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十年前に両親が亡くなった後、ダーズリー家に引き取られていたハリー・ポッターは、おじ・おばに半ば虐待され、同い年の従兄ダドリー・ダーズリーにもいじめられる孤独な毎日を送っていた。
しかしハリーには、いたぶろうと追いかけてくるダドリーから瞬間移動で逃げたり、
蛇と会話してダドリーにけしかけるなど、困ったことになると起きる自分でも分からない不思議な力があった。
11歳を目前にしたとき、ハリー宛にホグワーツ魔法魔術学校から入学許可証が届く。
しかしペチュニアと夫のバーノン・ダーズリーはハリーに手紙を見せず、挙句の果てに毎日山のように送られてくる手紙を避けるために家から逃げ出してまで、ハリーの魔法学校入学を阻止しようとするが、
送り主は遠い逃亡先のホテルにさえも手紙を送ってきた。
そして、ようやく人里離れた海の上の小屋を見つけて逃げ込んだダーズリー一家の前に、見知らぬ大男が現れる。
大男の名はハグリッド。ホグワーツの森番をしていると言う。
彼はダーズリー夫妻がハリーにひた隠しにしていたハリーの本当の生い立ちを告げる。
交通事故で亡くなったと聞かされていた両親は実は魔法使いで、
当時強大な勢力を誇った史上最凶とも言われる闇の魔法使い、ヴォルデモート卿に殺害されていた。
ヴォルデモートは生後間もないハリーも殺そうとしたが、何故か魔法が自身にはね返り、ハリーは生き延び、ヴォルデモートは肉体を失って逃げ去った。
ヴォルデモートから唯一逃げ延びたハリーは魔法界で「生き残った男の子」として有名だった。
―――自分の生い立ちを知ったハリーは自身の決断で、ホグワーズへと通うことに。
***
「おお、そうだ。ハリーお前さんに紹介したいもんがおるんだった」
「僕に?」
ハグリッドの言葉にハリーは疑問を持ちながら家から出ると、そこにはマントを羽織った人影が。
背丈からしてハリーと同い年程に見える。そして後ろ姿だけでもよく分かった白銀の長髪。
夜風に揺れていることで髪が波打ち、月の光を反射してきらきらと光っている。
その人物の華奢な体つきから、少女と思われるその子がハグリッドが言っていた子なのだろう。
「ソフィア、待たせたな」
ソフィアと呼ばれた少女は、ハグリッドに名前を呼ばれるとゆっくり振り返った。
その瞳は葡萄色の宝石でもはめこまれているのかと思うぐらい輝いて見え、雪を思わせる肌に、瞳に影を差すほど長い睫毛まで白く、月光のように儚い光を放つ美しい少女だ。
今まであまり他人と関わっていなかった、というより関われなかったハリーは初めて見る美しい光景に驚き、眩しそうに目をこする。
少女の方もハリーと目が合うと驚いたような顔をして、焦りながらマントを羽織ってまたも後ろを向いた。
「すまんなハリー。ソフィアは恥ずかしがり屋なんだ、気にせんでやってくれ」
「ソフィアっていうの?とっても綺麗な子だね」
「あぁ、ソフィア・エムリス。お前と同じ魔法使いで、今年からホグワーズに通うんだ」
ハグリッドから少女の名を教えて貰い、ハリーは彼女に挨拶をしようとソフィアの前に行く。
「僕、ハリー・ポッター。よろしくね、ソフィア」
何も言わずただ頷くソフィア。手はフードから手を離さず、ハリーの方へ顔を向けようともしない。
だがその手は震えているため、少し怯えているように感じ取れた。
ハリーはどうしたんだろうとハグリッドの方を見る。
それに気づいたらしく、ハグリッドはソフィアの肩へと手を置いてハリーに話し出す。
「ソフィアはまぁなんだ…同い年の子供と関わったことが今まで殆どないもんでな。
どう接するべきなのか、まだ分からんだけさ。
でも、決してハリーを嫌っているわけじゃない。本心じゃあちゃんとお前さんと仲良くなろうと思っている筈だ。
だからハリーからも、ソフィアと仲良くしてやってくんねえか?」
ハグリッドからの頼みに、ハリーは強く頷き「分かった」と言う。
今まで孤独な日々を送っていたハリーには少女の気持ちが分かる気がしたのだ。
***
「…ここだ。『漏れ鍋』有名なとこだ」
翌日、ハリーたちが人混みを掻き分けてたどり着いた先は、レコード店と本屋の間にこじんまりと納まっている、小さな店だった。
「ねぇ、ハグリッド?こんなところで買えるの?」
ハリーが手紙と共に入っていたリストと『漏れ鍋』を交互に見て驚きに顔を歪ませた。
「いや、ここはマグル界と魔法界を繋ぐ扉があってそこから魔法界に入るんだ」
ハグリッドが堂々と漏れ鍋の中に入って行ったので、ハリーたちはその後ろから小走り気味で追い掛けた。
ハリーはソフィアがはぐれないようにと思い、彼女の手を自然に握っていた。
「大将、いつものやつかぃ?」
店員がグラスに手を伸ばしながらハグリッドに尋ねた。
「駄目なんだ。ホグワーツの仕事中でね」
何故か隣にいたハリーの背中をばしばし叩きながらハグリッドはそう返した。
ハリーは地味に痛かったのか痛そうに背中に手を回すと、そんなハリーを心配してか、ソフィアが優しくしかしやや不器用に彼の背中をさすった。
少しずつハリーに歩み寄ろうとしている、ソフィアがとても愛らしく見える。
そんなことを思っていると突然、店員の驚いた声がかかった。
「なんと、こちらが…ぃや、この方が……やれ嬉しや!!ハリー・ポッター…なんたる光栄!」
店内が水を打ったように静まり返り、一方のハリーは困惑してしまっている。
やがて、あちらこちらで椅子を動かす音がして、漏れ鍋にいた人たちがハリーに握手を求めた。
気が付けばハグリッドの隣に誰かが立っていた。
ターバンを巻いたおどおどとしている男の人だ。
ぐるぐると回る目を何とか元に戻すと、一回頭を振って顔を上げる。
「ハリー、ソフィア。この人はホグワーツで教鞭をとってらっしゃる、クィリナス・クィレル先生だ」
「よ、よ、よろしくお願いします…っ!」
「ハリー・ポッターです。よろしくお願いします、クィレル先生」
ソフィアは丁寧にお辞儀をしただけだが、それを目立たせないようにとハリーはできるだけ明るくにっこりと笑って握手をすれば、何だか複雑そうな顔をするクィレル先生。
首を傾げれば、「ななななんでもありません!」と言って逃げるように去って行った。
そして次第にソフィアは人垣から離れ、隅っこでその光景を見ていた。
彼女にとって慣れない人混みなど恐怖の対象に近いのかもしれない。
騒ぎは一向に納まる気配を見せない。
だが、やっと騒ぎの中でハグリッドの声がみんなに届いた。
「もう行かんとー…買い物がごまんとあるぞ。ハリー、ソフィアおいで」
ハリー達の腕を引っ張り、店内を通り抜け小さな中庭に連れ出した。
「ほら、言ったろう?おまえさんは有名だって。…3つ上がって……」
ピンクの傘を取り出しレンガを数え始めたハグリッド。
ハリーは目をぱちくり、と動かしてその光景を見ていた。
固そうなただのレンガの壁がまるで命を持ったかのように動き始めたのだ。
クネクネ、と動きながら、ハグリッドでも悠々と通れそうなアーチが現れた。
あんぐり、と口を開けているハリー。そして大きな瞳をさらに大きく見開き驚いているソフィア。
2人を見て、ハグリッドはニコッと笑った。
「ダイアゴン横丁へ、ようこそ」
―――その時、魔法界の開く音がした。