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庭でウィーズリー兄弟の庭小人駆除をソフィア達も手伝っていると、家のほうからバタンとドアが開く音が聞こえた。どうやらロンたちの父親がたった今帰ってきたらしい。口うるさく文句を言っている最後の庭小人を、ジョージがぴょーんと放り投げると、五人は急いで庭を横切って家に駆け寄った。ウィーズリー氏は台所の椅子に倒れ込んで、眼鏡をはずし、目を閉じていた。細身で髪は薄かったけれど、残りわずかな毛髪は子供たちと全く同じ赤毛だった。
「ひどい夜だったよ」
子供たちが周りに座ると、ウィーズリー氏はお茶のポットをまさぐりながら呟いた。
「九件も抜き打ち調査したよ。九件も!マンダンガス・フレッチャーの奴め、わたしがちょっと後ろを向いた隙に呪いをかけようとし……」
ウィーズリー氏の視線が息子たちに注がれ、そのまま流れて端っこにいたハリーとソフィアで止まった。
「おや、君たちは?」
「ハリーとソフィアだよ、パパ!」
フレッドがハリーの肩に手を置き、ジョージがソフィアの肩に手を置いて、にこやかに言った。ウィーズリー氏は飛び上がって、感激したようにハリーを見て、そしてソフィアを見た。
「なんとまあ、君があの有名なハリー・ポッター君かい?そして君がソフィア・エムリスさんだね?よく来てくれた!二人とも。ロンがいつも君たちのことを───」
「あなたの息子たちが、昨夜ハリーとソフィアを『あなたが魔法をかけた車』を飛ばして連れてきたんです!」
ウィーズリー夫人が登場し、フレッドとジョージの笑顔は完全に消失した。ちなみにロンとウィーズリー氏のもだ。長い火掻き棒をまるで刀のように構えている奥さんを見て、ウィーズリー氏は罰が悪そうな目をしたが、すぐに息子たちに視線を移した。
「やったのか?うまくいったのか?つ、つまりだ───」
こそっと言っているつもりだろうが、ウィーズリー夫人には丸聞こえだったらしい。夫人の危険なオーラを悟って、ウィーズリー氏は口ごもった。
「そ、それは、おまえたち、イカン───そりゃ、絶対イカン……」
ウィーズリー夫人が大きな食用蛙のように膨れ上がったのを見て、ウィーズリー氏は弱った顔をし、ロンはハリーとソフィアに「いつものことだから、やらせとけばいいのさ」と囁いて、二人を台所から連れ出した。
「来いよ。僕の部屋を見せよう」
狭い廊下を通って凸凹の階段にたどり着き、それから二つ三つ踊り場を過ぎると、ペンキの剥げかけたドアにたどり着いた。小さな看板には『ロナルドの部屋』と書いてある。中に入ると、切妻の斜め天井に頭がぶつかりそうだった。部屋の中はまるで炉の中に入り込んだように、壁もベッドカバーも天井までも燃えるようなオレンジ色をしていて、壁紙の隅々までびっしりとポスターで埋め尽くされている───ロンのご贔屓のクィディッチ・チーム、チャドリー・キャノンズのポスターだ。七人の魔法使いの男女が部屋中のあちこちで、オレンジ色のユニフォームを着て、箒を片手にこちらに手を振っていた。
「ちょっと狭いけど」
部屋の中を舐めるように見つめていたハリーとソフィアに、ロンは何だか言い訳をするように口を開いた。
「君たちのマグルのとこみたいじゃないけど。それに、僕の部屋、屋根裏お化けの真下だし。あいつ、しょっちゅうパイプを叩いたり、うめいたりするんだ……」
ハリーとソフィアは顔を揃えて笑顔を見せる。
「僕、こんな素敵な家は生まれて初めてだ」
「…ここに来られて本当に嬉しい、ロン」
ロンは耳元をぽっと赤らめ、ソフィアとハリーをそんな大げさな、という表情で見つめた。その時、家の中から爆発音が上がった。ソフィアとハリーは驚いて目を見張ったが、ロンはくすりと一笑した。
「ああ、フレッドとジョージの部屋だよ。気にしてないで、いつものことだから」
新学期が始まるまでの一ヶ月を、この不思議で楽しい魔法の家で過ごすのかと思うと、ハリーの胸は高鳴った。ソフィアも初めて、生まれ育った施設以外で夏休みを過ごすことに大きなワクワクを感じていた。その日はくたびれていて、なんと夕食の時間になるまで、三人はロンの部屋でぎゅうぎゅうになりながら眠ってしまったのだった。
***
「隠れ穴」に来てから一週間ほど経ったある朝、またもやジニーが真っ赤になってオートミールの深皿を引っくり返して床に落とした時、ウィーズリー家のもう一羽のふくろう、ヘルメスが手紙を運んできた。パーシーが急いで窓辺まで駆けつけたが、手紙がホグワーツからのものだとわかると少し残念そうに肩を落としていた。
「ほら、君たちにも来てるよ。ハリー、ソフィア」
「ダンブルドアは君たちがここにいることをもうご存知だ。何一つ見逃さない方だよ、あの方は」
ウィーズリーおじさんが感心したように、どこか誇らしげに言った。ハリーとソフィアが肩を並べて手紙を読んでいる間、ジニーはハリーのほうを見ないように、ソフィアの手元をじっと見ていた。ソフィアは教科書のリストに目を走らせ、少しだけ眉をひそめた。
「君たちのもロックハートの本のオンパレードだ!『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生はロックハートのファンだぜ。こりゃ魔女だ」
間違いない、とフレッドは笑ったが、母親と目が合うと慌ててトーストにママレードを塗りたくった。
「この一式は安くないぞ。彼の本は何しろ高いんだ……」
今度はジョージがちらっと両親(主に母親)の顔をうかがいながら言った。ウィーズリー夫人は少しだけ口を引き結んだ後、やれやれと弱い笑みを浮かべた。
「まあ、なんとかなるわ。たぶん、ジニーのものはお古で済ませられると思うし……」
「あぁ、君も今年ホグワーツ入学なの?」
ソフィアのほうをじろじろ見ていたジニーに、ハリーが尋ねたことで、ジニーは驚いて肩を竦ませ頷きながら、バター皿に肘を思いきり突っ込んだ。しかしジニーの失態は、窓からのベチャッという物音によって、みんなの関心を避けることができた。ロンが窓を振り返ると、ボロボロ毛の抜けた灰色の毛ばたきのようなふくろう───エロールが力尽きて倒れ込んでいた。嘴には手紙をくわえている。
「やっと来た、エロールじいさん、ハーマイオニーからの返事を持ってきたよ。ハリーをダーズリーのところから助け出して、ソフィアも迎えに行くつもりだって、手紙を出したんだ」
ロンは勝手口の内側にある止まり木までエロールを運んで行って、止まらせようとしたが、エロールはポトリと床に落ちてしまった。「なんて悲劇的なんだ」と呟いて、ロンはふくろうを食器の水切り棚の上に載せると、そこから封筒をビリッと破った。そういえばソフィアにハーマイオニーからの返事はなかったが、こうしてロンと連絡を取り合っていたのなら少し安心した。
手紙の内容は、ロンがハリーとソフィアを迎えに行く際、違法なことをしなかったかと懸念する言葉と、エロールはあともう一回くらい配達をさせたら終わりではないかと忠告する言葉、夏休みでも彼女はバリバリ勉強に没頭していること。そして最後に、今週の水曜日に新しい教科書を買いにダイアゴン横丁へ行くから会えないかというお誘いが書いていた。
「ハーマイオニーのやつ、ソフィアに会いたくて仕方ないって書いてるよ。僕らはどうなるんだい」
ロンが少し恨めしそうな顔をして言った。ソフィアは柔らかに微笑んで、ハーマイオニーに会える水曜日を待ち遠しく思った。