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 真夜中、ソフィアは寮の談話室でソファに座って待っていた。誰を、というとハリーだ。実は今日贈られてきた透明マントを使って、ハリーは夜中に一人で閲覧禁止の棚へと向かった。本当はソフィアも付いて行こうかと思ったが、あの透明マントは彼の父親が所有していたもの。それを一番最初に使うのに、赤の他人の自分が一緒になど…おこがましいと思ったからである。しかし、心配には心配なのでハリーが何の問題もなく帰ってくるのを待っているのだ。バタン、突然の音に読書をしていた手を止める。音のした方を振り返ると、ハリーが息を弾ませながら戻ってきていた。

「ハリー…ッ、おかえ――「ソフィア、ちょっと待ってて!」

 ソフィアの「おかえり」と言うのも遮り、ハリーは慌てた様子で男子寮へと駆け上がって行く。何事かと彼女が不思議に思っているのも束の間、ハリーは、眠たそうな顔をしたロンを引っ張ってきた。

「二人に見せたいものがあるんだ!」

 ハリーの言葉にソフィアとロンは首を傾げるしかなかった。

 透明マントも意外と大きいんだ、とソフィアが自分たちを覆っているマントを感心していると、いつの間にかハリーがある部屋に入って直後マントを脱いだ。

 中は閑散としていて、少しホコリっぽい。一体ここに何があるのだろうと辺りを見回すと、ハリーは奥にあった大きな鏡へと向かう。ソフィアもつられて鏡へと近寄った。

 「凄いの見つけちゃったんだよ!これ見て二人とも!」

 ハリーの興奮ぶりは只ならぬものだ。早く、早く、と急かす様子はまるで、なにか新しい玩具でも見つけたような子供と言ってもいいかもしれない。

 「ただの鏡じゃないか」
 「ロン。いいから、ここに立ってみて。
それであそこに見えるのが僕の――「僕が主席になってる!」

 ロンが鏡を見つめ驚いた声を上げる。一方でハリーは、先ほどまで興奮仕切っていた表情が一変。ロンが言ったことに身体を硬直し再度鏡へと目を向ける。どうやら、ロンが見ているものはハリーの見たものと違うようだ。

 「クィディッチのチームでキャプテンに!うわぁ、凄いや!ハリー!これって未来を映す鏡なの!?」
 「まさか…だって、僕のママとパパは死んだもの」

 ハリーはポツリと小さく呟く。舞い上がっているロンには聞こえていないようだが、ソフィアにはしっかりと耳に聞こえていた。そして二人の後にソフィアも鏡の前に立ってみた。

 ソフィアは、訝しげに眉根を寄せて瞼を擦る。そこに写っていたのは、激しくぼやけている誰かの人影だった。ソフィアではないような気がするが、目を細めればソフィアにも見えるような気がする。それは随分と背が高く、ぼやけていながらもすらりと手足が長い。煙のような白い靄で全体が覆われているが、微かに残る体を鏡に浮かび上がらせていた。例えるなら、それは銀色。ひたすらに、銀色。月光のようだった。

 もう一歩前に進み出て、指先でそっと鏡に触れてみれば、指先からとろけて鏡の向こう側に吸い込まれてしまいそうなほど、奥の世界は魅惑的に映っている。鎖骨の間で、けたたましく心臓がのたうちまわるのを感じた。それを鎮めたくて、胸部のニットを強く握り締める。幸福と非道を混ぜて投げ込んだような光景は、これが現実では無いということを突き付けられているようで、どうしようもない切なさに打ちひしがれた。そしてその銀色の後ろには、はっきりと黒い大きな鳥のような影が写っていた。

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