恐る恐る銀髪をさらりと撫でると、女の子はソフィアの胸元に飛び込んできた。しっかりと受け止めて背中をさすってやると、声を押し殺して泣き始める。時折零れる嗚咽を聞きながら、少女の両親を探さなければとソフィアは、「あなたのご両親はどこ?」と聞いた。

 「ウ エ フラー。ラヴォン ペルデュー」

 女の子は、聞き馴染の無い言葉を話しながら顔を上げた。あぁ……とソフィアは、肩を落とす。どうやら、少女は外国人で英語が通じないらしい。さて、どうやってこの人ごみの中から彼女の親族を探したらいいんだろう? と考えていると、きゅっと杖を持っていない方の手を握られた。

 不安そうに揺れている双眼から涙が一筋零れ、頬を伝う。置いていかないで、と言われているような気がしたが、最初からこんなに幼い子供を置き去りにするつもりなんて毛頭ない。

 それに、これだけ目立つ子ならご両親も相当華やかな外見をしているだろうし、もしかしたら向こうから気が付いてくれるかもしれない。

 「探しに行こう。きっと見つかるわ。今頃、必死になってあなたを探しているはずよ」

 立ち上がって女の子の手を引くと、ソフィアの言葉を分かっているのかいないのか、小さく頷いて少女も立ち上がった。

 はぐれないようにしっかり手を繋ぎ合って、小道の奥へ進んでいく。少女とよく似た外見の人や、ハリー達の姿を探しながら更に道の先へ歩いていくと、パジャマ姿のティーンエイジャーたちが塊って、喧しく言い争っている。ソフィアの手を掴む女の子の手に力が込められた。

 「…どうしたの?」

 指先が白くなるまで強く握られ、女の子たちの集団を眺めている。ソフィアが上半身を屈めて、少女の顔を覗き込む。

 「フラーッ!」

 女の子が、周囲の喧騒にも劣らない大声で叫んだ。はた、と周りが静かになると視線が二人に集まってくるのが分かった。ティーンエイジャーの集団の中を割るように掻き分け、前へ飛び出してきたのは非の打ち所がない美人。

 幼い少女と同じように、美少女……フラーも長いシルバー・ブロンドの髪と、大きな深いブルーの瞳をしていた。

 「ガブリエルッ!」

 フラーが叫ぶと、少女はソフィアの手を離して駆けだした。二人は、強くお互いを抱きしめ合い、フラーはガブリエルの額や頬に何度も口づけを落とす。

 早口で喋っているが、ソフィアには何を言っているのか理解できない。が、再会を心から喜んでいるのは見て取れる。恐らく、彼女たちは姉妹だろう。姉のフラーの方は、ソフィアよりもいくつか年上に見えた。

 とにかく、親族に合わせてあげられて良かったと微笑ましく見守っていると、もう離さないとばかりにフラーに抱かれているガブリエルが、ソフィアを指さしていた。しっかりと妹を抱いたまま、フラーがソフィアに目を向ける。

 感激で泣きそうな顔で、満面の笑みを浮かべたかと思えば、フラーはガブリエルと手を繋いでこちらに歩いてきた。

 「ああ、ありがーとう。あなーたがガブリエルを助けてくれたーのね。あなーたの後ろ姿を見て、わたーしだと間違えたみたいでーす。あなーたは、ヴィーラでーすね?」

 ソフィアは、フラーに抱き寄せられた。訛りのある英語をたどたどしく話しながら、「メルシー」と頬にキスをされ、その言葉が「ありがとう」だと知っていたソフィアは、彼女たちがフランス人であると知る。

 「ええ。ヴィーラの混血よ」
 「混血でーすか?」

 フラーは、不思議そうに首を傾げた。混血にしては、ヴィーラの特質が弱いと言いたいのだろう。それもそのはずである。ソフィアはダンブルドアによって目眩まし呪文が施され、人目につかないように隠されているため、本来の姿ではない。

 しかし、それでもヴィーラの血を継ぐものとしての要素は充分備わっているし、むき出しの姿では無いにしろ、面食いな人間からしたら好かれる部類に属するのだろう。つまり、彼女も十分フラーやガブリエルと同等に美しいとされる女の子だった。

 「わたーしは、祖母がヴィーラでーす。あなーたの名前は?」
 「ソフィアよ。ソフィア・エムリス」
 「オグワーツ?」

 発音が難しいのか、フラーは少しつっかえながら尋ねてきた。

 「そう。今度ホグワーツの四年生になるわ」
 「わたーしは、フラー・デラクールといいまーす。この子は妹のガブリエルでーす。ボーバトンから来まーした」
 「よろしくね、フラー、ガブリエル」

 突然の襲撃に肝を冷やしていたけれど、ソフィアはフラーと会話をしている内に落ち着きを取り戻してきた。ガブリエルも、フラーにしっかりと抱きしめられて安心したのか、強張っていた顔つきに余裕が見えてくる。ソフィアの言葉をフラーが訳すと、ガブリエルはにっこりして頷いてくれたが、ここでずっとのんびりしてはいられない。

 ガブリエルを無事に送り届けることが出来たし、今度はハリー達を捜さないといけないからだ。ハリーやロン、ハーマイオニーも、この森のどこかにいるはずである。ビルやチャーリーに、フレッドとジョージ、それにジニーも。

 しかし、彼らと合流するために、ソフィアがフラーとガブリエルに別れを告げた時だった。木々の梢を強烈な緑の光が突き抜け、空へ舞い上がる。突如空に描かれた印は、地上をぼんやりとした緑の光で包むように煌々としている。

 エメラルド色の巨大な髑髏。髑髏の口から下のように長い蛇が這い出していた。緑がかった靄を背負い、あたかも新星座のように輝き、闇空に刻印を押す。

 森全体を照らし出すほど高く昇ったそれは、不気味なくらい明るくて、見ていると悪寒が走る。あれは何? とソフィアは目を細め、眉字を寄せた。すると突然、空を見上げる人々から爆発的な悲鳴が上がった。

 「『闇の印』だ!」
 「『例のあの人の印』よ!」

 再び、森が戦々恐々とした人々の声で溢れ返った。平静を取り戻しつつあった矢先、恐怖の渦に巻き込まれそうになってしまう。森の戦慄きは、早く……早く皆に会わなきゃ……と、一人になったソフィアを不安にさせた。

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