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闇の魔術に対する防衛術は、しどろもどろなクィリナス・クィレルだった。
頭にはターバンを巻き怪しげな雰囲気を醸し出していた。
実地はせずにノートを取るばかりだ。ロンは既に夢へと旅立ちつつある。
ハリー、ハーマイオニー、ソフィアは、真剣に受けた。

次の魔法史は、ゴースト先生で生きていない。
この授業では、お経のような先生の声をたっぷり二時間聞かされた。
ロンやハリーだけでなく、大半の生徒達は夢の中だ。
ハーマイオニーとソフィアだけは先生のポイントを聞き逃すまいと真剣にノートを取っていた。

最後はフワフワしたクラス中の人達の頭をシャキッとさせるには、充分な授業だった。
変身術を担当するのはミネルバ・マクゴナガル先生で、サボる者や私語をする者達は、クラスにはいらないとキビキビと言ってから、散々複雑なノートをたっぷり取ってから、マッチを針に変える基本的な事をした。

この実地に成功させたのはハーマイオニーとソフィアだけだった。
二人は得点と滅多に見せないマクゴナガルの笑顔と誉め言葉を貰い、授業は終わった。

授業が終わり、夕食を取るハリー達。
するとフレッドとジョージがソフィアを間にして腰を下ろし陽気に言った。

「ソフィア、初めての授業はどうだった?」

彼女の顔を覗き込むようにしてフレッドが聞いた。

「あ…」

急に聞かれてもどう答えたらいいのか分からず、ソフィアはロンに助けを乞うように視線を向ける。

「闇の魔術に対する防衛術は、しどろもどろで魔法史はまるでお経の時間、変身術はお手上げ。全く最高さ」

ロンが、皮肉気に言った。
文句を言おうとしたハーマイオニーと、被るようにジョージが大きい声で言った。

「まだまだ、分かっちゃいないぜ。ロニー坊や」と呆れたふりをしながら肩を竦めた。
「本当に」フレッドが、声を低くして囁くように言う。
「恐ろしいのは」ジョージも真似をする。
「「魔法薬学の贔屓根暗教授、セブルス・スネイプだ!」」

フレッドとジョージは、相変わらず見事なハモりだ。

「ちょっと――「なにを、贔屓するんだい?」

またしてもハーマイオニーの言葉が遮られ声が届かない。
そんなことは気に止めずロンが聞く。

「あいつは、寮監のスリザリンさ」

双子がスリザリンの方をチラ見して言う。

「ちょっと四人共!先生の悪口なんて、良くないわよっ!」
「甘いね、ハーマイオニー」
「僕たちが言ってることは、悪口なんかじゃない」
「「全部、真実さ」」

双子はいつもの調子で言い返す。
そして最後にソフィアに挨拶をして彼らは嵐の如く去って行った。

***

ハリーとロンにとって、金曜日は記念すべき日となった。
朝食のために大広間に降りて行くときに、初めて一度も迷わずに辿り着くことが出来たのだ。
ソフィアの方はハーマイオニーと来ることが多いので、まず迷う心配などないだろう。
といってもソフィアも頭の回転は人並み以上に早いので、学校の地図もここ最近急速度で頭に入っている。

「今日は、何の授業だっけ?」

オートミールに砂糖をかけながら、ハリーがロンに尋ねた。

「スリザリンの連中と一緒に、“魔法薬学”さ。
スネイプ先生はスリザリンの寮監だ。
いつもスリザリンを贔屓するって皆が言ってる…本当かどうか今日わかるだろう」
「マクゴナガル先生が、ぼくたちを贔屓してくれたらいいのに」

マクゴナガル先生はグリフィンドールの寮監だったが、昨日も山ほど宿題を出すことを、ためらったりするようなことはなかった。

――ちょうどその時、郵便が届いた。

ハリーはもう慣れっこになっていましたが、一番最初の朝食の時、何百羽という梟が突然大広間になだれ込んで来るのを見たときには唖然としたものだ。
梟たちはテーブルの上を旋回し、飼い主を見つけると手紙や小包をその上に落として行く。
ヘドウィグは、今まで一度も物を運んで来たことはない。
それはソフィアのアンジュも同じこと。

それでも時々、飛んで来ては2匹一緒に過ごしていることがある。
ハリーの耳を齧ったりトーストを齧ったりしてから、ほかの梟と一緒に学校の梟小屋へと戻って眠るのだ。
ところが今朝は、マーマレードと砂糖入れの間に羽ばたいて来ると、ハリーの皿の上に手紙を落としていった。
それに驚いたハリーは、急いで封を破るようにして開けてみる。

――親愛なるハリーとソフィア。
金曜日の午後は授業が無いはずだ。良かったら三時頃お茶に来んか。
お前さんたちの最初の一週間がどんなだったか、いろいろと聞いてみたい。
ヘドウィグに返事を持たせるように。
ハグリッドより。

ハリーはソフィアに手紙を見せ、彼女も少し嬉しそうに喜んでいた。
ロンの羽ペンを借りて手紙の裏に、「喜んで。じゃあ、また後でね」と書いて、へドウィッグに持たせて飛ばした。
ハグリッドとのお茶という楽しみが出来たのはラッキーだ。 
なにしろ“魔法薬学”の授業が、最悪の状態になってしまったからだった。

***

ハリーは新入生の歓迎会の時から、スネイプ先生が自分のことを嫌っているのだということを感じていた。
しかし、魔法薬学の最初の授業で、ハリーは自分のその考えは間違いだったのだということに気付いた。
スネイプ先生は、ハリーのことを嫌っているのではない――憎んでいるのだ。

魔法薬学の授業は地下牢で行なわれた。
そこは城の中の教室よりも寒くて、壁にずらりと並べられたガラス瓶の中に標本となった動物がプカプカと浮いていなかったとしても、充分に気味が悪い場所だ。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

誰ひとりとしてスネイプの言葉を聞き漏らすことなく、雰囲気は殺伐としていた。

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、それでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、間隔を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である―ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

視界の端に映るハーマイオニーが、一刻も早く自分はウスノロでは無いと証明したくてたまらない様子で落ち着き無く身じろぎしていた。
ソフィアはスネイプの話を聞きながら、羽ペンの羽部分の柔らかい質感を指先で楽しんでいたが、ふとインク瓶の蓋を開け忘れていることに気づき、それに手を伸ばす。
意外に硬かった蓋を力いっぱい捻ると、勢いよく中のインクが波打つ。
親指の腹にベッタリと黒が付着する。
「ポッター!」とハリーの名前を呼び、彼を見下ろしているスネイプの瞳とよく似ているとソフィアは思った。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

前の席のマルフォイ、クラッブ、ゴイルが笑いに体を震わせている。
しかしスリザリンの笑いは空気を切る音が聞こえそうな勢いのハーマイオニーの挙手によって消える。

「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

スネイプはハーマイオニーの挙手には一切触れずに、今度は別の質問を繰り返した。
それでも必死に高々と手を上げるハーマイオニーに、スリザリンの生徒たちはまた笑い出す。

「わかりません」
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター」

一日中机にかじりついていられる特殊能力があるなら別として、ハーマイオニー以外の誰かが教科書の隅から隅までを暗記してくるなんてことが有り得るだろうか。
そんなことよりも、早くハリーいびりを終わらせて授業に入ってくれたらいいのにと「魔法の薬草ときのこ千種」のページを適当に捲る。
随分と後ろの方まで捲っていくと、丁度スネイプが問いかけた答えが記載してあるページにたどり着いた。
ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤になる。
グリフィンドールの生徒が挙手をして無視され続けるのなら、いっそのこと自分が手を挙げて答えてしまえば、この問題は解決するのではないかと、ソフィアは手を挙げようとしたが、スネイプが立て続けにモンクスフードとウルフスベーンの違いを問う。
その問いには答えられそうにもなく、ソフィアは小さくため息をついて挙げかけた手を膝のうえに下ろす。
しかし、ハーマイオニーただ一人だけは答えを知っているようで、とうとう椅子から立ち上がって挙手し続けた。

「わかりません。ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

ハリーの切り返しに、通路を挟んだ隣のネビルが、張り詰めていた糸が切れたように力の篭った肩を緩やかに下げた。
今度は、グリフィンドール生が笑い声を上げる番だった。
誰が席を決めたわけでもなく、スリザリンとグリフィンドールで通路を境目としてお互いの陣地を主張するように寮で分かれて座っていたため、一斉にグリフィンドール生の嫌悪を含んだ色の目があちこちから突き刺さる。

アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となるが、強すぎる薬効のために「生ける屍の水薬」と言われている。
モンクスフードとウルフスベーンは同種の植物であり、別名をアコナイトとも呼ばれているがトリカブトのことである。
スネイプがノートを取るように促したそれらを書き取った羊皮紙に、黒く色づいた親指を擦り付けた。

「ポッター、君の無礼な態度でグリフィンドールは一点減点」

――呆れを含んだ苛立ちと一緒に。

スネイプは生徒達におできを治す簡単な薬を調合させた。
ソフィアはハーマイオニーと一緒のテーブルで、ハリー、ロン、ネビルが、三席離れたテーブルにいた。

調合を始めて、着々とソフィアは進んでいき早めに終えた。
ハーマイオニーの薬を見ていて、ふいにハリー達のテーブルの方を見るとネビルが銀色の細いなにかを鍋に入れるのが見えた。
そのなにかに見覚えがあったソフィアは、ハリー達のいるテーブルの方へと走り出して、ネビルの前まで来たとき鍋から黒い煙が上がり、異臭がしてきた。
それを感じソフィアは慌ててネビルを押し倒すようにしながら叫ぶ。

「伏せて!」

その瞬間、鍋は大きな音を起て爆発し周りには薬品やら鍋の欠片やらが散らばった。
ソフィアやネビル、鍋の周りにいた生徒達は奇跡的に怪我がなく
爆発した後はビックリ顔で様子を見ていた。
足音が近づいてきてスネイプが爆発した後の残骸を、魔法で片付けるとハリー達を睨み付けた。

「何故Mr.ロングボトムが、火に掛けたままハリネズミの針を入れるのを止めなかった?
Mrs.エムリスが気づいていなかったら、怪我人が出ていた可能性も有り得たんだぞ」

スネイプは冷ややかに言う。
ハリーやロンもそんなつもりではなかったというのに。
しかし、ここでまたどうこう言ってもスネイプには届かないだろう。
傍にいたソフィアもハリー達を庇おうかと思ったが、如何せん間近でスネイプを見てしまいそんな勇気は湧いてこなかった。
結局、更に1点減点とされ、重い雰囲気の中授業の終わりを知らせるベルが鳴り響いた。

地下牢の階段を上がりながら、ハリーが酷く項垂れているのをロンとソフィアで慰めていた。
最初の一週間、自分のせいで減点を受けたのだ。落ち込まない訳がない。

「ハリー…ごめんね、私が、もうちょっと…早く気づいていたら…」

直ぐ傍にいたにも関わらず、事故を止めることをできなかったことに自分を責めているソフィア。

「ううん、ソフィアのせいじゃないよ。
僕、これからはちゃんと薬草学を勉強しとく」

明るみにそう言うハリーに、ソフィアも「じゃあ、私も、一緒にする…」と小さく微笑む。

「まぁとにかく元気出せよ。フレッドもジョージも、スネイプにはしょっちゅう減点されてるんだ。
あ、一緒にハグリッドのところに行ってもいい?」

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