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「彼のお祖父さんが首相を勤めていた頃の辣腕ぶりは、ドイツまで届いていた」

会が始まり、それぞれ思い思いに談笑したり食事をしている。

「それにしても彼はお祖父さんそっくりだ」
◆ゲオルグ・フォン・ジーメンス
 バンベルガー銀行名誉役員

「グレイ伯爵といえば、紅茶に名がつく程の名家だ。まさかご挨拶できる日が来るとは」
◆カール・ウッドリー
 ダイヤモンド研磨業ウッドリー社社長

「ボクは伯爵を継いで日が浅いですから、ファントムハイヴ伯爵の方が堂に入ってますよ」
◆チャールズ・グレイ
女王秘書武官兼執事

「僕などまだまだです。会社も僕の代で立ち上げたばかりですし、企業に関してはウッドリー殿の方がやり手ですよ」
◆シエル・ファントムハイヴ
玩具・製菓メーカー ファントム社社長

何故か冷や汗を流しながらウッドリーは笑う。その笑いも、少しばかり引きつってしまっているが。

「特にダイヤモンドの研磨技術は、これからの重工業を支える重要な技術になってくるでしょう」
「英国は植民地にダイヤの産出国があるのが強みだな」
「最近は我が国でも鉄鋼や造船などの重工業が伸びを見せている。
銀行も、そちらに力を入れていこうと思っているところだ。
今は英国にかなわんが、いつか必ず追いついてみせよう」
「ははは!これはうかうかしとれませんなフェルペスさん」

「えっ。そ…そうですね」
◆パトリック・フェルペス
造船・海運企業 ブルー・スター・ライン社 貿易課取締役員

「それにしても…まさかシルヴィア様がこの正餐会に御参加されるとは思いもしませんでした。お会いできて光栄です。
『白薔薇』と噂されるその美貌…、いや噂以上にお美しいですな」
「ありがとうございます」

◆シルヴィア・ウィンザー
ヴィクトリア女王陛下の姪、公爵令嬢

ジーメンス、ウッドリー、グレイ、フェルペス、伯爵、公爵令嬢。その輪に、劉が近づき声をかけた。

「伯爵。我のことも紹介してくれる?」
「ああ。上海の貿易会社「崑崙」英国支店長の劉さんです」
「崑崙の…!?」

怯えたような顔をしたフェルペスを、薄く開いた目でチラッと劉は見る。
するとビクッとフェルペスは固まっていた。

「初めまして、劉と申します」
◆劉
上海貿易会社「崑崙」英国支店長

「英国に支店を持つとは、さぞ大きなネットワークを持って…」

ーーぺと。

「なっ!」

いきなりジーメンスの腕に抱きついた藍猫が、その腕に胸を押し付ける。

「なななな…ッ」
「おやおや藍猫ったら。すみませんね、甘えん坊でして。ネットワークが広いと申しましても、まだドイツにはお邪魔しておりませんで」
「ちょっ、わ、こら!」
「後学のために是非色々ご教授ください」
「わ、わかったから離れなさい!!」

藍猫を引き剥がしたジーメンスは顔を真っ赤にさせながらゴホン!と咳払い。

「ドイツに興味があるのなら、また明日ゆっくり聞かせてやろう。私もアジア情勢は気になるところだ」
「お気に召さなかったみたい」
「何やってんだ…」
「お話し中失礼します」

ん?と全員がそちらを見る。

「この度はお招き頂きありがとうございます」

次に声を掛けたのは、舞台演出家のグリムズビー・キーンと、オペラ歌手のアイリーン・ディアスだった。
アイリーンの美しさに数名はほ〜っと見とれていた。

「君達が国立劇場を満席にする歌姫と演出家か。お会いできて光栄だ」

「アイリーン・ディアスと申します」
◆アイリーン・ディアス
人気オペラ歌手

「グリムズビー・キーンです」
◆グリムズビー・キーン
舞台演出家

「いやいや。貴方の演出する舞台は、美術が素晴らしいとドイツでも話題になってる。
ぜひアイリーン嬢と一緒に、ドイツで公演してほしい。出資なら相談に乗ろう」
「本当ですか?それは心強いな」
「あ、あの」

ずっと、タイミングを見計らっていた。自分だけがまだ名乗っていないので、緊張しながらも口を開く。

「ベルリン国立歌劇場で組んでみたいセットの構想があるんですよ」
「ほほう」

今だ、と思い切って声を出した。

「俺…あっ、私は「じゃっ、一通り挨拶も終わったところで乾杯でもしますか!」
「アー「英国のビールもなかなかですよ〜」
「…」
「カンパーイ」

…タイミングなど、なかった。とてももう一度挑戦する気になんてなれない。
盛り上がるその場から離れ、大人しくすごすごと窓際の椅子に腰掛けるのであった。

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