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ソフィアの隣で歩くハリー。
彼はキョロキョロ、と忙しなく目を動かし、
虫も軽々入れそうな大きな口を開けて、ハグリッドの後ろを歩いた。
横から見ても相当間抜け顔になっていることを本人は知らない。
「グリンゴッツだ」と言うハグリッドの声を聞いて、ソフィアたちはダイアゴン横丁にひときわ高く聳え立つ、真っ白い建物を見上げた。
カウンターの向こう側に座っている小鬼はお金を数えたり、
宝石を量ったりしていて忙しそうだったが、ハグリッドは「こんにちは」と無理矢理話し掛けた。
「ハリー・ポッターさんと、ソフィア・リンジーさんの金庫から金を取りたいんだが…」
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
鋭い目つきをした小鬼が身を乗り出してハリーとソフィアに尋ねた。
そして、ソフィアの方はその鍵に心当たりがあるようで、マントのポケットに手を入れると、金色の鍵を取り出した。
彼女はそれを恐る恐る小鬼へと差し出す。
しかしハリーの方は鍵など持っている筈もなく。
「……おっと」
ハリーの視線を感じながらハグリッドは急いで、たくさんの荷物の入ったポケットから小さな鍵を取り出した。
小鬼はそれらを慎重に調べてから、「承知しました」と言った。
「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる。
713番金庫にある“例の物”についてだが…」
ハグリッドは重々しくそう言い、小鬼は手紙を丁寧に読むと、ソフィアたちを金庫に続く扉へと案内した。
「713番金庫の“例の物”って何?」
ハリーが面白そうに尋ねた。
その瞳には好奇の色が輝いている。
「それは言えん。極秘だ。
ホグワーツの仕事でな。ダンブルドアは俺を信頼してくださる。
おまえさんらにしゃべったら、俺がクビになるだけじゃすまんよ」
ハグリッドがいつになく真面目な顔をして言うので、ハリーは残念という表情をしてそれ以上の詮索を諦めた。
その後、一行はトロッコに乗りそれぞれの金庫を目指す。
最初に着いたのは、ハリーの目の前に開かれた金貨の扉。
その金庫の中は金貨の山と高く積まれた銀貨の山。
そして、小さな銅貨までざっくざくだった。
ハリーはたくさんのお金に驚いているのか、挙動不審になっていた。
次のソフィアの金庫でも驚く程大量の金貨が。
もう既に2人の金銭感覚は麻痺しそうである。
「じゃあ713番金庫まで頼む。
……ところで、もうちっとゆっくり行けんか?」
「速度は一定となっております」
ハグリッドのトロッコ酔いに、ハリーは苦笑するしかなかった。
彼らは更に深く、地下に潜って行く。
713番金庫に辿り着いたソフィアたち。
小鬼が長い指で扉をなぞると、扉は音をたてて開きハグリッドはその隙間から身を滑らせ、“例の物”、それをコートの中に大切にしまいこんだ。
***
「ちょいといいか、ハリー。あー、漏れ鍋で、その、なんだ。
元気が出るあれでもひっかけてきていいか。グリンゴッツのトロッコには参った……」
ハグリッドは青白い顔でハリーとソフィアに言った。
お金を取り出し、石を取り出し──三人は迷路のように複雑に曲がりくねった線路を猛スピードでひた走るトロッコから解放され、地上に戻って来た。
ハグリッドはどうやら絶叫系が苦手のようだ。
ぐったりと項垂れるハグリッドに対し、全く酔いもせず、むしろあのスピードを大いに楽しんだハリーは上機嫌に答えた。
「いいよ。僕らはここで制服を買ってるから、ゆっくり休んで来て。ね?ソフィア」
ハリーが確認するようにソフィアに問うと、彼女も了承だろうと思われる動作で頷く。
「すまんなぁ」
すぐ目の前にはマダム・マルキンのローブ専門店がある。
ここは普段着用から式服まで一通りのローブを扱っている専門店らしく、制服もここであつらえる事になっていた。
ハリーとソフィアは一度ハグリッドと別れ、店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
店内に入るとすぐに女性の店員が声をかけて来た。
ハリーが何かを言う前に、女性は愛想よく笑顔を浮かべると素早く口を開いた。
「あなた達もホグワーツかしら?
今丁度もう一人、丈を合わせているところよ」
ハリーが店の奥に視線を移すと、確かに先客がいるようだった。
誰かが入って来た事に気付いたのか、踏み台に乗り、店員らしき女性に黒いローブをピンで留められている少年が、ちらりとこちらを見た。
金髪の少年だ。
そんなことを思っていると、出迎えてくれた女性──店主のマダム・マルキンがハリーたちの方へ近づいてきて、ソフィアの腕を取る。
「じゃあ、あなたはこっちね」
マダムに手を引かれ、金髪の少年よりやや離れた方の踏み台の上に立たされるソフィア。
女子と男子では少し場所が違うのだろう。
するとソフィアは、寸法をしてもらう身なので流石に顔を隠したままだと失礼だと思ってかフードを外した。
「あら、まあまあ。なんて綺麗なお顔かしら」
マダムにそう言われ、少し照れたように顔を俯かせた。
そして店の奥から現れた店員が、着せかけられたローブのあちこちをソフィアの体に合わせてピンで留めていく。
その後、ハリーは隣の金髪の彼と同じ様にローブを着せかけらていた。
ふと隣に目をやると、彼も丁度こちらを見たところだったようで、ぱちりと目が合ってしまった。
淡い金の髪をひとまとめに後ろに流し、どこか傲慢そうに瞬く薄青い瞳で、少年はハリーの全身に素早く視線を走らせると、気取った様に口を開いた。
「……やぁ。君もホグワーツかい?」
「うん」
得意そうにホグワーツに関する知識を披露する少年を見て、ダドリーにそっくりだとハリーは思った。
この洋装店で初めて同い年の魔法使いの男の子と出会って嬉しくなったのも束の間、彼の話を聞けば聞くほど彼を嫌いになっている自分に気付いたのだ。
少年はそんなハリーの不機嫌に気付く事も無く偉ぶった口調でハリーに話しかける。
「ほら、あの男を見てごらん!森番のハグリッドだ!言うならば野蛮人だって聞いたよ。
学校の領地内にほったて小屋を建ててそこに住んでるんだ」
ハリーの前に立つ青白い顔をした少年はしきりにその尖った顎を動かし、不愉快な言葉を述べる。
その内容はハグリッドを侮辱するものであり、一層ハリーを苛立たせた。
ハグリッドはハリーをダーズリー家から連れ出し、この素晴らしい魔法の世界を教えてくれた恩人だ。
その彼への暴言、というだけでハリーはこの少年に殴りかかりたい衝動に襲われた。
「彼って最高だと思うよ」
「へえ?どうして君と一緒なんんだい?両親は?」
「死んだよ」
「あぁ、すまないね。でも君の両親も僕らの同族なんだろ?」
「魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いてるんならね」
話しながらハリーは、さっさと会話を切り上げたいと思っていた。
何だかわからないが、ハグリッドの事を抜きにしてもこの少年とは馬が合わない気がしていたのだ。
「そういえば…さっきの子、知り合いなのか?」
「…うん」
何故急に彼女の話題が出てきたのか分からないが、ハリーは一応頷いておいた。
「へぇ。じゃあ、今度―――」
ドラコが何かを言う前にマダム・マルキンが「さあ、終わりましたよ」と言ってくれたのを幸いに、少年との会話を中断して、ハリーは踏台からポンと跳び降りた。
「それじゃ、ホグワーツでまた会おう、多分ね」
最後の最後まで少年は気取って言うのである。