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まだ外が暗い時間帯。ハッキリ言ってしまえばこの時間に起床できたのは、ソフィアの日頃の習慣からか。一番前に二人で歩くウィーズリー氏とハリーは完全に目が覚めているらしくキビキビ歩いている。
ロンやハーマイオニー、ジニーも欠伸混じりだが、足取りはしっかりしたものだった。フレッドとジョージは彼女の両脇で、仏頂面を作りノタノタ歩いていた。出掛ける直前に夫人から発明品(命名:双子)の全てを没収されてしまい、それからずっとこの様子だった。双子と言えど眉間の皺の数まで同じことに、ソフィアは驚いたが声には出さなかった。
ストーツヘッド・ヒルを登り始めると、息切れをしだす者が現れた。あちこちでウサギの巣穴に躓いたり、生い茂る草の塊に足を取られたりした。呼吸ひとつがとても深くなり、肩も上下する。
ソフィアは転びそうになる度フレッドかジョージに助けられた。危ないからと、今や両手が彼らと手を繋いでる状態である。足が動かなくなり始めた時、やっと彼女たちは平らな地面を踏みしめた。
「フーッ」
ウィーズリー氏は喘ぎながらメガネを外し、セーターで拭いていた。ソフィアたち三人が、手を繋いだまま並んで最後に上ってきた。
「やれやれ、ちょうどいい時間だ。あと10分――」
「アーサー!!」
ウィーズリー氏がメガネを掛け直し、目を凝らしてあたりを見渡していると、突然大きな声がした。しんとした空気が声の振動で揺れる。
「ここだ、アーサー!息子や、こっちだ。見つけたぞ!」
丘の頂きの向こう側に、星空を背に長身の影が二つ立っていた。ウィーズリー氏は大声の主の名を呼び、ニコニコと大股で近付いていく。みんなも彼の後に従った。するとウィーズリー氏は褐色のゴワゴワした顎髭の、血色のよい顔の魔法使いと握手した。男は黴だらけの古いブーツをぶら下げている。
「みんな、エイモス・ディゴリーさんだ。『魔法生物規制管理部』に勤めている。息子さんのセドリックは知ってるね?」
セドリック・ディゴリーは、ハリーたちより二学年上の生徒だ。灰色の瞳をした背の高いハンサムな青年である。ホグワーツで、たしかハッフルパフのシーカーだったはずだ。心なしかソフィアのほうを見ている。
「やあ」
いつの間にかソフィアの前に立っているセドリックが少し恥ずかしそうに言った。皆と同じようにソフィアも挨拶を返し、また歩みを勧めようと足を動かす。
「ソフィアの噂はキミが一年生の時から聞いてたんだけど、今こうやって会えて嬉しいよ」
セドリックは当たり前のようにソフィアの隣に並んでいた。どうやらこのまま「移動キー」まで彼と並んで行くらしい。双子がその様子を見て気に食わなさそうな顔をしていた。
「噂…?」
「凄く綺麗ってこと」
「え、」
「あと、頭も良くて成績優秀とかね」
「も…もういいから…っ」
「あ、恥ずかしがり屋っていうのも本当なんだ」
クスクス笑いながらセドリックは言う。彼にからかわれたか褒められたか、よく分からないけれど自然とソフィアの顔に熱が昇っていった。
「おーい、セドリック」
「オレ等の姫とあんまイチャつかないよーに」
「何だよ嫉妬かい?」
双子とセドリックがわいわいと話している間、ソフィアはふと前方へと視線を向けた。
もう彼の隣には立てないのだろうか、昔みたいに裾を掴んで歩けないのだろうか…大人になっていく彼はそのレンズ越しに何を映すのだろうか。
お目当ての「移動キー」を一足先に見つけていたディゴリー氏は皆を案内していく。
「さあみんな、集まって!指一本でいい、ポートキーに触ってくれ」
エイモスか掲げる古いブーツに、みんな手を伸ばした。大人数なのでそれだけでぎゅうぎゅう詰めだ。ウィーズリー氏が懐中時計に目を落とし呟いている。
「あと三秒、二秒、一秒――」
突然、ぐいと上に持ち上げられる感じがした。両足が地面と離れる。 ぐるぐると視界がまわり、猛スピードで色の渦の中を進んでいる。ぱっと両足が地面についたとき、ソフィアを支えたのはセドリックだった。エイモスとウィーズリー氏はソフィアたちと同じように地面に立っていたが、他はみんな地べたに転がっている。
「五時七分――ストーツヘッド・ヒルから到着ー!」
アナウンスが流れた。
「あ、ありがとう、セドリック」
「どういたしまして」
ソフィアは苦笑ぎみにセドリックを見上げた。セドリックはソフィアの腰から手を離して、ソフィアの乱れた髪をさっと手櫛で梳かしたあと、転がっている女の子たちを助け起こしに行く。エイモスの言葉通り、本当に紳士だ。
ディゴリー親子と別れ、ソフィアは皆とともにテント村に辿り着いた。朝日が初々しく昇り、霧も晴れ、いまはあたり一面に広がったテント村が見渡せた。
ソフィア、ハリー、ロン、ハーマイオニーの四人は、ヤカンとソース鍋をぶら下げキャンプ場を通り抜けている最中だ。無事テントも張れたウィーズリー氏その他一行は、一先ず普通に生活できる環境を作ることに取り掛かった。魔法使いのテントは見た目の割に広い作りで、キッチンも内蔵されている。しかしマグルに見つかったら、という配慮から、彼らは本当にキャンプをするように振る舞う羽目になった。