30
ソフィア達は箒置き場でハリーを待っていた。もうみんな寮に戻っているというのに、ハリーだけがまだ姿を見せない。暫くして、やっと箒置場に戻ってきたハリーに、ハーマイオニーは少し怒っていた。
「ハリーったら、いったいどこにいたのよ!」
「僕らが勝った!君が勝った!僕らの勝ちだ!」
「ハリー、とってもかっこよかった…ッ」
ロンがハリーの背を叩きながら言い、ソフィアは嬉しそうに微笑む。
「みんな談話室で君を待ってるんだ。パーティーをやってるんだよ。フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ」
「それどころじゃない」
ハリーの表情は、笑顔のロンとは打って変わって真剣で、彼が戻ってくるまでの長い時間の中で何かが起こったことを察した。
「どこか誰もいない部屋を探そう。大変な話があるんだ」
四人は校内に移動し、ピーブスがいないことを確かめてから、ある空き教室に入り扉をピタリと閉めた。ハリーは今し方見てきたこと、聞いたことを話し始めた。
ソフィア達よりかも前に箒置場にやって来たハリーは、明らかに人目を避けて禁じられた森に向かうスネイプの姿を見つけ、気になって後を追ったのだという。森では既にクィレルが待っており、賢者の石について話し始めたらしい。
「僕らは正しかった。賢者の石だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたんだ。スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いてた…。それと、クィレルの怪しげなまやかしのことも何か話してた…。フラッフィー以外にも何か別なものが石を守っているんだと思う。きっと、人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプがそれを破らなくちゃいけないのかもしれない……」
「それじゃ賢者の石が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」
不老不死になれる石を盗むことに、大きなリスクが伴うことは容易く想像出来るだろう。
***
スネイプとクィレルのやり取りをハリーが目撃してから、何週間かが経った。クィレルの表情はますます青白くやつれていた。そんなある日の放課後、まだまだ試験は先だというのに、試験勉強を始めたハーマイオニー。ハーマイオニーはハリーとロンにも今のうちから復習するようにと勉強することを進めた。
「ハーマイオニー、試験はまだズーッと先だよ」
「10週間先でしょ。ズーッと先じゃないわ。ニコラス・フラメルの時間にしたらほんの1秒でしょう」
「僕達、600歳じゃないんだぜ」
ロンは忘れちゃいませんか、と反論した。
「それに、何のために復習するんだよ。君はもう、全部知ってるじゃないか」
「何のためですって?気は確か?2年生に進級するには試験をパスしなけりゃいけないのよ。大切な試験なのに、私としたことが……もうひと月前から勉強を始めるべきだったわ」
ソフィアはハーマイオニーと一緒に勉強していた。これはハーマイオニーに進められたわけではなく、自分からしていることで。友人が勉強するなら、一緒にやった方がいいと思うのと、ハーマイオニーに教えて貰うこともできる。ハリーとロンは、そんな二人を横目に溜息を吐きながらも、教科書を開いた。
先生達は山のような宿題を出し、イースターの休みはクリスマス休暇ほど、自由気ままに過ごすことは出来なかった。ハリーとロンは、呻いたり欠伸をしたりしながらも自由時間のほとんどをソフィア、ハーマイオニーと一緒に図書室で過ごし、勉強に精を出した。
「こんなのとっても覚えきれないよ」
とうとうロンは値を上げ、羽ペンを投げ出すと、図書室の窓から恨めしげに外を見た。ここ数ヶ月ぶりの素晴らしい天気だった。空は忘れな草色のブルーに澄み渡り、夏の近づく気配が感じられた。
「ハグリッド!図書室で何してるんだい?」
それに顔を上げれば、バツが悪そうにモジモジしたハグリッドがそこにいた。背中に何か隠している。モールスキンのオーバーを着たハグリッドは、いかにも場違いだった。
「いや、ちーっと見てるだけ」
その何かを隠すような物言いは、たちまち皆の興味を引いた。
「おまえさん達は何をしてるんだ?まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね」
「そんなのもうとっくの昔に分かったさ」
ロンが意気揚々と言った。
「それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。賢者の――「シーッ!」」
ハグリッドはロンの言葉を遮ると、急いで周りを見回した。
「そのことは大声で言い触らしちゃいかん。おまえさん達、まったくどうかしちまったんじゃないか」
「ちょうどよかった。ハグリッドに聞きたいことがあるんだけど。フラッフィー以外にあの石を守っているのは何なの」
「シーッ!いいか、後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ。ここでそんなことをしゃべりまくられちゃ困る。生徒が知ってるはずはねーんだから。俺がしゃべったと思われるだろうが……」
「 じゃ、後で行くよ」
「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?」
ハグリッドが図書室から出て行ってから、ハーマイオニーが言った。
「もしかしたら石と関係があると思わない?」
「僕、ハグリッドがどの書棚のところにいたか見てくる」
勉強にうんざりしていたロンが勢い良く立ち上がって言い、ほどなくしてロンが本をどっさり抱えて戻ってきた。
「ドラゴンだよ!」
ロンがテーブルに置いたのは、どれもドラゴンに関する本だった。
「ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。ほら、見てごらん。イギリスとアイルランドのドラゴンの種類ドラゴンの飼い方、卵から焦熱地獄までだってさ」
「…そういえば、初めてハグリッドに会った時、ずっと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって…そう言っていたよ」
「でも、僕達の世界じゃ法律違反だよ。1709年のワーロック法で、ドラゴン飼育は違法になったんだ。みんな知ってる。もし家の裏庭でドラゴンを飼ってたら、どうしたってマグルが僕らのことに気づくだろ。どっちみちドラゴンを手懐けるのは無理なんだ。凶暴だからね。チャーリーがルーマニアで野生のドラゴンにやられた火傷を見せてやりたいよ」
「だけどまさかイギリスに野生のドラゴンなんていないんだろう?」
ハリーの問いかけに、ロンはすぐさま「いるともさ」と答えた。
「ウェールズ・グリーン普通種とか、ヘブリディーズ諸島ブラック種とか。そいつらの存在の噂をもみ消すのに魔法省が苦労してるんだ。もしマグルがそいつらを見つけてしまったら、こっちはそのたびにそれを忘れさせる魔法をかけなくちゃいけないんだ」
「じゃ、ハグリッドはいったい何を考えてるのかしら?」
それから、ハグリッドの小屋に行くまでの時間、ロンはハリーにドラゴンについて意気揚々と語っており、兄がドラゴン使いであることも関係していると思うが、ドラゴンについて博識なロンに彼らは少し驚いた。