12

3人は三時五分前に城を出て、校庭を横切って行った。
ハグリッドは“禁じられた森”の端しに位置する小さな木造の小屋に住んでいる。
戸口の外に、クロスボウ(石弓)と防寒用の長靴が置かれていた。 
ハリーがノックすると、中からメチャクチャに戸を引っ掻く音と、唸るような咆え声が数回。

「待て、退がれ、ファング」

中からハグリッドの声が聞こえてきた。
戸が少し開いて、隙間からハグリッドの大きなヒゲもじゃの顔が現われる。

「待て、待て。さがれファング」

ハグリッドは巨大な黒いボアハウンド犬の首輪を押さえるのに苦労しながら、ハリーたちを招き入れた。
中は一部屋だけ。ハムやきじ鳥が天井からぶら下がり、焚き火に掛けられた銅のヤカンにはお湯が沸いていて、部屋の隅にはとてつもなく大きなベッドが置かれ、それにはパッチワーク・キルトのカバーが掛けられている。

「寛いでくれや」と、ハグリッドが言ってファングを離すと、ファングは一直線にロンに飛び掛かり、ロンの耳を舐め始めた。

ソフィアはこんな大きな犬に出会ったことはないので、最初見たときはハリーの後ろに隠れてなるべく近づかないようにしていたが
ファングもハグリッドと同じように、見た目と違って全く怖くはなかった。

「彼はロンだよ」

ハリーがロンを紹介すると、ハグリッドは大きなティーポットに熱いお湯を注いでロックケーキを皿に乗せた。

「ウィーズリー家の子か?」

ロンのそばかすをチラッと見ながらハグリッドが言う。

「おまえさんの双子の兄貴たちを森から追っ払うのに、俺は人生の半分を費やしているようなもんだ」

ロック・ケーキは歯が折れるくらい堅いものだったが、3人とも美味しそうな振りをして、初めての授業についてハグリッドに話して聞かせた。
ファングは、頭をハリーの膝に乗せ、服をよだれでダラダラにしている。
ハグリッドが、管理人フィルチのことを「あの老いぼれ」と呼んだので、親近感が湧いたのかハリーとロンは大喜びしたものだ。

「あの猫だがな、ミセス・ノリスだ。いつかファングを引き合わせてやらにゃならんな。
俺が学校に行くとな、知ってるか?いつでもズーッと俺を付け廻す。
どうしても追い払えん…フィルチのやつがそうさせてるんだ」

ハリーは今日あったばかりのスネイプ教授の授業のことを話しました。
ハグリッドもロンと同じように、気にするなスネイプは生徒という生徒は皆嫌いなんだから、と言った。

「でも、僕のこと本当に憎んでるみたい」
「ばかな。なんで憎まにゃならん?」

そう言いながらも、ハグリッドはまともに自分の目を見なかったと、ハリーにはそう思えてならなかった。

「チャーリー兄貴はどうしてる?
俺は、あいつが気に入っとった。動物にかけては、オレが見てきた生徒のなかで二番目に凄かった」

ハグリッドがロンに尋ねる。
しかし、この時ハグリッドがわざと話題を変えたんじゃないか、とハリーは思ったのだ。
ロンがハグリッドに、チャーリーのドラゴンの仕事のことをいろいろと話している間、ソフィアはテーブルの上のティーポット・カバーの下から、一枚の紙切れを見つけた。
日刊予言者新聞の切り抜きだ。

『グリンゴッツ侵入去る』
七月三十一日に起きた、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされるグリンゴッツ侵入事件についての捜査は、依然として継続中。
本日になって、グリンゴッツのゴブリンたちは、何も盗まれたものは無かったと発表。
荒された金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていたとのことである。
『そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しないほうが皆さんの身のためです』と、本日の午後になってグリンコッツの報道官は述べたとのことである。
ソフィアはそれを見て、隣にいたハリーに差し出した。
急に新聞の切れ端を渡され何事かと思ったが、ハリーの新聞を呼ぶ目は次第に真剣なものになっていく。
そして、何か思いついたようだ。

「ハグリッド!
グリンゴッツに侵入者が入ったのは、僕の誕生日だ!
僕たちがあそこに居たあいだに起きたのかもしれないよ!」

今度は間違いなかった。ハグリッドはハリーからはっきりと目を逸らした。
ハグリッドは呻きながらハリーにまたロックケーキを薦めた。
しかしハリーは記事を読み返す。
――荒された金庫は、実は侵入されたその日に既に空になっていた。

ハグリッドが、七一三番金庫を空にしていたのだ。 
汚い小さな包みを取り出すことが「空にする」と言えるのなら。
泥棒が探していたのはあの包みだったのだろうか?

夕食に遅れないように、ハリーとソフィア・ロンが城に向かって歩き出したときには、ハグリッドの親切を断り切れなかったために、ロックケーキでポケットが重くなっていた。
これまでのどんな授業よりも、ハグリッドとのお茶のほうが色々と考えさせられた。
ハグリッドは、あの包みを危機一髪で引き出したのだろうか?
今、あれはどこに有るのだろう?
スネイプ教授について、ハグリッドはハリーには言いたくない何事かを知っているのだろうか?

***

ハリーはダドリーより嫌なヤツが、この世の中に居るなんてことを思ってもみなかったが、しかし、それはドラコ・マルフォイと出会うまでのことだった。
一年生では、グリフィンドールとスリザリンが一緒のクラスになるのは、魔法薬学の授業だけ、グリフィンドール寮生もマルフォイのことでそれほど嫌な思いをすることは無く済んでいたのだ。
少なくとも、グリフィンドールの談話室に「お知らせ」が出るまではそうだったが、掲示を読んで皆はがっかりと肩を落とす。

『飛行訓練は、木曜日に始まります。
グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』

―――そら来た。お望みどおりのことだ。
マルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるんだ。

何よりも、空を飛ぶ授業を楽しみにしていたハリーは失望した。

「そんなことないよ…ハリー」
「ソフィアの言う通りだぜ、ハリー。
あいつクィディッチがうまいって、いつも自慢してるけど、どうせ口先だけさ」

マルフォイは確かによく飛行の話をしていた。
一年生がクィディッチ・チームの代表選手になれないなんて残念なことだと不満を言って、長ったらしい自慢話を皆の前で聞こえよがしにしていたが、それはいつもマグルの乗ったヘリコプターを危うくかわしたというところで話が終わるのだった。

自慢するのは、マルフォイばかりではない。
シューマス・フィネガンも、子供の頃いつも箒に乗って、田舎の上空を飛び廻っていたということ。
ロンでさえ聞いてくれる人が居たら、チャーリーのお古の箒に乗って、ハンググライダーにぶつかりそうになった時の話をしたことだろう。

魔法使いの家の子は皆ひっきりなしにクィディッチの話をしていた。
サッカーについては、ロンと同室のディーン・トーマスとが大論争をやらかしたこともある。

ロンにしてみれば、ボールがたった一つしか無くて
しかも選手が飛べないゲームなんて、どこが面白いのかわからない、と言うのだ。

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