたことがあるの?」

 ハーマイオニーが驚きの声を上げた。

 「これで決まったな。ルシウス・マルフォイが学生だった時に『部屋』を開けたに違いない。今度は我らが親愛なるドラコに開け方を教えたんだ。まちがいない」

 背の高いロンがソフィアの頭上でくっくっと笑った。

 「それにしても、ドビーがそこにどんな怪物がいるか、教えてくれたらよかったのに。そんな怪物が学校の周りをうろうろしてるのに、どうして今まで誰も気づかなかったのか、それが知りたいよ」
 「それ、きっと透明になれるのよ」

 ヒルを突いて大鍋の底の方に沈めながらハーマイオニーが言った。ロンとハーマイオニーがあーだこーだと討論を繰り広げている間、ソフィアは自分もドビーに会ってみたいと、そればかり考えていた。どうしてただの屋敷しもべ妖精がそこまでハリーの身を案じるのだろうか。ドビーの主人は一体誰だろう。
どんな酷い主人なんだろう。ハリーがいい加減、暑そうなので、ソフィアは自分も頭を冷やすためにも一旦外に出ることを勧めた。「嘆きのマートル」は珍しく、どこかへ出かけているようだった。

 ***

 コリン・クリービーが襲われ、今は医務室に死んだように横たわっているというニュースは、翌週の月曜日の朝には学校中に広まっていた。廊下で見かけたジニーの顔色はますます真っ青だった。コリンはジニーの友人だったのだから、落ち込んで当然だ。一年生はしっかり固まってグループで城の中を移動するようになり、みんなひとりで勝手に動くと襲われると怖がっているようだった。
 やがて先生に隠れて、魔除け、お守りなど護身用グッズの取引が、校内で爆発的に流行りだした。ネビル・ロングボトムが悪臭のする大きな青たまねぎや、尖った紫の水晶玉、腐ったイモリの尻尾など数々の不気味なお守りを買い込んだせいで、同じ寝室のロンはひどく愚痴をこぼしていた。他のグリフィンドール生がネビルに「君は純血なのだから襲われるはずはない」と指摘しても、彼は頑なに首を横に振って「僕がスクイブだってこと、みんな知ってるんだもの!」と恐怖を浮かべていた。

 12月の2週目に、例年の通り、マクゴナガル先生がクリスマス休暇中、学校に残る生徒の名前を調べにきた。ポリジュース薬のこともあり、ソフィアは今年も残ることに決めた。ハリーはもちろん、ロン、ハーマイオニーも名前を記入した。ドラコ・マルフォイも学校に残ると聞いて、ハリーたちはますます怪しいと睨んだ。休暇中なら、ポリジュース薬を使って、マルフォイをうまく白状させるのに、絶好のチャンスだ。
 ただ残念ながら、煎じ薬はまだ半分しかでき上がっていない。あと必要なのは、二角獣の角と毒ツルヘビの皮だった。それを手に入れることができるのは、ただ一ヵ所、セブルス・スネイプ個人の薬棚しかない。ハリーは、スネイプの研究室に盗みに入って捕まるより、スリザリンの伝説の怪物と対決する方がまだましだと思っていた。
 しかし、なんと驚くべきことに、木曜日の午後の魔法薬の授業中、彼らはそれを見事やってのけたのである。魔法薬のクラスで、みんなが「ふくれ薬」の調合を行っている時、セブルスが見ていない一瞬の隙をついて、ハリーがフレッドの「フィリバスターの長々花火」を教室に放ったのである。クラスはそれはもうひどい大混乱になった。あちこちで顔や体の部位が膨らんでいく者が大量発生した。その間にハーマイオニーが研究室に忍びこむという、なんとも危険な綱渡りだったが、それでも騒ぎが治まった頃には、ハーマイオニーはけろっとして元の位置に戻ってきていた。ハリーは花火を投げ込んだのは一体誰なんだろうという表情を必死に取り繕い、ソフィアもそれに倣った。セブルスが明らかにハリーを凝視していたため、心臓の動悸が治まらなかったが。

 授業が終わり、四人が急いで「嘆きのマートル」のトイレに戻る途中、ハリーはしょげ込んで、「スネイプは僕がやったってわかってるよ。ばれてるよ」と言った。ソフィアもそれには大いに同意だったが、証拠は何もないのだから、万が一セブルスに聞かれても、ソフィアはハリーの秘密を絶対に守り抜くと誓った。ハーマイオニーは達成感と満足げな表情でもって、大鍋に新しい材料を放り込んで、夢中でかき混ぜ始めた。

 「あと二週間で出来あがるわ」

 煎じ薬がぶくぶくと泡立っている間、ハリーはなぜ自分はロンのようにもう少し背が高く伸びなかったのかと葛藤していた。

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