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 「レモンキャンディーを舐めながら」そう言ったのは、校長室へ入るための合言葉を遠回しに教えたからだ。醜いガーゴイル像の前で「レモンキャンディー」と言うと螺旋階段が現れ、校長室へと続いていた。そっと椅子に腰かけて、無造作にテーブルに転がっている百味ビーンズを摘まんで口に含む――マーマレード味だった。

 当たりの味に頬を緩ませていると、いつの間にやって来たのか、ダンブルドアが目の前に座っていて穏やかに笑っている。驚いて体を仰け反らせると、背もたれがソフィアの体を受け止めてくれた。

 「さて、ソフィア。これから少し、君についての話をしよう」

 ダンブルドアは、静かに言った。口調はとても柔らかかったが、そこと儚く強さも滲ませて。

 「リドルが、君に強く執着していたようじゃったと、ハリーが話してくれた。リドルは以前から君のことを知っていたのではないかと」
 「私は、私自身も知らないところで、リドルと接触していたと、秘密の部屋でリドルが言っていました」

 ソフィアは、ジニーが落とした日記を拾った際に、無意識のうちに彼に血を与え、一瞬でも力を与えてしまったことや、ハリーが来るまでの間にあったリドルとのことを全て話した。

 「ダンブルドア先生がおっしゃっていた『特別』の背景にあるものは、リドルの言っていた通りなんでしょうか」

 ダンブルドアは、ソフィアの問いかけに瞼を伏せて、首を縦に一度振る。日記帳のインクを吸い込んで重くなったスカートの上で、ソフィアはぎゅっと握りこぶしを作った。それが本当だとしたら、こんな特別はいらない。犠牲の上に立つ自分が、酷く汚らわしい人間のように思えて仕方がなかった。

 目の前を覆う霧は濃度を増すばかりで、近づけば近づくほど、ソフィアが何度も空想していた両親の姿と遠ざかる。ずっと想像していた……ウィーズリー夫妻や、九と四分の三番線のプラットホームで、パンジーやダフネやミリセントの送り迎えをする両親を見て。

 「のう、ソフィア。わしはこう考えておる」

 ダンブルドアは、校長室の扉へ杖を振った。すると、一人でに開いた扉の向こう側に、見知った人影があった。

 「丁度良いタイミングじゃ。コーネリウス」
 「ソフィア・エムリスの今後について、話し合う機会を設けるとわたしを呼び出したんだろう、アルバス」
 「大まかな話は、大体そこで聞いておったじゃろう。そこにかけてほしいのじゃが」
 
 ソフィアは、悠然とファッジがダンブルドアの隣に腰かけるのを見据えた。
 
 「ソフィア…五十年前、キミと同じ血を引く魔女がいたが、彼女はその血を引くのは自分の代で終わらせると言い、子孫を残す気はなかった。――しかし、ある人間と出会い、惹かれ合い、遂に心を変え、彼女は子供を産んだ」

 五十年前というのは、トム・リドルがまだ学生だった時代。そして、彼が言っていた―――ソフィアと似た人が近くに居た――と。恐らくその人物こそ、ダンブルドアの言う人と同一人物だ。

 「魔女の名前は、イザベラ・クルス―――キミの父親であるアラン・エムリスを産んだ人じゃよ」

 トム・リドルがソフィアに向けて最後に呟いた名前だった。アランはソフィアの父親の名前、つまりそのイザベラがソフィアの祖母にあたるということだった。

 「そしてアランもやがて、子を残した……が、夫婦は子供が産まれる前に、ある予言を告げられたのじゃ。“子供が闇に喰われる”という予言をの」

 そこでソフィアは全てを察した。闇とはヴォルデモートのことだと。

 「二人は決して諦めなかった。
  君の父親は敵から欺くため、幻影を作り出した……自分で自分を殺すことを選んでまで。
  君の母親は、君が胎内にいるときからずっと君に“守りの魔法”をかけていた…自分の生命力と引き換えに。

 ―――どうして君の御両親がそうまでしたか、検討がつくかな?」

 ポツンと水面に一滴を落とし、波紋を広げていく答え。沈黙が続き、最後の輪が余韻を残して消えた後、ダンブルドアはソフィアの頭頂部に杖先を当てた。以前も、どこかで同じことをされた気がする。

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