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ウィーズリーおばさんは、水曜日の朝早くみんなを起こした。ソフィアはおばさんに起こされる前からすでに目が覚めていて、ベッドの毛布を整えたり着替えを済ませていた。にこやかにウィーズリーおばさんがソフィアに挨拶をして、ジニーを起こしにかかった。ソフィアが一足先に台所に下りていくと、まだ眠そうな顔が四つ並んで、黙々とベーコン・サンドイッチを食べていた。
全員が起きて、朝食が済んだ後、みんなはコートを着込んで暖炉の前に集結した。ダイアゴン横丁へは煙突飛行粉を使って行くらしい。煙突飛行粉初体験のハリーは、みんなから口々に注意を受けながら、ウィーズリーおじさんに続いて暖炉に入った。しかし誰がどう聞いても、ちゃんと「ダイアゴン横丁」とは言えていなかった。ウィーズリーおばさんはそわそわと落ち着かない様子で、ハリーを心配しながら、ソフィアのほうを見た。
「……ソフィアは大丈夫?ロン、あなた一緒に…」
「だ、大丈夫です…。気をつけます」
だが、今はそれよりもハリーのことが気がかりだった。しかし、ハリーがどこへ飛ばされたかわからない今、助けに行くこともできない。別の意味で青ざめながら、ソフィアは暖炉の中に入って、煙突飛行粉を一つまみ取り、はっきりと「ダイアゴン横丁」と叫んだ。
すぐにフレッドとジョージ、ウィーズリーおじさんの顔が見えた。三人は面食らったようにソフィアを見ていた。次に現れるのは当然ハリーだと思っていたからだ。ソフィアは急いで暖炉から出ると、事情を説明した。
「そりゃ……やらかしちまったなぁ、ハリー」
心配そうに言いながらも、フレッドの顔はおかしそうに笑っていた。ウィーズリーおじさんは、「せいぜい一つ向こうの火格子まで行き過ぎたくらいであればいいんだが…」と顔を歪めていた。ソフィアは次にやって来るであろうロンの到着も待たずに駆け出した。
「ソフィア!どこへ行くんだい」
「あの…私、心配だからどこかにハリーがいないか探してきます…っ」
そりゃ無謀だ、というフレッドの突っ込みも無視して、ソフィアはダイアゴン横丁に飛び出していった。一際大きな純白の建物───グリゴッツ銀行の前に差しかかった時、ソフィアは突然大声で名前を呼ばれ、慌てて足を止めた。ソフィアが目を上げると、グリンゴッツの白い階段の上からハーマイオニーが駆け下りてくるところだった。
「ハーマイオニー」
「会いたかったわ!ソフィア!」
通りの真ん中でハーマイオニーが思いきり飛びついてきた。ソフィアは驚いたが、しっかりと彼女を受け止め、後ろに倒れそうになった足をがんばって踏ん張らせた。
「ロンとハリーはどうしたの?あなた一人で来たの?」
「ううん。みんな一緒なんだけど、ハリーだけがちょっとはぐれちゃって……探してるの…」
ハーマイオニーはにこにこと笑顔を絶やさず、ソフィアの袖をぐいっと引っ張ると、グリンゴッツの入口に連れて行こうとした。彼女は有無を言わさずソフィアを両親に紹介したがった。
「私もロンの家に遊びに行きたかったんだけど、二年生に上がってますます授業が難しくなってついていけないと困るでしょう?そのための勉強が忙しくてとても時間が取れなかったの。ソフィア、今度は私の家にご招待するわね。まず、パパとママに挨拶しましょう」
相変わらず勤勉なハーマイオニーのふさふさした栗色の頭を、ソフィアは苦笑交じりに見つめた。一刻も早くハリーを探したかったが、ハーマイオニーの両親らしき二人が階段の一番上に立っているのを見て、ソフィアは仕方なく彼女について行った。
「パパ!ママ!紹介するわ、彼女がソフィア・エムリス。いつも話してた子よ」
ハーマイオニーの両親は二人とも穏やかな人柄で、ハーマイオニーほど何かに追われているようなせっかち気味な印象は受けなかった。でもそれは、二人が生粋のマグルであり、この魔法界にまだ慣れず不安を抱えているせいであることはすぐにわかった。
グレンジャー氏もグレンジャー夫人も、揃って素晴らしく歯並びが良かった。さすが実家が歯医者さんのハーマイオニーのご両親である。
「いつもハーマイオニーから聞いてるのよ。本当に綺麗な子ね、天使かと思ったわ」
「成績もとても優秀だと聞いているよ」
ソフィアからは困惑しきった笑顔しか生まれなかった。ハーマイオニーの過大評価のおかげで、グレンジャー夫妻の視線はソフィアがまさに貴重な神童でもあるかのようで、最高に居心地が悪くむず痒かった。それに、ハリーのことが気になって仕方ない。
「今、マグルのお金を魔法界の通貨に換金するためにここにいるのよ───あら?あれ、ハグリッドだわ!」
ハーマイオニーが指差す方向に急いで目をやると、人の群れの中からひょっこり肩から上が突き出しているハグリッドの姿が見えた。そして、その隣にはハリーが。ソフィアとハーマイオニーは急いで階下へと戻り、呼びかけた。
「ハリー!ハリー!ここよ!」
「ハーマイオニー!それに、ソフィア?」
ハリーはソフィアを見て驚いた様子だった。彼の眼鏡は半分割れていて、顔も服も煤だらけだ。ハグリッドが少し遅れてやって来て、ソフィアを見つけると嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「よう、ソフィア。ハーマイオニー。元気にしちょったか?」
「うん。ファングは元気?」
ハグリッドはもちろんだ、とモジャモジャの顔を綻ばせた。ハーマイオニーは煤だらけのハリーの顔に訝しげに目を走らせながらも、興奮の覚めない様子で再会を喜んだ。
「たった今、ソフィアに両親を紹介していたところよ。ハリーにもぜひ会って欲しいわ」
「うん……ちょっと待って。ウィーズリーさんたちを見つけてからじゃないと」
「お前さん、そう長く待たんでもええぞ」
ハグリッドの指差した先に、人混みでごった返した通りを、ロン、フレッド、ジョージ、パーシー、ウィーズリーおじさんが駆けてくるのが見えた。みんな一目散にハリーに向かってくる。
「ソフィア、大したものだ。よくハリーを見つけられたな」
ウィーズリーおじさんは息苦しそうに喘ぎながら言った。禿げた額に汗が光っている。ロンがハリーに何処から出てきたのか聞くと、ハリーではなくハグリッドが渋面を作って答えた。
「夜の闇(ノクターン)横丁」
フレッドとジョージが同時に「すっげぇ!」と叫び、ロンも羨ましそうにハリーを見つめた。ウィーズリー兄弟は、母親からそこへ行くことを固く禁じられているらしい。好奇心旺盛な彼らにはそれが正しい判断だ。すると、通りの向こうからウィーズリーおばさんが飛び跳ねるように走ってくるのが見えた。片手にハンドバッグと、もう片方の手にはジニーをぶら下げていて、どちらも大きく揺れていた。
「あぁ、ハリー!おぉ、ハリー!とんでもないところに行ったんじゃないかと思うと……」
息を切らしながらみんなのもとへ到着したおばさんは、カバンの中から大きなはたきを取り出し、ハリーの服の煤を払い始めた。ウィーズリーおじさんはハリーの壊れた眼鏡を取り上げて、杖で軽くひと叩きし、新品同様に修復させた。ハリーが再びノクターン横丁から出てきたことを聞いたウィーズリーおばさんは、恐ろしさにひっと息を呑み、ハグリッドの手を握り締めてお礼を言っていた。
「さあ、俺はもう行かにゃならん。みんな、ホグワーツでまたな!」
ハグリッドはそう言うと、大股で去って行った。ハグリッドがいなくなった後、みんなでグリンゴッツの階段を上りながら、ハリーはロンたちに『ボージン・アンド・バークス』の店でマルフォイ親子に会ったと話した。ハリーの後ろからウィーズリーおじさんが厳しい声で、ルシウス・マルフォイは何か買ったかと聞いたが、ハリーが「いいえ、売ってました」と答えると、少しだけ満足げだった。
「あぁ、ルシウス・マルフォイの尻尾をつかみたいものだ……」
「アーサー、気をつけないと」
ウィーズリーおばさんが厄介そうな顔で言った。おじさんは少しだけムッとしたが、ちょうど階段を上り切ったところでハーマイオニーの両親がいることに気づくと、たちまちそちらに気を取られた。足早に近づいていき、グレンジャー夫妻の持っていたマグルのお金を嬉々として見つめ、ウィーズリーおばさんも呼び寄せ、みんなで鑑賞していた。
「あとで、ここで会おう」
十ポンド紙幣の鑑賞会が終わると、ロンがハーマイオニーにそう言って、ソフィアはウィーズリー家とハリーと一緒に小鬼に連れられて、地下の金庫へと向かった。