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 廊下だった。しかも、四階の『禁じられた廊下』だったのだ。そしてなぜ立ち入り禁止なのかということを瞬時に納得した。五人が真正面に見たものは、怪獣のような犬の目。 床から天井までの空間全部がその犬の大きさで埋まっている。

 頭が三つも有り、血走った三組の目。三つの鼻が、それぞれの方向にヒクヒク動いて、三つの口から黄色い牙を剥き出し、そのあいだからダラリとした縄のような、ヌメヌメとしたよだれが垂れ下がっていた。
 
 怪獣犬はジッと立ったまま、その六つの目全部でハリーたちをじっと見ていた。まだ五人の命が有ったのはハリーたちが急に現われたので、怪獣犬が不意を突かれて戸惑っていたからだったが、もうその戸惑いも消えたようだ。 
雷のような唸り声が間違いなくそう言っている。

 ハリーはドアの取っ手をまさぐる。フィルチか死か、フィルチのほうがましだ。五人はさっきとは反対方向になだれ込む。ハリーがドアを後ろでバタンと閉めると、皆飛ぶようにさっき来た廊下を走って行った。フィルチの姿はない。急いで別の場所を探しに行っているようだが、そんなことはもうどうでもよい。とにかくあの怪獣犬から少しでも遠くに離れたいという気持ちだけだった。走りに走り続けて、やっと八階の『太った婦人』の肖像画にまで辿り着くことが出来た。

「まあ、いったいどこに行ってたの?」

 『肖像画』の婦人が尋ねる。五人のガウンは肩からズレ落ちそうになっていて、顔は紅潮して汗だくになっていた。

 「何でもないよ。『豚の鼻』、『豚の鼻』」

 息も絶えだえにハリーがそう言うと肖像画がパッと開く。五人はやっとの思いで談話室に入り、ワナワナ震えながら肘かけ椅子にへたりむ。口が利けるようになるまでに、しばらく時間が掛かった。ネビルは二度と口が利けないんじゃないかとさえ思えるほどだ。

 「あんな怪物を学校の中に閉じ籠めておくなんて、いったい何を考えてるんだ!?」

 そこでやっとロンが口を開きました。

 「世の中に運動不足の犬が居るとしたら、まさにあの犬だね」

 ハーマイオニーは呼吸が戻って来ると不機嫌さも同時に戻ってきていた。

 「あなたたち、どこに目を付けてたの?あの犬が何の上に立ってたか、見なかったの?」
 「床の上じゃなかった?」
 「僕…足なんか見てなかった。頭を三つ見るだけで精一杯だったよ」
 「違うわ。床じゃなかった。仕掛け扉の上に立ってたのよ。…何かを守ってるのに違いないわ」

 そう言うとハーマイオニーは、立ち上がって皆を睨みつける。

 「あなたたち、さぞかしご満足でしょうよ。もしかしたら皆殺されてたかもしれないのに…。もっと悪いことなら退学になってたかもしれないのよ。では皆さん、お差し支えなければ休ませていただくわ」

 ロンは、ポカンと口を開けてハーマイオニーを見送った。

 「死ぬことより、退学のが怖いのかよ」

 しかしハーマイオニーの言ったことが、ハリーには別の意味で引っ掛かった。 それはベッドに入ってからも考え続けた。犬が何かを守っている…ハグリッドが言っていたことは?

 「グリンゴッツは、何かを隠すには世界で一番安全な場所だ。…多分ホグワーツ以外では」

 713番金庫から取り出して来たあの汚い小さな包みが、今どこに有るのか…ハリーにはそれがわかったような気がした。

***

 次の日、ハリーとロンがまだホグワーツに居る姿を見て、マルフォイは自分の目を疑っているようだった。朝になってみるとハリーもロンも、あの“三頭犬”に出会ったことが素晴らしい冒険のように思えて、次の冒険が待ち遠しいような気持ちにさえなっていました。ソフィアだけは…あの恐怖からまだ怯えているようで、昨日のことを思い出してはハリーにしがみついていた。
 
とりあえず、ハリーはロンとソフィアに例の包みのこと、それがグリンゴッツからホグワーツに移されたのではないだろうかということを話した。あんなに厳重な警備が必要なモノっていったい何だろうと、三人はあれこれ考える。

 「もの凄く大切なモノか、」
 「もの凄く…危険な、もの…」
 「その両方かも」

 謎の包みについては、二インチぐらいの長さのものだということしかヒントが無かったのでそれ以上なんの推測も出来ない。ネビルとハーマイオニーは、三頭犬と仕掛け扉の下に何が隠されているのかなど、まったく興味を示さなかった。

 ハーマイオニーはハリーとロンとはあれから口も利いていないが、偉そうな知ったか振り屋に指図されないで済むのは二人にとっては、返っておまけをもらったような気分だ。しかし、一方でソフィアはハーマイオニーと同室ということもあってか気まずい時間を過ごしていたらしい。そしてハリーとロンの思いは、今やどうやってマルフォイに仕返しをするかだけだったが、一週間ほど後に、なんとそのチャンスが郵便と共にやってきたのだ。

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