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「君を愛していたからじゃよ、ソフィア」
ダンブルドアの言葉に、熱いものが喉をせりあがってくるのを感じた。頭頂部に当てられた杖から、何か温かいものが全身を巡っていく。
「命に代えても、我が子の君を見殺すことなどできなかった」
ソフィアが勢いよく顔を上げると、ダンブルドアは遠くを見るような目でソフィアを見つめ、ファッジは感嘆の声を漏らした。そこには、絶世という言葉がしっくりくるほど美しい少女がいた。力のない彼女を、剥き出しにした状態のまま外を歩かせるのは、とても危険すぎる。人攫いの手にかかってしまうだろう。
そしてすぐさま誰かに摘み取られ、毒に浸され枯らされてしまう。外面だけに群がって、内面の甘さにも酔い、吸い尽くされて枯れてしまう。それとも、人買いに出されて信じられない高値で売り飛ばされるか……。どちらにしても、甘美な少女に群がる虫の数を想像すると、背筋がゾッとする。花は散るから、儚く美しいと言われる。
だが、この少女は――ソフィア・エムリスという少女は――。
永遠に咲かせたままでいてほしいと思わせる。恐ろしいのは、少女が成長し、大輪を身に着けた後を想像すること。そのまま、氷漬けにして飾っておきたいと、思ってしまうだろう。罪を罪と思うことが出来ない、思考すらも狂わせる。
「ア、アルバス……この子は……」
ダンブルドアに手鏡を渡されたソフィアは、鏡の中を覗き込んだ。今までとは、明らかに何かが違う。それが自身でもはっきりと分かるほど、異なった姿がそこにあった。
「わしは君のお父さんに頼まれ、赤子だった君にとある魔法をかけた」
ダンブルドアはソフィアに持続型の目眩まし呪文をかけたのだ。子供を闇の手から隠せるように。
「ソフィア、君は目立ちすぎる。その外見故、君を知らぬ者が魔の手で君を攫い、生い立ちが暴かれてしまう可能性は大いにある。だから、わしは君に『目眩まし魔法』をかけた。そして、その呪文はこれから先も解いてはならん――時がくるまでは」
ダンブルドアは、再びソフィアの頭頂部に杖を当て、目眩まし呪文をかけた。
「君は、ヴィーラなのかい?」
「ヴィーラ?」
「コーネリウス、その見解は半分正解だと言えるじゃろう。彼女の母親が、恐らくヴィーラである」
ダンブルドアは、魔法生物図鑑を取り出してページを捲り、ソフィアへ開いて見せた。ページには、月のように美しく輝く女性が写っていた。写真の中で、たおやかにシルバー・ブロンドを躍らせながら舞い、胸に手を当てて口をパクパクと開いている。歌を歌っているのだろう。その外見は、ソフィアによく似ていた。
「ソフィア」
「……はい」
「決して臆することはない。君が今生きているということが、御両親が最初で最後に君に与えた愛なんじゃよ」
ダンブルドアは、しわくちゃな手でソフィアの白銀を、酷く優しげに撫でた。
「さぁ、もうお祝いの宴にお行き。食べ物で空腹を満たし、友人たちに顔を見せておやり。ここから先の話は、わしとコーネリウスで進めねばならん」
ダンブルドアは、それからソフィアを大広間へ急ぐように促した。これ以上は、聞いてはいけないのだろう。気になったが胸がじんわりと温かくて、ソフィアは素直に椅子から立ち上がった。そういう風になれたのも、母親が愛してくれていたという証が、自分の中に見つかったからだ。