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 グリフィンドール寮生は、勝利を祝して談話室で小さな宴を開いていたが、主役とも言えるハリーはその騒ぎの渦中にはいなかった。ロン、ハーマイオニー、ソフィアと一緒にハグリッドの小屋にいたのだ。

 「スネイプだったんだよ。ハーマイオニーもソフィアも見たんだ。君の箒にブツブツ呪いをかけていた。ずっと君から目を離さずにね」
 「バカな」

 ハグリッドは自分のすぐそばの観客席でのやり取りを、試合中一言も聞いていなかったらしい。

 「なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」
 「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。あいつ、ハロウィンの日、三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが盗ろうとしたんじゃないかと思うんだ」

 それを聞いたハグリッドはポットを落とした。

 「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」
 「…フラッフィー?」
 「そう、あいつの名前だ。去年パブで会ったギリシャ人のやつから買ったんだ。俺がダンブルドアに貸した。守るため…」

 瞬間、ハグリッドは自分で自分の口を塞いだ。ハッと我に返ったように。

 「…何を、守るため?」
 「もう、これ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは」
 「だけど、スネイプが盗もうとしたんだよ」
 「バカな。スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけなかろう」
 「ならどうしてハリーを殺そうとしたの…!?」

 ソフィアが叫ぶ。こんなに感情的になっている彼女は初めてだ。今日あった出来事は、一歩間違えればハリーの命が危なかったわけで、ソフィアは何よりも大事な人を危険にさらされて怒らない筈がない。そしてそれはハーマイオニーも同じで。クィディッチでの試合が、ハーマイオニーの「先生は絶対に正しい」という考えを変えてしまったようだ。

 「ハグリッド。私、呪いをかけてるかどうか、一目で分かるわ。たくさん本を読んだんだから!ジーッと目をそらさずに見続けるの。スネイプは瞬き一つしなかったわ。この目で見たんだから」
 「お前さんは間違っとる!俺が断言する」

 しかしハグリッドも譲らない。

 「ハリーの箒が何であんな動きをしたんか、俺には分からん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。四人ともよく聞け。おまえさん達は関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」
 「ニコラス・フラメルっていう人が関係してるんだね?」

 その時ハグリッドは、口が滑った自分自身に猛烈に腹を立てているようだった。

***

 十二月になり、深い雪に覆われたホグワーツ。湖はカチカチに凍りついて、双子のウィーズリー兄弟は雪玉に魔法をかけて、それをクィレル先生につきまとわせて、ターバンの後ろでポンポン跳ね返るようにしたという理由で罰を受けたらしい。

 猛吹雪をくぐってやっと郵便を届けに来た数少ない梟たちは、元気を回復して飛べるようになるまで、ハグリッドの世話を受けていた。

 皆、クリスマス休暇を待ち望んでいる。グリフィンドールの談話室や大広間には轟々と火が焚かれていたが、廊下は隙間風で氷のように冷たく、身を切るような風が教室の窓をガタガタいわせていた。最悪なのは、スネイプの地下牢教室だ。 吐く息が白い霧のように立ち上り、生徒たちはできるだけ熱い釜に近付いて暖を取ってい
る。

 今日も今日で凍えそうなくらい寒い薬学教室での授業中、作業していたハリーの所に意地悪く顔に笑みを貼り付けたマルフォイがやってきた。

 「かわいそうに」

 何がかわいそうなのか。何が言いたいのか分からないマルフォイにハリーは眉間に皺を寄せた。

 「家に帰ってくるなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」

 この間のクィディッチの試合以来、マルフォイはことあるごとにハリーに構うようになっていた。スリザリンが負けたことを根に持っているからだろう。なんだそのことかと言わんばかりに無視を決め込むハリー。後少しでホグワーツはクリスマス休暇に入る。ホグワーツに残るのはハリー、ソフィア、そしてウィーズリー家の男共は、両親が不在のため残るのだそう。

 
 魔法薬のクラスを終えて地下牢を出ると、行く手の廊下を大きな樅の木がふさいでいた。木の下から二本の巨大な足が突き出していたので、ハグリッドが木をかついでいるとすぐに分かった。

 「やぁ、ハグリッド手伝おうか」

 ロンが枝の間から頭を突き出して尋ねた。

 「いんや、大丈夫。ありがとうよロン」
 「すみませんが、そこをどいてもらえませんか」

 後ろからマルフォイの気取った声が聞こえ、皆振り返る。マルフォイは相変わらずの嫌味な顔でロンを見た。

 「ウィーズリー、お小遣い稼ぎか?君もホグワーツを出たら森の番人になりたいんだろう。ハグリッドの小屋だって君たちの家に比べたら宮殿みたいなんだろうねぇ」

 カッとなったロンがまさにマルフォイに飛び掛かった瞬間、スネイプが階段を上がってきた。

 「ウィーズリー!」

 スネイプは輪に入ってくるなりロンからマルフォイを離した。

 「グリフィンドール5点減点」
 「スネイプ先生、マルフォイがロンの家族を侮辱したのが事の始まりなんですよ」
 「そうだとしても、喧嘩はホグワーツの校則違反だろう、ハグリッド」
 「ならばスリザリンにも減点すべきだと思いますがね」

 投げやりに呟くハグリッドの言葉を、スネイプは聞いているのだろうが何も反応しない。抗議をした所でスネイプが聞き入れてくれるとは鼻から思っちゃいない。事の発端がマルフォイであったとしても、手を出した方が悪いのだと言われるのは目に見えている。

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