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ミセス・ノリスを襲ったのは誰か?
「秘密の部屋」を開くスリザリンの継承者は誰か?
マグル出身をホグワーツから追い出したいと願っているのは誰か?
こうした数少ない示唆から、ハリーたちが犯人像をドラコ・マルフォイに結び付けることは、ソフィアの予想の範囲内だった。ハーマイオニーだけはまさか、と疑わしそうだったけれど、ハリーとロンはその可能性があまりにも有力だと彼女を説得した。
ソフィアも確かに可能性はゼロだとは言い難かったが、それは何だかあまりにも短絡的で、犯人(ドラコとは言わない)には知性が乏しいと思わざるを得なかった。
容疑者ドラコ・マルフォイの尻尾を掴むためにと、ハーマイオニーが発案したのは「ポリジュース薬」だった。四人で誰かスリザリンの生徒に変身し、マルフォイから秘密を聞きだす作戦だが───「ポリジュース薬」はかなり高度な調合の上、材料も貴重であり、おまけに危険ときた。校則はざっと五十は破ることになろう。とても生徒が簡単に作れる薬でも、作ろうと思える薬でもないのに、
ハーマイオニーは調合に関しては何も心配していないようで、さっそく綿密に計画を練り始めていた。ソフィアはあまり気乗りはしなかったけれど、今回は彼らの作戦に身を委ねることにした。
授業がない金曜日の午後、図書館で「ポリジュース薬」の調合法や必要な材料が載っている「最も強力な魔法薬」の本を借りた後、四人はこそこそと再びあの「嘆きのマートル」の「故障中」のトイレに向かった。ロンはいまだにパーシーと険悪なムードが続いていたため、二度もこの場所に入るところを見られる危険は絶対に避けたかったのだが、
「まともな神経の人はこんなところには絶対来ないわ。だから私たちのプライバシーが保障されるのはここしかないの」
とのハーマイオニーの言葉をしぶしぶ了解したのだった。「嘆きのマートル」はまた自分の小部屋でうるさく泣き喚いていたが、ハーマイオニーの指示のもと、誰も相手にしなかった。それにマートルもソフィアたちを完全に無視していた。ハーマイオニーは「最も強力な魔法薬」を大事そうに開き、湿ってしみだらけのページに四人が覆い被さるようにして覗き込んだ。
「クサカゲロウ、ヒル、満月草にニワヤナギ───ウン、こんなのは簡単ね。生徒用の材料棚にあるから、自分で勝手に取れるわ。見てよ。二角獣の角の粉末…これ、どこで手に入れたらいいかわからないわ」
「それなら、前にスネイプ先生の研究室で…見たことがあるよ」
ソフィアがそう言うと、ハリーとロンはぎょっとして顔を上げたが、ハーマイオニーはでかしたとばかりに笑顔を浮かべた。ロンが「何でそんなこと知ってるんだい?」と聞いてきたが、以前ソフィアがスネイプ先生の研究室へレポートを届けに行ったとき偶然見かけ、初めて見るものだったので、ソフィアも珍しく興味を引かれ見ていると、ややぶっきらぼうに先生が教えてくれたのだ。
「毒ツルヘビの皮の千切り、これも難しいわね───それに、当然だけど、変身したい相手の一部」
またしてもハリーとロンは顔を上げ、ロンがハーマイオニーに鋭く聞いた。
「どういう意味?変身したい相手の一部って。僕、クラッブの足の爪なんか入ってたら、絶対飲まないからね」
それは確かにソフィアも遠慮したかった。考えただけでも鳥肌どころでは済まない。魔法薬に関しては成績をキープできているが、ソフィアは苦手だという意識がしっかり自分の中にあったため、ハーマイオニーが黙々と計画に取りかかっている間、一切何の口出しもしなかった。
「でも、それはまだ心配する必要はないわ。
最後に入れればいいんだから……」
ロンの言葉も、ロンが絶句しているのも無視して、ハーマイオニーはさらっと言った。そういえば、当たり前のように見逃していたが、「ポリジュース薬」の提案といい、今回のハーマイオニーは少し変だった。彼女が心底大切にしている校則を自ら破りにかかっているし、規則に反することをどこか楽しんでいる風がうかがえた。
聞くところによれば、マグル生まれの者を脅迫する不届きな輩の方が、ややこしい魔法薬を密造することよりずーっと悪いことだ、と、ハーマイオニーはしれっと宣言した。
まるで自分がマグル生まれ代表であるかのように、彼女の瞳は悪に立ち向かう正義感で満ち溢れていた。打倒、ドラコ・マルフォイを誓って。
「でも、造るのにどのぐらいかかるの?」
ハリーが尋ねた時、背後の小部屋でマートルがひくっと嗚咽を漏らし、少しだけ静かになった。ハーマイオニーはページに視線を落としながら、うーん、と唸った。
「そうね。満月草は満月のときに摘まなきゃならないし、クサカゲロウは21日間煎じる必要があるから……そう、材料が全部手に入れば、だいたい一ヵ月で出来あがると思うわ」
「一ヵ月も?マルフォイはその間に学校中のマグル生まれの半分を襲ってしまうよ!」
ロンが絶望したように言ったが、ハーマイオニーがまた危険な色を瞳に宿したため、慌てて付け加えた。
「でも、今のところそれがベストの計画だな。全速前進だ」
ところが、四人がトイレを出ようとした時、ハーマイオニーが誰もいないことを確かめている間、ロンはハリーとソフィアにそうっと囁いた。
「明日ハリーがマルフォイを箒から叩き落としゃ、ずっと手間が省けるぜ」
そう、明日は今年のクィディッチ・シーズン初のグリフィンドール対スリザリン戦だったのだ。