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夕方が近付くにつれ、興奮の高まりがキャンプ場を覆う雲のようにハッキリと感じとれた。夕暮れには凪いだ夏の空気さえ期待と熱気の顕れのようにすら思える。試合を待つ何千人という魔法使いたち、それを夜の帳がすっぽり覆う。ここまで来れば最後の慎みも吹き飛んだ。あからさまな魔法の印があちこちで上がっても、とうとう魔法省は出てこなくなった。
行商人がそこら中に『姿現わし』して、超珍品の土産物を盆やカートにこんもりと積んでいた。ありとあらゆるファングッズに圧倒される。光るロゼットが黄色い声で選手の名前を叫ぶ。打ち振ると国歌を演奏する両国の国旗や、本当に飛ぶファイアボルトのミニチュア模型。コレクター用の有名選手の人形は、手に乗せると自慢気に手のひらの上を歩き回った。
「夏休み中、ずっとこの為にお小遣い貯めてたんだ」
四人で一緒に物売りの間を歩き、土産物を買いながらロンが言った。彼は踊るクローバー帽子と大きな緑のロゼットを買って、更にビクトール・クラムのミニチュア人形も買っていた。人形は彼の手の上を歩きながら、ポスター同様、顔をしかめている。
「これは何?」
ハーマイオニーが真鍮製の双眼鏡のようなのがうず高く積んであるカートに駆け寄った。ソフィアはそれらに見覚えがあった。以前、クリスマスプレゼントでルームメイトの子から貰ったのだ。
「万眼鏡だわ」
「よく知ってるな、嬢ちゃん」
ソフィアの言葉をセールス魔ンが継いだ。
「アクション再生ができる。スローモーションも、コマ送り再生だってお手の物さ」
なんとこれが一個10ガリオン!大安売りさ、とセールス魔ン。ロンが踊るクローバー帽子を指差してこう言った。
「こんなの買わなきゃよかったよ」
いかにも物欲しげな目で万眼鏡を見つめている。動いたのはハリーだった。
「四個ください」
きっぱりそう言う彼に、ロンは顔を赤くした。
「ハリー、私はもう持ってるから三個だわ」
割り勘ね、とソフィアも前にでる。三人分を二人で払う。一人15ガリオンの買い物だ。「気を使うなよ」と後ろでロンが呟いた。それでも二人は躊躇なく金貨の入った袋を開ける。ハリーとソフィアは両親から、、ちょっとした財産を相続したこと、そしてロンよりずっと金持ちだということ――このことで、彼はいつも神経過敏になる。
「クリスマスプレゼントは、なしだよ」
ハリーはロンに、ソフィアはハーマイオニーの手に万眼鏡を押し付ける。
「しかも、これから10年くらいね」
そう言って二人が同じように笑い掛けると、ロンもニッコリした。
「いいとも」
「ありがとう2人とも!じゃあ私はプログラムを買うわ!」
財布がだいぶ軽くなり、四人はテントに戻った。ビル、チャーリー、ジニーの三人も、みんな緑のロゼットを着けていた。ウィーズリー氏はアイルランド国旗を持っている。フレッドとジョージは全財産をはたいて賭けに参加したので、何もなしだった。
「本当に何もなくていいの?」
「女の子に金を借りるほど落ちぶれちゃいないさ」
ソフィアが聞くと二人はニヤリと笑った。その時、どこか森の向こうからゴーンと深く響く音が聞こえた。同時に木々の間に赤と緑のランタンがいっせいに灯り、競技場への道を照らし出した。
「いよいよだ!さぁ、行こう!」
ウィーズリー氏も、みんなに負けず劣らず興奮していた。ソフィアは上着を着て、帽子を被り髪を纏めて入れた。