23
次の日の朝、大広間は興奮した様子の生徒が多数見受けられた。それに比べてハリーの表情は固い。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「…トーストをちょっとだけでも…」
「お腹が空いてないんだよ」
そう言われてしまえば、もう何も言えない。それでもハーマイオニーは遠慮がちではあったが、ハリーの皿に軽めの食べ物をよそってあげていた。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵に狙われるぞ」
シェーマスは親切心で言ったのだろうが、ハリーにとってそれは追い打ちをかけるものでしかなく、より表情が固くなってしまったのだった。11時になると、学校中の生徒がクィディッチ競技場の観客席に詰めかけていた。双眼鏡を持っている生徒もたくさんいる。観客席は空中高くに設けられていたが、それでも試合の動きが見にくいこともあった。
ロンとハーマイオニーとソフィアはネビル、シェーマス、ディーン達と一緒に最上段に陣取り、スキャバーズがかじってボロボロにしたシーツで作った旗を掲げた。旗には"ポッターを大統領に"の言葉とグリフィンドール寮のシンボルのライオンが描かれており、ハーマイオニーがいろいろな色に光るように複雑な魔法をかけたので、それはとても目立っていた。
「出てきたぞ!」
ロンの言葉にグラウンドに目を向けると、真紅のローブを着たグリフィンドール生と、緑のローブを着たスリザリン生が大歓声に迎えられてグラウンドに出てくる所で。競技場の真ん中には、審判のマダム・フーチが箒を手に立っていた。フーチは全選手が集まったのと、箒に跨るのを確認すると、高らかに笛を鳴らした。15本の箒が空へ舞い上がる様は興奮するものがある。
「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました!何てすばらしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」
双子の仲間、リー・ジョーダンがマクゴナガルの厳しい監視を受けながら実況している。
「ジョンソン選手、突っ走っております。アリシア・スピネットにきれいなパス。オリバー・ウッドはよい選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした。ジョンソンにクアッフルが返る、そして……あ、ダメです。スリザリンがクアッフルを奪いました」
ソフィアはジョーダンの実況を聞きながら、自分の双眼鏡を眺め試合を観戦していた。動きが早すぎて、ジョーダンの実況なしではすぐにクアッフルを見失ってしまう。それからすぐ、アンジェリーナのゴールでグリフィンドールは先取点を取った。グリフィンドールの大歓声が寒空いっぱいに広がり、スリザリン側からはヤジと溜息があがった。
「ちょいと詰めてくれや」
「ハグリッド!」
ロン達はハグリッドが一緒に座れるよう広く場所を空けた。
「俺も小屋から見ておったんだが…」
首からぶら下げた大きな双眼鏡をポンポン叩きながらハグリッドが言った。
「やっぱり、観客の中で見るのとはまた違うのでな。スニッチはまだ現れんか、え?」
「まだ…。今のところハリーは、あんまりすることがないよ」
「トラブルに巻き込まれんようにしておるんだろうが。それだけでもええ」
ハグリッドは双眼鏡を上に向け、ソフィアもそれに習って双眼鏡を上に向けハリーを探した。ハリーは誰にもマークされておらず遥か上空で一人だったのですぐに見つけることができた。ハリーはスニッチを探して目を凝らしながら、試合を下に見てスイスイ飛び回っていた。
今もジョーダンの実況は続いており、ソフィアはそれに耳を傾けることなくハリーばかりを追っていたが、ふいに聞こえたジョーダンの「あれはスニッチか?」に気を取られ、それは一瞬ではあったが、もうそこにハリーはいなかった。見失ったと思ったが、急降下しているのはハリーだけだったので、すぐに彼の姿を捉えた。スリザリンのシーカーも見つけたらしく、スニッチを追って2人は追いつ追われつの大接戦で、チェイサー達も自分の役目を忘れてしまったように、宙に浮いたまま眺めている。ハリーの方がスリザリンのシーカーより速い。ソフィアは興奮で双眼鏡を持つ手が震えた。
と、その時、何か爆発でもしたのかと思うくらいの怒声が、グリフィンドール席から湧き上がった。
スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントがわざとハリーの邪魔をしたのだ。ハリーの箒ははじき出されてコースを外れ、ハリーは辛うじて箒にしがみついていた。
「反則だ!」
グリフィンドール寮生が口々に叫んだ。フーチはフリントに厳重注意を与え、グリフィンドールにゴールポストに向けてのフリーシュートを与えた。この反則にグリフィンドール生ならば怒りを覚えるのは当然のこと。ジョーダンの中継も中立を保つのが難しくなった。
「えー、誰が見てもはっきりと、胸くその悪くなるようなインチキの後…」
「ジョーダン!」
「えーと、おおっぴらで不快なファールの後...」
「ジョーダン、いいかげんにしないと――」
「はい、はい、了解。フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました。そこでグリフィンドールのペナルティーシュートです」
アリシアが投げ、決まり、ゲームは続行した。それから暫くして、ハリーの箒がおかしな揺れ方をしているのに気付いた。その時ゲームはスリザリンに得点が入ったのか、スリザリンは大歓声で、ハリーの箒が変な動きをしていることに気づいてるのはソフィアだけのようだ。
「いったいハリーは何をしとるんだ」
双眼鏡でハリーを見ていたハグリッドもハリーの変化に気付いた。箒が荒々しく飛び回り、今にも振り落とされてしまいそうなハリーが必死に箒にしがみついている。そこへ、双子のウィーズリーが自分たちの箒に彼を乗り移らせようと近付いていた。しかし、距離を縮めるとハリーの箒は逃げるように上空へ飛んでいってしまう。箒が激しく宙返りを始めると、ハリーは箒から振り落とされてしまった。何とか柄を掴んだ両腕で投げ出された体を支えるハリーに、ソフィアは今すぐにでも飛び出して行きたい気持ちに駆られた。
「あれがハリーじゃなけりゃ、箒のコントロールを失ったんじゃないかと思うわな…。しかしハリーにかぎってそんなこたぁ…」
その時、誰が見ても分かるくらい、ハリーの箒は上に下に大きく揺れ始め、観客席のあちこちで声が上がった。箒が荒々しく飛び回り、今にも振り落とされてしまいそうなハリーが必死に箒にしがみついている。肝を冷やして慌てふためいているグリフィンドール生が、「建て直せ、がんばれハリー!」と声援を送っている。
どう見ても、彼の箒は普通じゃない。まるで別の誰かに操られているかのように、持ち主を殺そうとしている。先生たちは何をしているのだろう。試合を一時中断すべきでは無いのか。
「…ハリーっ!!」
ソフィアが息を呑んだ。今や箒はハリーを振り飛ばさん勢いで荒々しく揺れ、彼はバランスを崩し、片手だけで箒の柄にぶら下がっていた。
「フリントがぶつかった時、どうかしちゃったのかな?」
「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さはできん」
ハグリッドのそれを聞くやハーマイオニーはハグリッドの双眼鏡をひったくり、ハリーの方ではなく、観客席の方に双眼鏡を向けた。
「―――スネイプよ…。見てごらんなさい」
ロンは双眼鏡をもぎ取り、向かい側の観客席にいたスネイプに向けた。それに続いてソフィアも双眼鏡で向かい側を見る。
「…何かしてる…箒に呪いをかけてる」
「僕達、どうすりゃいいんだ!?」
「私に任せて」
ロンが次の言葉を言う前に、ハーマイオニーは走り出していた。ロンとソフィアは双眼鏡をハリーに向けた。箒は激しく震え、ハリーもこれ以上つかまっていられないようだった。
双子のウィーズリーが自分たちの箒に彼を乗り移らせようと近付いていた。しかし、距離を縮めるとハリーの箒は逃げるように上空へ飛んでいってしまう。すると双子はハリーの下で輪を描くように飛びはじめた。落ちてきたら下でキャッチするつもりらしい。
箒が激しく宙返りを始めると、ハリーは箒から振り落とされてしまった。何とか柄を掴んだ両腕で投げ出された体を支えるハリーに、ソフィアは今すぐにでも飛び出して行きたい気持ちに駆られた。
「早くしてくれ、ハーマイオニー」
ハリーの顔は苦痛に歪んでいた。箒を握る手は震えており、落ちるのは時間の問題だった。ソフィアはハリーから向かい側の観客席にいるであろうハーマイオニーに双眼鏡を向けた。ハーマイオニーは観衆を掻き分け、スネイプが立っているスタンドに辿り着き、スネイプの一つ後ろの列を疾走していた。その途中クィレルにぶつかってなぎ倒したハーマイオニーを見て、ソフィアは安堵の息を吐き出し、ハリーを見るとハリーはもう箒に跨っていた。
ホッとしたのも束の間、ハリーが急降下したことで、あまりの早さにハリーを見失ってしまった。迷いなく、矢のように一直線に下りて行くハリーが、右手を伸ばした。彼の指先には、キラキラと光るスニッチが、捉われまいと逃げていた。ハリーが掴もうとしているのがスニッチだと気が付いたスリザリンのシーカーがその後を追いかけるが、ハリーのスピードには全く追いつけていなかった。
グリフィンドール席から、白熱した声が上がる。放送席のマイクから、マクゴナガルの声まで聞こえて来た。
ここから見えたのは、ハリーがパチン――と口を手で覆ったところだった。箒から降りて地面に四つん這いになり、何かを吐き出そうとする仕草の後、大きく体が震え、ハリーの口の中から掌に金色の玉が転がり落ちた。
ハリーが頭上高くにそれを振りかざす……そしてリー・ジョーダンが叫んだ。
「ハリー・ポッター、スニッチをキャッチ! グリフィンドール一七〇対六十で勝ちました!」