昼休み、ハリーとロンはまずマルフォイの愚痴を満足がいくまでこぼし続け、そのあと中庭で声をかけてきたコリン・クリービーというカメラ少年の一年生の話をした。
 ハリーに絶大な憧れを抱いていると言って、散々写真を撮られていたところをロックハートに見つかり、加えてマルフォイが現れ、ハリーは心の底から面倒な目に遭ったと疲れた顔をした。
 コリンは「あなたがソフィア・エムリスさんですね!」と興味津々にソフィアに詰め寄って来た。どうやらコリンはジニーの友達でもあるらしく、ジニーからハリーとソフィアの話を聞き、最近のソフィアの活躍の噂も相俟って、ぜひ話してみたかったらしい。

 その日を境に、ハリーはロックハートをひどく警戒するようになった。彼が廊下を歩いてくるのが見えるたびに、さっと隠れているハリーの姿をたびたび目撃した。しかし最悪な展開が起きた。ハリーがいないと、ロックハートは次に、最近の噂の中心人物であるソフィアに目をつけたようだった。まるで君が今有名になれたのは私のおかげなんだよ、とばかりに恩着せがましい態度でにこやかに近づいてくるロックハートに、ソフィアが嫌気をさすのは時間の問題だった。
 そして、ハリーたちの時間割を暗記して交流を図ろうとするコリン・クリービーの厄介な半ストーカー行為には、さすがにソフィアも参ってしまった。最初こそ優しく接していたが、ソフィアが優しければ優しいほどコリンのシャッターの音は増えていった。
 コリンにとって一番のスターがハリーならば、二番目はソフィアらしく、二人がツーショットになると最高に喜んでシャッターを切りまくった。ハリーは心底迷惑そうだったが、ソフィアは引き攣った笑顔を貼り付けるのが精一杯だった。

***

 クィディッチ・シーズンが始まった。土曜日の朝、ソフィアが起きて談話室まで下りていくと、ロンが一人でいた。ハリーは、同じチームのキャプテン、オリバー・ウッドに引っ張られ、早朝から練習に出かけてしまっていないらしい。
 今日はみんなでハグリッドの小屋に行く予定だったが、少し予定が遅れるかもしれない。ソフィアの後から下りてきたハーマイオニーも一緒に、三人は大広間へ朝食を取りに出かけた。朝食の席でコリン・クリービーを見かけなかったことにソフィアはほっとした。ロンがトーストにママレードを塗りたくりながら、今からハリーの練習を見に行こうと提案した。ソフィアもハーマイオニーももちろん賛成して、各々朝食用にトーストやクランペットを持ち出し、競技場へ足を運んだ。
 スタンドまで来ると、グラウンドには選手の姿が一人もなく、ロンはもぐもぐママレード・トーストをかじりながら首を捻った。その時、更衣室から真紅のユニフォームを着た選手たちが箒を持って入ってきて、その最後尾ではハリーが沈鬱そうな面持ちをしていた。ロンが声をかけた。口の周りにママレードがべたべたついている。

 「まだ終わってないのかい?」
 「まだ始まってもないんだよ。ウッドが新しい動きを教えてくれたんだ」

 ハリーはロンのトーストを羨ましそうに見つめながら言った。すると背後から、カシャッカシャッと音がして、選手共々一同は一斉に振り返った。
 スタンドの最後部の座席に座って、コリン・クリービーがハリーとソフィアに向けて、カメラを高く掲げ、次から次へと写真を撮りまくっていた。ウッドが大いに不愉快そうな表情を浮かべていた。

 「こっちを向いて、ハリー!ソフィア!こっちだよ!」

 コリンの黄色い声を無視して、ハリーとソフィアは目を合わせて溜息をついた。フレッドとジョージも面白くなさそうな顔で、「あれ誰?」とハリーとソフィアに聞いた。
ハリーが即座に「全然知らない」と嘘をついたので、ソフィアは黙り込んだ。ウッドがコリンをスリザリンのスパイかもしれないと疑っていた、その時だった。ジョージの指差す方向に、グリーンのローブを着込んだ箒を持った集団がぞろぞろ競技場に入ってきた。ウッドが怒りで歯ぎしりし、一直線に駆け出して行った。他の選手たちも、ハリーも後に続いて行った。

 「揉めそうだぞ……」

 ロンはトーストの最後の一欠けらを口に放り込んで、立ち上がった。ソフィアとハーマイオニーも同様に立ち上がって、芝生を横切り、剣呑なムードが漂う赤と緑の集団に近づいた。よく見ると、スリザリンのクィディッチ・チームの真ん中には、ドラコ・マルフォイがユニフォームを着て立っていた。ロンがハリーに近づいて聞いた。

 「どうしたんだい?あいつ、こんなとこで何してるんだい?」
 「ウィーズリー、僕はスリザリンの新しいシーカーだ」

 マルフォイが満足げに言った。

 「僕の父上がチーム全員に買ってあげた箒を、みんなで賞賛していたところだよ」

 ロンの目がスリザリン・チームが持っている箒を見た瞬間、口があんぐり開いた。七人ともピカピカに磨き上げられた新品の箒を持っている───最新型のニンバス2001だ。

 「グリフィンドール・チームも資金集めして新しい箒を買えばいい。クリーンスイープ5号を慈善事業の競売にかければ、博物館が買いを入れるだろうよ」

 スリザリン・チームから下品な大爆笑が起きた。ハーマイオニーがずいっと前に出て、きっぱりと言った。

 「少なくとも、グリフィンドールの選手は、誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」

 マルフォイの高慢ちきな顔がちらりと歪んだ。

 「誰もお前の意見なんか求めてない。生まれそこないの『穢れた血』め!」

 最悪にひどい悪態だった。魔法界では、禁句とも言えるような言葉だ。

 「マルフォイ、思い知れ!」

 ロンはフリントの脇の下からドラコの顔に向けて杖を突きつけ、呪文を唱えたが、壊れた杖は逆噴射してロンに当たった。呪文の当たったロンは次々とナメクジを吐き出している。

 「ハグリッドのところに連れて行こう。一番近いし」

 森番の小屋が見えてきてホッとしたのも束の間、突然ハリーが囁いた。

 「早く、こっちに隠れて」

 脇の茂みにロンを引っ張り込み、ソフィアとハーマイオニーもそれに従う。小屋の戸が開き、中から鮮やかな藤色のローブを纏ったロックハートが出てきたのだ。

 「やり方さえわかっていれば簡単なことですよ」

 ロックハートが声高にハグリッドに何か言っている。

 「助けて欲しいことがあれば、いつでも私のところにいらっしゃい!まだ持っていないと聞きましたのでね、私の著書を1冊進呈しますよ」

 では、とロックハートは城の方に颯爽と歩き去った。ハリーは彼の姿が見えなくなるまで待って、それからロンを茂みの中から引っ張り出し、ハグリッドの小屋の戸口まで連れて行った。
 そして慌ただしく戸を叩いた。ハグリッドはすぐに出てきたが最初は不機嫌な表情で、しかし客が誰だかわかった途端、パッと笑顔になった。

 「待っとったぞ。さぁ入った、入った!」

 四人は一部屋しかない小屋の敷居をまたいだ。片隅には巨大なベッドがあり、反対側の隅には楽しげに暖炉の火が爆ぜていた。ハリーがロンを椅子に座らせ、ソフィアとハーマイオニーが手短に事情を説明した。ハグリッドはロンの容態にまったく動じない。

 「みんな吐いちまえ。出てこんよりは出た方がええからな」

 ロンの前に大きな銅の洗面器をポンと起き、ハグリッドは朗らかに言った。

 「ロックハートは何の用で来ていたの?」

 ハリーが聞いた。足元にハグリッドの犬、ボアハウンドのファングが涎をたらしている。

 「井戸の中から水魔を追っ払う方法を俺に教えようとしてな」

 唸るように答えながら、ハグリッドはしっかり洗い込まれたテーブルから、羽を半分むしりかけの雄鶏を取り除けて、ティーポットをそこに置いた。

 「まるで俺が知らんとでも言うようになぁ…」

 呆れたように、溜め息混じりに言った。

 「何でも泣き妖怪とかを何とか追っ払ったとか………やっこさんの言ってることが1つでもホントだったら、俺はへそで茶を沸かせてみせるわい」

 ホグワーツの先生を批判するなんてまったくハグリッドらしくなかった。ハーマイオニーはいつもよりちょっと上擦った声で反論した。

 「それって、少し偏見じゃないかしら?
ダンブルドア先生は、あの先生が1番適任だとお考えになったわけだし――」
 「他に誰もいなかったんだ」

 ハーマイオニーの言葉をハグリッドが遮った。糖密ヌガーを皿に入れて四人に勧めるのを忘れずに。

 「人っ子ひとりおらんかったんだ。闇の魔術の先生をする者を探すのが難しくなっちょる。んで?ロンは、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」
 「マルフォイだよ…ハーマイオニーを、酷い呼び方してた…」

 ソフィアがハーマイオニーを気遣いつつ答えた。ハーマイオニーは静かに立ち上がった。少し赤い目をしている。

 「…穢れた血ですって」

 それを聞いた途端、ハグリッドは大憤慨し唸り声をあげる。

 「そんなこと、本当に言うたのか!?」
 「あいつの思いつく限り最悪の侮辱の言葉だ」

 ロンが真っ青な汗だらけの顔を上げて言った。

 「あの…どういう意味、なの?」

マグルの世界で育ったハリーとソフィアには聞きなれない単語だった。

 「『穢れた血』って、マグルから生まれたっていう意味の――つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。魔法使いのなかには、たとえばマルフォイ一族みたいに、みんなが『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思ってる連中がいるんだ」

 言った後に小さなゲップをして、またナメクジが1匹飛び出した。ロンはそれを手でキャッチして洗面器に投げ込んでから話を続けた。

 「もちろん、そう言う連中以外は、そんなことまったく関係ないって知ってるよ。ネビルを見てごらん――あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけたりしかねない。それに、俺たちのハーマイオニーが使えねぇ呪文は、今までにひとっつもなかったぞぃ」

 ハグリッドが誇らしげに言ったので、ハーマイオニーは嬉しそうに頬を紅潮させた。ハグリッドの小屋からグリフィンドールの談話室に帰ってくると、ハリーとロンは憤慨した。
 マルフォイの件はもちろん、二人の罰則が今夜に決定したことが原因らしい。むろん、歓迎会の日に違法の車でホグワーツまで飛んできたことや、その際、校庭の暴れ柳を傷つけたことに対する罰則である。ハーマイオニーはもうマルフォイのことなど気にしていない様子だ。
 去年に引き続くマルフォイやスリザリン寮生たちとの確執も、きっとすでに和睦など到底有り得ないところまで来ているに違いない。むっつりと憂鬱そうに眉根を寄せたハリーとロンに、ソフィアは何の罰則なのか聞いてみた。

 「それが聞いてくれよ!ハリーはロックハートのファンレターの返事書きで、僕はフィルチとトロフィー・ルームで銀磨きだぜ?」

 確かにどっちも最悪な罰則だったが、ロンにしてみればロックハートのほうが良く見えて、ハリーからはロンが羨ましく思えたようだ。どちらの気持ちも痛いほどわかる。ハーマイオニーは「だって校則を破ったんでしょ」という顔をして、同情する気はさらさらないようだった。

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