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新学期が始まる一日前にホグワーツに戻ってきたハーマイオニーは、ハリー達が三日連続ベッドを抜け出し、学校中をウロウロしたと聞いて呆れたが、どうせそういうことならせめてフラメルについて何か見つけてくれればよかったのに、と悔しがっていた。新学期が始まると再び休み時間を使い、本を漁った。ハリーはクィディッチの練習も始まったため、忙しそうな毎日を送っている。ロンとハーマイオニーはチェスの対戦中。ソフィアはそれを眺めていると、クィディッチの練習を終えたハリーが、談話室に戻ってきた。その顔は切羽詰まっている。
「どうかしたの?」
「いまは話しかけないで」
「なんかあったのか?なんて顔してるんだい」
ハリーは今度の試合の審判がスネイプに決まった、と小声で呟いた。ハーマイオニーとロンはすぐに反応した。
「試合に出ちゃだめよ」
「病気だって言えよ。足を折ったことにすれば。いっそ本当に足を折ってしまえ」
「ダ…ダメっ、ハリーの足折らないで」
ソフィアが真剣に止めようとしてくるので、ロンが冗談だよと慌てて言う。
「シーカーの補欠はいないんだ。僕が出ないとグリフィンドールはプレイできなくなってしまう」
四人が頭を抱えて悩み始めた時、談話室の入口から結構な音がして振り返ると、そこには両足を縛られたネビルが倒れていて。どうやって肖像画の穴を這い登ったのだと思いながら、ソフィア達はネビルに駆け寄った。
「どうしたの!?ネビル!」
「マルフォイが……」
何が面白いのか、殆どの生徒はネビルの姿に笑っていたが、その言葉にみんなの顔から笑みが消えた。ソフィアはネビルの足にかかっていた呪いを解き、ハリーとロンでネビルを立たせソファに座らせた。
「…何があったの、ネビル…」
「図書室の外で出会ったんだ。誰かに呪文を試してみたかったって……」
くそ、マルフォイの奴とあちこちでマルフォイを非難する言葉が飛び交った。
「マクゴナガル先生のところに行きなさいよ!マルフォイがやったって報告するのよ!」
ハーマイオニーが怒り露にして言ったが、ネビルは首を横に振った。
「これ以上面倒はイヤだ」
「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃだめだよ。あいつは平気でみんなをバカにしてる。だからといって屈服してヤツをつけ上がらせていいってもんじゃない」
「僕が勇気がなくてグリフィンドールにふさわしくないなんて、言わなくっても分かってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから」
ネビルは声を詰まらせた。ハリーは今にも泣き出しそうなネビルに蛙チョコレートを差し出し、ソフィアはネビルの肩に手を置いた。
「…ネビル、正直失礼かもしれないけど…ネビルと同じで私もあまりグリフィンドールに向いていないと思うの。だからあなたの気持ち分かる。でも…だからと言って帽子は適当に組み分けしてるわけじゃなかったよ。…ネビルは帽子を説得して、グリフィンドールに入ったの…?」
「ううん、違う…」
「なら自信持とう?私もネビルと一緒に頑張る。誰に何を言われようが、帽子が私達をグリフィンドールに入れたんだから、惑わされちゃいけないよ…」
ネビルは微かに微笑みながら、「ありがとう」と言い、蛙チョコレートの包みを開け始めた。
「僕、もう寝るよ。これあげる。カード、集めてるんだろう?」
ネビルがその場を離れてから、ハリーは貰ったカードを眺めた。
「またダンブルドアだ。僕が初めて見たカード……ぁあ!!」
その叫びは突然で、吃驚も吃驚しながらハリーを見れば、彼の目はカードに釘付け。
「見つけたぞ!フラメルを見つけた!僕、どこかでフラメルの名前を見た気がしてたんだ。それもそうだよね、だってホグワーツに来る汽車の中で見たんだから。聞いて……ダンブルドア教授は、特に1945年闇の魔法使いグリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の12種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名」
ハリーがそう言うと、ハーマイオニーは跳び上がり、「ちょっと待ってて!」と、女子寮への階段を脱兎のごとく駆け上がっていった。戻ってきたハーマイオニーの手には巨大な古い本。
「この本で探してみようなんて考えつきもしなかったわ。
ちょっと軽い読書をしようと思って、ずいぶん前に図書室から借り出していたの」
「軽い?」
その分厚さで軽いと言い放つハーマイオニーは流石だ。ハーマイオニーは、見つけるまで黙ってと言うなり、ブツブツ独り言を言いながらすごい勢いでページをめくりはじめた。
「これだわ!これよ!」
ハーマイオニーは周りに聞こえないように声を落とした。
「ニコラス・フラメルは、我々の知るかぎり、賢者の石の創造に成功した唯一の者!」
「「何、それ?」」
と答えたハリーとロン。ハーマイオニーが期待した反応でなかったのだろう、ハーマイオニーは溜息を吐いた。
「まったくもう。二人とも本を読まないの?ソフィアは分かるわよね?」
「うん…少しだけど。不老不死になる「命の水」の源ってことぐらい…」
「その通りよ。ここ…読んでみて」
錬金術とは『賢者の石』と言われる恐るべき力を持つ伝説の物質を想像することにかかわる古代の学問であった。この『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金に変える力があり、また飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある。『賢者の石』については何世紀にもわたって多くの報告がなされてきたが、現存する唯一の石は著名な錬金術師であり、オペラ愛好家でもあるニコラス・フラメル氏が所有している。フラメル氏は昨年665歳の誕生日を迎えた。
「「665歳…っ」」
ハリーとロンは驚いた声を上げる。しかし、ハーマイオニーは「そこじゃないわよ」と彼らを一喝して話を続けた。
「賢者の石のことよ!あの犬が守っているのはフラメルの賢者の石なのよ。そうに違いないわ!フラメルがダンブルドアに保管してくれって頼んだのよ。だって二人は友達だし、フラメルは誰かが狙っているのを知ってたのね。だからグリンゴッツから石を移して欲しかったんだわ!」
「金を作る石、決して死なないようにする石!スネイプが狙うのも無理ないよ。誰だって欲しいもの」
「どうりで魔法界における最近の進歩に関する研究に載ってなかったわけだ。だって665歳じゃ厳密には最近と言えないよな」
その翌朝、闇の魔術に対する防衛術の授業中、ハリーは唐突に「僕、試合に出るよ」そう言った。
「出なかったら、スリザリンの連中はスネイプが恐くて僕が試合に出なかったと思うだろう。目にもの見せてやる……僕達が勝って、連中の顔から笑いを拭い去ってやる」
「グラウンドに落ちたあなたを、私達が拭い去るようなハメにならなければね」
決心がついたハリーに対しハーマイオニーが言った。
***
クィディッチの試合当日。ロンとハーマイオニーとソフィアは更衣室の外でハリーを見送った。ハリーと別れた後、三人はスタンドでネビルの隣に座った。ロンもハーマイオニーも緊張した面持ちをしている。選手がグラウンドに入場してくると、それは濃くなった。
「さぁ、プレイ・ボールだ。アイタッ!」
誰かがロンの頭の後ろを小突いた。マルフォイだ。
「ああ、ウィーズリー、気がつかなかったよ」
マルフォイはクラッブとゴイルに向かって口角を上げた。
「この試合、ポッターはどのくらい箒に乗っていられるかな?誰か、賭けるかい?ウィーズリー、どうだい?」
ロンは答えなかった。ジョージがブラッジャーをスネイプの方に打ったという理由で、スネイプがハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。ソフィアは手を組んで願うかのようにハリーを見ている。ハーマイオニーは膝の上で指を十字架の形に組んで祈りながら、目を凝らしてソフィアと同じくハリーを見続けた。
「グリフィンドールの選手がどういうふうに選ばれたか知ってるかい?」
暫くしてマルフォイが聞こえよがしに言った。ちょうどスネイプが何の理由もなくハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターには両親がいないし、ウィーズリー一家にはお金がないし、ネビル・ロングボトム、君もチームに入るべきだね。脳みそがないから」
いい加減に頭がきたロンが口を開くより先に、意外な人物が口を開いた。
「マルフォイ、組分け帽子が僕をグリフィンドールに入れたんだ。ぼ、僕は、それに誇りを持っているんだ」
ネビルだった。ちゃんとネビルの心に届いていたのだと思うと嬉しくて、怒りなんて忘れてしまったソフィア。けれども、そのネビルの言葉に大笑いするマルフォイと取り巻き二人に、消えていた怒りは再び膨れ上がって。その怒りをマルフォイにぶつけようとした時、「ハリーが!」とハーマイオニーが叫んだことでソフィアは其方に意識がいった。
ハリーは物凄いスピードで急降下を始めていて、それはもう弾丸のよう。そのスピードを保ったまま、一直線に地上に向かってハリーは突っ込んでいた。
「行けっ!ハリー!」
ハーマイオニーが椅子の上に飛び上がり、声を張り上げた。次の瞬間、ハリーは急降下をやめ意気揚々と手を挙げ、その手にはスニッチが握られていた。
「新記録よ!こんなに早くスニッチを捕まえるなんて前代未聞よ!ハリーが勝った!私達の勝ちよ!グリフィンドールが首位に立ったわ!」
ハーマイオニーは狂気して椅子の上で飛び跳ね踊り、ソフィアに抱きつく。ソフィアも嬉しくなってハーマイオニーと喜び合った。しかしグリフィンドールが勝ったにも関わらず静かなロンに疑問を抱きロンの方に視線を向けた。だが座っていたはずのロンもネビルもいない。二人は何故か後ろの席の椅子の下にいた。
「ちょ、ちょっと!どうしたの!」
ハーマイオニーが動揺するのも無理はなかった。息を切らす2人の鼻からは血が出ていたのだ。どうやらソフィアがマルフォイから意識が離れた後、ロンとネビルはマルフォイ達と取っ組み合いの喧嘩をしていたよう。もうそこにマルフォイ達はいなかったが、ネビルが「僕、マルフォイを殴ってやった!」とマルフォイも鼻血を流していたと嬉しそうで。ネビルの性格を考えれば信じられないほどのことをしたわけで。人を殴るという行為は喜ばしいことではないけれど、立ち向かう勇気を得たネビルに、よかったねとソフィアは返した。
それからソフィア達はハリーにお祝いを言うため、グランドに降りた。そこではグリフィンドール生に肩車されているハリーがいて。ハリーの周りには、沢山のグリフィンドール生が集まっていたのでハリーに近付くことはできず、ソフィア達はハリーに見えるように飛び跳ねながら歓声を贈った。