ホグワーズ特急が出発してからハリーは流れて行く景色を見ていると、丁度カーブに差し掛かったところで遠慮がちにコンパートメントの扉をノックする音が聞こえてきた。

「あの、ここ空いてる?」

顔を覗かせてきたのは先ほど駅で会ったあの赤毛の少年だった。

「他はどこもいっぱいで…隣も一人だけみたいなんだけど、何だか無愛想で怖くて」

眉をハの字に曲げながら情けない声を出す少年に、ハリーは快く頷いた。

「空いてるよ。どうぞ」

了承得れたことで少年はほっとしたようにトランクを引きずり、2人の向かいの席に腰を下ろした。
すると今度は直ぐにコンパートメントの扉が勢い良く開かれ双子が入って来た。

「おいロン!俺等は真ん中あたりの車両に行ってるぜ。
リー・ジョーダンがでかいタランチュラ持って来たって」
「分かった」

どこかまごついたように、ロンという少年は頷いた。
そしてロンに話しかけたのとは別の一人がハリーを見た。

「ハリー!自己紹介したっけ?
俺等はフレッドとジョージ・ウィーズリー。で、こっちが弟のロンだ。また後でな」

ハリーが何か言う間もなく、双子は慌ただしく足早に去って行った。
ロンは慣れっこなのか軽く返事をし、微かに開いたままになっていた扉を冷静に締め直している。
一体どちらがフレッドとジョージなのかロンは区別が付いているのだろうか、と視線を上げると丁度ロンもこちらを見たところだったらしく目が合った。

「君、本当にハリー・ポッターなの?」

思わず、といった調子でロンが言った。
ハリーが頷くと、ロンはあんぐりと口を開け、どこかそわそわしたように辺りを見渡した。

「へぇ、……そっか。僕、またフレッドとジョージの冗談かと思ってた。
あー、じゃあ本当にあるの?……ほら……」

ロンはハリーの額を指差した。
やはり、生き残った男の子の代名詞とも言える額の傷は誰もが気になるのだろう。
漏れ鍋でも同じ様に興味を示された事を思い出し、ハリーは苦笑した。
ハリーが前髪を掻きあげると、ロンは感嘆のため息を漏らし、食い入るように稲妻形の傷を見つめて来た。

「これが、例のあの人の──」
「うん。でも僕、何も覚えてないから…」
「何にも?全然?」
「うん」

ハリーが黙ってしまうと、ロンはどこか居心地が悪そうに視線を逸らし
不思議そうな目でソフィアの方を指差した。

「そっちの子は?」
「この子はソフィア。僕らと同じ一年生だよ」
「へぇー…」

彼女がずっとフードを被っているため顔を見ることはできない。
それどころかこちらを見ようともしないため、他人からすれば一見、近寄りがたい雰囲気を感じる。
しかしソフィアは意を決したのか、その白い手でゆっくりフードを下ろした。

「ソ…ソフィア・エムリス…よろしく、ね…」

おぼつかない自己紹介だが、一生懸命に喋ろうとしているのは十分伝わった。
常人にはないような白く長い睫毛が、少し下を向いている。
ロンはソフィアの姿に魅入ってしまったのか口をポカンと開けていると、

「…か…かわい…」

と、小さな声で呟いた。
だが自分が何を言ってしまったのか、ハッと我に返ったロンは慌てて自らの口を手で塞ぐ。
どうやらハリーとソフィアには聞こえていなかったようだ。

「ソフィアはちょっと人見知りが激しいから…誤解を生んじゃうかもしれないけど、根はとっても優しい子なんだよ」

少しでもソフィアのカバーになるようにハリーは言う。
そんなハリーの気遣いに彼女は恥ずかしさが極限に達したのか顔を真っ赤にさせると、それを覆い隠すようにまたフードを深く被った。
2人のそんなやり取りを見てロンは「いいなぁ…」と羨ましがっていたとか。

「ねぇ、ロンの家族はみんな魔法使いなの?」

ふとハリーは一つ気になっていたことを尋ねる。

「あぁ、うん。そうだと思うよ」
「じゃあ、きっともういろんな魔法を見てきたんだろうね。いいなあ」
「……君はマグルと一緒に暮らしてたって聞いたけど、どんな感じなの?」

ロンの言葉に、ハリーはきょとんと目を丸くした。
確かに生き残った男の子のその後がどうなったのか、噂にくらいなっていてもおかしくないのかもしれない。
ハリーは実際の所どこまで正確に知られているのか少しだけ気になったが、ひとまずロンの質問に答えるべく言葉を探して視線を泳がせた。

「うーん、……酷かった」

一言で終わってしまった。
ぽかんとするロンを見て、ハリーは慌てて付け加えた。

「あぁ、もちろん皆が皆そうって訳じゃないんだけど。
おじさんやおばさん、あと従妹のダドリー意地悪でさ。
……僕にもロンみたいに魔法使いの兄弟がいれば良かったのに」

ハリーは心の底からの羨望の気持ちを込め、ロンを見た。
もしハリーに血の繋がった魔法使いの兄弟がいたら、どんなに素敵で楽しかっただろう。
ロンはそんなハリーに顔を顰めると、大げさに肩を竦めてみせた。

「そんなにいいもんじゃないよ。言ったっけ?
僕、他に六人も兄弟がいるんだ。期待に応えるのが大変でさ……」
「兄弟はどんな事をしてるの?」
「ああ、一番上のビルと二番目のチャーリー以外はまだホグワーツにいるよ。
ビルはグリンゴッツで働いてて今はアフリカに行ってる。チャーリーは、ドラゴンキーパーで、ルーマニア。
ビルは首席だったし、チャーリーもクィディッチでキャプテンだったんだ。
三番目のパーシーだって今年は監督生だし…」

ロンは先ほど言いかけていた事を思い出したのか、饒舌になって喋り始めた。

「フレッドやジョージだって、悪戯ばっかりしてるのに成績はいいんだ。みんな二人を面白い奴だって思ってる。
僕も他の兄弟たちみたいに優秀だろうってみんなは期待するんだけど、仮にそうだとしてもさ。
兄貴達と同じ事をしただけだから、大したことじゃ無くみえるんだ。
それに、上に五人もいるから何も新しい物を貰えなくて……」

チャーリーが話していた事を思い出し、ハリーは頷いた。

「ローブはビルのお下がりだし、杖はチャーリーのだ。
ペットだって、パーシーのだったねずみを貰ったんだよ」

ハリーはダイアゴン横丁で見た杖を思い出し、不思議な縁もあるものだと感慨深く思った。
するとロンは上着のポケットから無造作にある物を引っ張り出した。
それを見たソフィアは小さな悲鳴を上げた。

「あれ、ソフィアねずみは苦手?」

ソフィアがハリーの服の裾を強く握り、コクコクと頷く。
その様子に苦笑したハリー、ロンは「ゴメン、ゴメン」と言いネズミを離さないようにしっかり握った。

「スキャバーズっていうんだ。寝てばっかりいてさ、役立たずだよ。
パーシーは監督生になったお祝いに父さんからふくろうを買ってもらって……
でも家はそれ以上余裕が無いから、うん、だから僕にはお下がりのスキャバーズなんだ」

ロンは喋り終えるとスキャバーズをローブに仕舞い、今度は恥ずかしそうに耳元を染めた。
喋り過ぎたと思ったのか、それっきり口を閉ざして窓の外に視線を移してしまう。
ロンの気を紛らわせるように、ハリーが自分もお下がりばかりで、まともなプレゼントを貰った事が無い事などを話すと、ロンは少し元気が出たらしく、また陽気に話し出した。
途中、ハリーがヴォルデモートの名を口にしかける度に大げさな反応が返ってきたが、学校の事や魔法界の事を面白おかしく話してくれるロンのおかげであっという間に時間は過ぎて行った。

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