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ついに夏休みが終わりを迎え、「隠れ穴」での一ヵ月もあっけなく終わった。最後の夜、ウィーズリーおばさんは魔法で豪華な夕食を作ってくれたし、夜の締めくくりにはフレッドとジョージが「ドクター・フィリバスターの長々花火」を仕掛け、台所を赤や青の星でいっぱいに埋めた。そして最後に熱いココアをマグカップでたっぷり飲み、みんな眠りについた。
翌朝、ソフィアはハリーとウィーズリー家の面々と一緒にキングズ・クロス駅に来ていた。ソフィアの隣をぴったりと離れないジニーは、いよいよ初めてのホグワーツ特急に緊張した面持ちでカートを引いていた。
トランクをぶらぶらさせながらプラットホームを歩いている途中、ソフィアはウィーズリーおばさんから「ジニーをよろしくね」と頼まれた。「はい」と笑顔で頷き、ソフィアはジニーの後から9と3/4番線のホームに入った。その後すぐウィーズリーおばさんもやって来た。
「さあ、席を取りましょう」
おばさんに急かされ、ソフィアはジニーの手を引いて汽車に乗り込んだ。ホームに入った時点ですでに出発の五分前だったこともあり、ソフィアとジニーは窓から身を乗り出してウィーズリーおばさんとおじさんに最後の挨拶をした。ソフィアはちらっと改札口を見た。
「…ハリーとロンはもう乗りましたか…?」
おばさんは見てないわ、と肩を竦めて、おじさんもそういえば、と改札口を一瞥した。乗車したのならば自分たちのコンパートメントに来ればいいのに、とソフィアは通路を左右に見回した。すると左側からフレッドとジョージがやって来て、ジニーの脇からウィーズリー夫妻に手を振った。
「気をつけるんですよ、みんな。ジニーのことしっかりよろしくね」
「行ってらっしゃい」
汽笛が鳴り響き、車体がガタガタと動き始めた。ソフィアは最後までホームのおばさんとおじさんに手を振ったが、二人が見えなくなると、途端にジニーを振り返って言った。
「私、ハリーとロンを探してくるね。…ここが空いてるって、教えてあげないと…」
「わかったわ」
ジニーは頷いて荷物を置いたコンパートメントに戻り、ソフィアは通路を左向きに歩いて行った。ハリーとロンを探す途中、たくさんの懐かしい顔と再会した。正直、こうやって一人で誰かと話すのは初めてだったので、緊張はしたが皆の優しさにそれも直ぐ和らいでいった。
同じグリフィンドール寮のネビル・ロングボトム、シェーマス・フィネガン、ディーン・トーマスは三人でコンパートメントを使用していたが、ハリーとロンのことを聞くと、こっちでは見かけなかったと言われた。
奥へ進むと、レイブンクローとハッフルパフの寮生がたくさんいて、一緒に座らないかと誘われたが、ジニーを待たせているので、やんわりと断った。更に奥に進むと、唐突にがちゃりとコンパートメントの戸が開いて、中からドラコ・マルフォイが現れた。
ソフィアを見ると一瞬ぎょっとしたように目を見開いたが、すぐに生意気な笑みを浮かべた。案の定、彼の後ろにはいつもの腰巾着であるクラッブとゴイルが立っていた。そしてソフィアも突然のマルフォイたちに驚き、不安と少しの恐怖で足がすくんでしまった。
「珍しいね、君が一人でいるなんて」
「……っ、あ、あの…」
手をぎゅっと握りながら、小さい声で言葉を紡ぐ。しかしそれを見ていたクラップは苛々してきたのか、鼻で笑うと見下しながら言う。
「さっさと喋れよ、この――「クラップ!黙ってろ」
ソフィアは正直驚いた。クラップがソフィアのことを馬鹿にしてきたが、それを止めたのはドラコだったのだ。いつもハリーと一緒にいるソフィアは、当然彼らに良い印象で見られていないと思っていた。
「…その…この向こうはもう監督生の車両…です、か?」
先ほどの不安も無くなり、ソフィアは素直に尋ねることができた。マルフォイは不思議にもソフィアと二人だと暴言の数は少なかった。出会ったその瞬間から火花を散らして睨み合うハリーたちと違い、ソフィアはそこまでマルフォイを嫌悪しているわけではなかった。
どっちかといえば、院にいたソフィアを苛めてきた男の子たちと重ねてしまい、恐怖の方があったと思う。マルフォイは少しだけ奥の車両を振り向いて、「そうだけど」と、まともに返事をした。
「あ、ありがとう…。それじゃあ…」
「…君、待てよ」
ソフィアが踵を返そうとすると、マルフォイはそれを呼び止めた。彼の表情には戸惑いと怪訝さが含まれているように感じた。
「父上が尋ねてきたんだが…君の両親…、名前は何と言うんだ?」
何故ドラコの父がソフィアの両親の名を知りたがるのだろう。先日、ダイアゴン横丁で会ったときもソフィアの顔を不審ぎみに見てきたが。
「……私…孤児なので、両親については…名前も、全く知らないんです」
「…そうか、知らなければいい」
勿論、嘘だった。ソフィアは一年の終わりに、ハグリッドから父親のことは顔も名前も教えてもらったが、あのルシウス・マルフォイとなると話は別。ルシウスが例のあの人の部下であったと聞いていたので、闇雲に情報を与えない方が身の為だと思ったからだ。ソフィアの両親のことは同級生ではハリー以外知らない事実なので、早々バレることもないだろう。
ソフィアの返事に対し、つっけんどんにマルフォイは言い、クラッブとゴイルを従えて去って行った。ソフィアは心持ちホッとしながら、反対側の車両を探そうと踵を返した。
一度ジニーのいるコンパートメントに戻って顔を覗かせると、そこにはハーマイオニーがジニーと並んで座っていた。ハーマイオニーは本を開いて、ジニーと楽しくおしゃべりしている最中だった。ソフィアは念のために彼女にも聞いてみた。
「ハリーとロン…見なかった?」
「私、右側の車両から来たんだけど、二人とも見なかったわよ」
ハーマイオニーが本をぱたんと閉じて、心配そうにソフィアを見上げた。ソフィアは嫌な予感がした。ひょっとして、ハリーもロンも乗り損ねた……?ジニーが「大丈夫だよ、きっと」と言ったが、彼女の顔も十分不安そうだった。
「ホグワーツに行く方法は、他にもいくつかあるはずだもの。心配いらないわよ、ソフィア」
「そ…そうだね……」
あの二人だ。何かとんでもない方法を思いつきそうで心配だ。