33

 ハリーとソフィアは、支え合いながら立ち上がって互いの杖を拾い、組み分け帽子を拾い、バジリスクの上顎を貫いていた眩い剣を引き抜いた。

 「正直、もうダメだって思ったよ。だけど、組分け帽子の中から、これが出てきたんだ」

 大きなルビーが埋め込まれた剣の刃先は、バジリスクの赤黒い血で染まっている。鈍く光を反射してトロリと光るそれ、二人が無言で眺めていると、秘密の部屋の片隅から微かなうめき声が聞こえた。

 ジニーが目を覚ましたのだ。

 二人は一目散に彼女へ駆け寄り、体を起こしたジニーの背に片手を添えて、介助する。ジニーの体にかけられていたソフィアのローブが、胸元から膝下までずり落ちた。

 虚空を見つめるジニーは、まだ状況を把握しきれていない様子で、バジリスクの死骸、ハリー、ソフィア、指先から流れる血に染まった自身のローブに順に目をやると、体を小刻みに震わせた。そして、ハリーが手に持っている日記を見た途端、大きく身震いして息を呑み、どっと涙が溢れ出した。

 「ハリー――ソフィアあたし、あたし――」
 「ごめんね、ジニー。…もっと早く気が付いてあげられなくて」

 ジニーの後頭部に手を回し、肩口に額を凭れさせる。ぎこちなく、血で固まったジニーの赤毛を梳いて撫でた。

 「無事でよかった……本当に」

 ジニーは、恐る恐るソフィアの背中に腕を回し、そして勢いよくソフィアにしがみ付いてワンワンと喚いて泣いた。

 「もう大丈夫だよ。リドルはおしまいだ。見てごらん! リドル、それにバジリスクもだ。おいで、ジニー。早くここを出よう――」
 「あたし、退学になるわ!」
 「きっと大丈夫。みんながジニーを心配しているし、無事に帰ってきてくれるのを待っているわ。」

 ハリーが、さめざめと泣くジニーを支えて立ち上がる。フォークスが目印のように入口の上を飛んでいて、三人を待っていた。ソフィアの肩に降り立って羽を休めるフォークスの体に、ソフィアは頬ずりをする。

 動かなくなったバジリスクの亡骸を乗り越え、暗いトンネルを帰る道を歩きながらハリーはこれまでのことを話した。

 通常、バジリスクの目を見た者は即死となってしまうが、今回は本当に運よく、石にされた生徒たち全員がバジリスクの目を見なかったこと。あの巨体で学校中を通っているパイプの中を、移動して襲っていたこと。

 ハーマイオニーが解決の糸口を握っていて、石にされても尚、ヒントを与えてくれた。そして、五十年前リドルの手によって命を落とした嘆きのマートルから話を聞いて、確証に迫ったらしい。遠くから岩がずれ動く音がすると、ハリーは足を速めた。

 「ロン! ジニーは無事だ! ソフィアもここにいるよ!」

 ロンが、胸の詰まったような歓声をあげ、崩れ落ちた岩の間から顔を覗かせる。かなり大きな隙間の向こうから、ロンがジニーの姿を確認すると彼女の名前を叫ぶ。「ジニー!」と隙間から腕を突き出してジニーの手を取った後ろから、ハリーはジニーが転ばないように後ろから支えてやりながら隙間を通す。

 「生きてたのか! 夢じゃないだろうな! いったい何があったんだ?」

 ロンが矢継ぎ早に言うのを聞いて、ハリーとソフィアは顔を見合わせて微笑む。ハリーが先に隙間を抜け出し、ソフィアが隙間を通るのを手伝う。「ジニー、もう大丈夫だよ」とロンが笑いかけると、ジニーは再び眉間に皺を作って唇を震わせ、しゃっくりをあげた。兄の姿を見て、やっと安心したのだろう。

 「行こう。フォークス、おいで」

 最後に隙間から羽ばたいて出てきたフォークスを前腕に掴まらせトンネルからパイプへ続く道筋を辿った。
 フォークスの広い深紅の翼が闇に放つ柔らかな金色の光に導かれ、四人はパイプの出口まで戻ってきた。そこには、予想もしていなかった人物が、大人しく座り込んで鼻歌を歌っていた。

 「ロックハート先生? どうして? 何だか様子もおかしいわ」

 「これも話せば長いんだけど……」とロンが前置きをした。

 「杖が逆噴射したんだ。ロックハートはここがどこか、僕らが誰か、自分が誰なのかすら忘れてる。こんな状態の奴に手伝わせるのは危ないからここに座ってるように言ったんだ」

 自業自得だ。ロックハートの呪文が上手くいっていたら、こうなっていたのは自分たちだったかもしれない。不死鳥が長い金色の尾羽を機嫌がよさそうに振った。上まで連れて行ってくれるという合図だろう。

 「僕とロンがフォークスにつかまるから、ジニーはロンと、ソフィアは僕と手をつなごう。ロックハート先生は――」
 「あなたのことですよ」

 ロンが強い口調でロックハートに言った。その後、全員が繋がったのを見て、ハリーがフォークスの尾羽をしっかりつかむと、全身が風のように軽くなった気がした。

 そして、フォークスが大きく跳ねを広げて上下させると、体が宙に浮かび、空を切ってあっという間にパイプの中を上へ、上へと高く飛んだ。飛行を楽しんでいると、いつの間にか嘆きのマートルのトイレの湿った床に着地する。手洗い台がするするとパイプ穴を隠して元の位置に戻ると、全員が生還できたことを実感し、倦怠感がどっと押し寄せてくるのを感じた。

 「さあ、どこへ行く?」

 ロンがまだ涙を流しているジニーを心配そうに見ながら言うと、ハリーは廊下を先導するフォークスを指さす。五人は、フォークスの後を急ぎ足で追いかけた。

ALICE+