16

 いずれにしても“終わり良ければ全て良し”の一日にはならなかったなと考えながら、ハリーはその夜遅く、ベッドに横になり、ディーンとシューマスの寝息を聞いていた。ロンは夕食後はハリーと一緒に居ることにして、ハリーに知恵を付けてくれた。 「呪いを防ぐ方法は忘れちゃったから、もし呪いをかけられたら身をかわすんだ」

 しかし、管理人のフィルチや猫のミセス・ノリスに校則違反を見つけ出す絶好のチャンスを与えてしまうことになるのだ。 一日に二度も校則を破ることをするということは、危ない橋を渡ることになるということも分かっていた。それでも、せせら笑うようなマルフォイの顔が暗闇の中に浮かび上がってくる。今こそマルフォイを一対一でやっつけるまたとないチャンス。

 「十一時半だ」

 ロンが時間ピッタリに囁き掛けてきた。

 「そろそろ行くか」

 二人はガウンを羽織って、杖を手に寝室を這って横切り、塔の螺旋階段を降りて、グリフィンドールの談話室へと下りて行く。暖炉にはまだ僅かに残り火が燃えていて、その光りで肘かけ椅子の黒い影が弓なりになっている。出口の肖像画の通路に入ろうとした時、一番近くの椅子から声がした。

 「ハリー、まさかあなたがこんなことをするとは思わなかったわ」

 声の主と共にランプが、ポッと現われる。
ハーマイオニーだった。ピンクのガウンを着て顔をしかめている。

 「またきみか、ベッドに戻れよ」
 「本当は、あなたのお兄さんに言おうかと思ったのよ」

 ハーマイオニーはロンに容赦なく言う。

 「パーシーに。監督生だから、絶対に止めさせるわ。…ソフィアだって、あなた達を止めようとして来てくれたのよ。ね、ソフィア」

 するとハーマイオニーの後ろから現れたのは確かにソフィアだった。ハリー達もまさか、と彼女を疑うような顔をした。それを見て、してやったりと言う表情のハーマイオニー。しかし、

 「…私は…ハリー達を止めに来たんじゃないの…。
一緒について行こうと思って…ごめんなさい…ハーマイオニー…」

 ソフィアの言葉に、先ほどまでの彼女の表情は一転。驚愕の目でソフィアを見つめている。そしてこの時ハリーには、ここまでお節介な者が世の中に居るなんてことが信じられなかった。「行こう」と、ロンとソフィアに声をかける。

 ハリーは『太った婦人の肖像画』を押し開け、その穴を乗り越えて廊下に出て行った。だがハーマイオニーも、簡単には諦めない。彼女もロンとソフィアに続いて肖像画の穴を乗り越え、3人に向かって怒ったアヒルのように、ガーガー言い続ける。

 「グリフィンドールがどうなるか気にならないの?自分のことばっかり考えて。 スリザリンが寮杯を取るなんてわたしは嫌よ。私が呪文を知ってたお陰でマクゴナガル先生がくださった点数を、あなたたちがすべて台無しにするんだわ」
 「あっちへ行けよ」
 「いいわ。ちゃんと忠告しましたからね。 明日、家に帰る列車の中でわたしの言ったことを思い出すでしょうよ。あなたたちは本当に――」

 本当に何なのか、その後は聞くことが出来なかった。
ハーマイオニーがもと来た所に戻ろうとして後ろを振り向いたが、肖像画の「太った婦人」が居なくなっていたのだ。
 「太った婦人」が、夜のお出掛けをしてしまったので、
結果的にハーマイオニーはグリフィンドール塔から締め出されてしまった。

 「もう、どうしてくれるの!」

 ハーマイオニーは甲高い声で問い詰める。
 
 「知ったことか」「僕たちはもう行かなきゃ。遅れちゃうよ」

 まだ廊下を抜け出さないうちに、ハーマイオニーが追いついてきた。

 「一緒に行くわ」
 「駄目だ」
 「ここに突っ立って、管理人のフィルチに捕まるのを待ってろって言うの?4人とも見つかったら、私はフィルチさんに本当のことを言うわ。 私はあなたたちを止めようとしたって。あなたたち、私の証人になるのよ」
 「きみ、相当の神経してるぜ!」

 我慢ができなくなったのかロンが大声を出す。

 「シーッ。二人とも静かに!」

 しかしハリーが鋭く言う。
ロンとハーマイオニーが前方にいたソフィアとハリーを見ると、2人が暗闇に目を集中させているのが分かる。

 「なんか聴こえるぞ」

嗅ぎ廻っているような音。

 「ミセス・ノリスか?」

 暗がりを透かして見ながら、ロンがヒソヒソ声で言う。だが音の正体は猫のミセス・ノリスではなかった。それは、ネビルだったのだ。床に丸まってグッスリと眠っていたネビルだったが、4人が忍び寄るとビクッとして目を覚ます。

 「ああ良かった、見付けてくれて!もう何時間もここに居るんだよ。ベッドに行こうとしたんだけど、新しい合言葉を忘れちゃったんだ」
 「小さい声で話せよ、ネビル。合言葉は『豚の鼻』だけど、今は役に立たないぞ。『太った婦人』がどっかへ行っちゃってるんだ」
 「腕の具合はどう…?」

 ソフィアがネビルに聞くと、彼は「大丈夫」と言って4人に腕を見せる。

 「マダム・ポンフリーがあっという間に治療してくれたよ」
 「良かったね…悪いけど、ネビル。僕たちはこれから行くところがあるんだ。また後でね」
 「そんな、置いていかないで!ここに一人で居るのは嫌だよ。『血みどろ男爵』がもう二度もここを通ったんだよ」

 ロンは腕時計に目をやると、とても怒った顔でネビルとハーマイオニーを睨んだ。

 「もし、きみたちのせいでぼくたちが捕まるようなことになったら、クィレル先生が言ってた『悪霊の呪い』を覚えて、キミたちにかけるまでは絶対に許さないからな」

 ハーマイオニーは、口を開き掛ける。『悪霊の呪い』の使い方をきっちりロンに教えようとしたのかもしれない。しかし、ハリーがシーッと黙らせ、目配せで皆に進めと言う。高い窓から差し込む月の光りによって、廊下に作り出された縞模様の中を5人は素早く移動して行った。

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