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前述したとおり私はややついていないながらも、平凡な男だった。
だが、あの日招待された屋敷で起こった出来事は、そんな平凡であった私の人生を180度変えてしまうことになる。

ーーーーあれからいくばくかの年が過ぎ、私はようやく筆をとる決意をした。
今ここに記そう。わたしがファントムハイヴ伯爵邸で遭遇した、あの事件の全てを。

あの、嵐の夜の惨劇をーーーー。

***

「(なんで俺、ここにいるんだろう)」

絶対、場違いだろう…。
招待されたファントムハイヴ邸に来たものの、居合わせた客人達を見て血の気が引く。

「(あれ、オペラ歌手のアイリーンだよな。その隣は演出家のグリムズビー・キーンじゃないか?)」

有名人に肩身が狭い。不審に思われないよう、さらに周りをこっそりと伺う。

「(あの人は造船王の御曹司らしいし、あの声がデカイ人、全部の指にダイヤつけてる!)」

住む世界が違いすぎる…なんかもう泣きたくなってくる。

「(俺なんかタキシードすら着てねーし…)」

と、その時誰かにぶつかってしまった。

「あ、すいませ…!?」

慌てて謝ろうと見ると、なんと胸が一番に目にはいるという、際どい格好をした少女が。

「ああ失礼」

若い男と一緒だが、二人とも英国では見慣れない…民族衣装のようなものを着ていた。東洋とか、その辺りだろうか…。

「よそ見してちゃダメじゃないか、ごめんなさいは?」
「ごめん」
「いっ、いえ!!あ…あなた方も役者さんですか?(なんつーカッコだ足丸出しって)」
「いえいえ。我は貿易会社のしがない雇われ支店長をしてまして、劉といいます。こっちは小妹の藍猫。で、あなたは?」

尋ねられては、答えなくては。もにょ…と、少し言いにくくて、濁すように小さな声で答えた。

「私は眼科医と、物書きを少々…」
「それはすごい!先生じゃないですか」
「とんでもない!!俺なんかまだまだです。伯爵にすらお目にかかったこともないし、なんで呼ばれたのかもさっぱり…」

今だに、そこは謎のままだ。もしも今日話す機会があれば、聞きたいと思っていたところだ。
一体なぜ、自分なんかが招待されたのだろうか…。

「さあ〜?気難し屋の伯爵が考えることは、我にはわからないなあ」
「えっ」

劉の言葉に恐怖心が募る。

「そんなに気難しい方…「ただ」

言葉を遮った劉は、閉じていた目をスッと開けた。

「何か面白いことが起こることだけは間違いない…かな」
「え…?」

戸惑う声を漏らすも、劉はそれ以上何も言わなかった。そして、尋ねる前に、劉が明るくまた話しだした。

「それに伯爵は筋金入りの社交嫌いで、めったに姿を現さないレアキャラとして有名ですからね。自宅に人を招くなんて、初めてじゃないかな?」
「一体どんな方なんですか伯爵は!?」
「そーですねぇ」

んー、と考えると劉は言った。

「基本的に仏頂面か怒ってるかのどっちで、プライドは超高いです」
「ええええっ」
「それから海賊みたいな眼帯がまた曰くありげで」
「ええっ!?」
「客人をからかうのもそれぐらいにして頂こうか」

少年の声が聞こえた。とても落ち着き払ったものだ。導かれるように、その声を追って階段の踊場に視線を向けた。

「え…子…供?」

思わず、面食らう。そこにいたのは声の通り、一人の少年が。隣に男がいたが、燕尾服の格好からして、それは執事のようだった。まさか…。

「そっ。あの小さい少年がファントムハイヴ伯爵ですよ」
「小さいは余計だッ」
「ほら怒ったーー」

劉は何時ものことなのか、慣れた様子に気にした様子がない。付き合いは長いのだろうか。
コホンッと、伯爵は咳払い。

「この度は招待をお受け頂きありがとうございます」

子供だと感じさせないもので、大人らしく凛と伯爵は微笑んだ。率直に言えば、綺麗だなと思った。怖がってた数分前の自分は何処へやらだ。劉の言ったように右目へと眼帯をしているようだが、海賊とは程遠い。

「当主のシエル・ファントムハイヴと申します。
日頃からご愛顧頂いている方も、お初にお目にかかります方も、晩餐会が始まりましてからご挨拶に伺わせて頂きます」

こちらを見回していた伯爵が、ん?と気づいたように執事を見上げた。

「主賓がいないようだが?」
「この悪天候で、ご到着が遅れているようです」
「参ったな…このまま皆様をホールにお待たせするわけにも―「お客様のご到着ですだ!」

慌てた様子で告げたメイドの背後の扉から、今回の主賓らしい男と、真っ白な燕尾服を着た男、そしてその隣に同じく白いドレスを着た女性がやってきた。

「お初にお目にかかる。ゲオルグ・ジーメンスだ、ご招待感謝する」
「どォも。パーティーの準備できてるぅ?」
「私としたことが時間に遅れてしまいすまない」
「いいえ。遠路はるばる、よくいらっしゃいました」

もちろん、ジーメンスと会うのも初めてだ。
厳格そうなイメージが出で立ちと言葉に感じ取れる。

「ファントムハイブ伯爵…初めまして。シルヴィア・ウインザーと申します…。
この度の晩餐会をご用意して頂き、感謝いたします」

伯爵の前に出て、ドレスを手でわずかに持ち上げ頭を下げる。
王室で確かな教育を受けていることがよく分かる、とても丁寧な作法だった。
だがそれよりも首を垂れていた彼女が顔を上げたとき、目が見開くほどの驚きを感じた。

光に反射する度に輝く白銀の艶やかな髪。
その瞳は紫色の宝石でもはめこまれているのかと思うぐらい輝いて見え、雪を思わせる肌に、瞳に影を差すほど長い睫毛まで白く、
そして、造り出された人形のように整った顔立ちをしている。

今まで見てきた女性とは比べ物にならないほど美しく、そして気品があり、目を奪われた。
これほど形容し難い美女は小説の中の話だけだと思っていたというのに。

現れた美女――シルヴィアとも挨拶を交わした伯爵は踵を返す。

「ご挨拶は会を始めてからに致しましょう。本日はご自由にご歓談頂ける、立食式に致しました。どうぞこちらへ」
「では、お名前をお呼び致しますので順に食堂へお入り下さい。まずーーーー…」

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