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「シルヴィア、そんな薄着で窓辺に居たら風邪引くよ。今夜は冷えそうだし」
備え付けのベッドの上で寛ぎながら、窓から外を眺めるシルヴィアに声をかければ、シルヴィアはくるっとこちらを振り返った。
「……寒いわ」
「だから言ったじゃん」
肩を竦め、シルヴィアに向かって「おいで」と両手を広げれば、シルヴィアは窓辺から移動して、素直にボクの腕の中におさまった。シルヴィアの顎を掴み、触れるだけの口づけを落とす。
「……ねぇ、グレイ…お願いがあるの……」
「……ファントムハイヴ伯爵の部屋に行くなんて絶対ダメだからね」
そう言えば、シルヴィアはこれでもかっていうくらい目を見開いた。
ほらね、図星。さっきのシルヴィアの様子からして、あのクソガキのことを気にかけていた。どうせ心配だから様子を見に行きたいとかそんなところだろう。
そんなことを考えていたら、シルヴィアが小さく笑った。そんなシルヴィアに、今度はボクが目を見開く番だ。
「ふふ……グレイったら何を勘違いしているの?」
「い、いや……だって…シルヴィアはファントムハイヴ伯爵のことが心配なんじゃ……」
「もちろん、伯爵のことは心配よ。でも…やっぱり、彼は犯人ではないと思うわ」
「ふーん……まっ、いいや。それで?ボクにお願いしたいことって何?」
「…い……一緒に……寝てほしいの……雷が怖い、から……」
照れたように頬を赤らめるシルヴィアに気分を良くしたボクは不敵な笑みを浮かべ、シルヴィアの体をベッドへと押し倒す。
「雷が怖いねぇ……理由は本当にそれだけ?」
「……ご想像にお任せするわ」
「素直じゃないなぁ……貴方のご命令がなくとも、ボクはご一緒させていただくつもりでしたよ」
「そう…?」
「さぁ、姫君はそろそろおやすみのお時間です。良い夢を」
***
目が覚めたのは10時少し前。部屋の中にグレイの姿は無い。自分のすぐ隣のシーツの温もりが少し残っているということは、彼が部屋を出てそんなに時間は経っていない。
近くにあった羽織りを羽織って部屋を出る。部屋を出た瞬間、随分と慌てた様子のシエルとアーサー先生に出くわした。
「シルヴィア嬢…!?お、おはようございます!!」
「おはようございます……伯爵、何をそんなに慌てているのですか?」
「……うちの執事が…、」
「?」
訳も分からないまま、シエルの後を追いかけた。
「一体何がどうなってんだよ」
「酷い…」
息を乱し、小さな体は廊下を駆ける。
「まさかこんなことになるなんてね…」
立ち止まることなく、できる限りのスピードを。
「ぼっ…坊ちゃん゛…に゛っ、なんてお伝えすれば…ッ」
「う゛ぅ〜っひっ」
たどり着いた部屋の中には全員おり、その全員の視線が向けられた。
「……セバ…ス…チャ…ン?」
暖炉の前に倒れているセバスチャンの胸には、火掻き棒が刺さっており血にまみれていた。
それは明らかに…死んでいると誰もがわかるという惨状だ。
あとから部屋に付いたシルヴィアもあまりの衝撃に頭がついていかず、目の前に転がる死体がセバスチャンだと認識するのに時間がかかった。
取り乱すシエルを他所に彼女は足から力が抜け、その場にへたり込む。体の震えが止まらない。
「シルヴィア」
「グ…レイ……」
名前を呼ばれ、顔を上げれば、いつの間にかグレイがシルヴィアのすぐ側まで来ていた。
グレイの瞳に映る自分の顔は酷く青ざめていて、そんな彼女にグレイは顔を顰め、へたり込むシルヴィアの手を引き、自分の方へ抱き寄せた。
彼が側に居るという安心感からか、体の震えは少しづつ落ち着いていった。
「一体どうなってんだこの屋敷は!?一晩で二人も殺されるなんて!!」
「し…しかもあんな…」
「確かに火掻き棒で突き刺すたぁ、むごすぎるぜ」
「!頭に殴られた痕がある」
遺体に近づき、そっと頭を持ち上げて見る。うっすらと、床に血が滲んでいた。
「灰かきの最中に後ろから殴られたのかもしれません」
「それだけじゃ死ななかったんで、もう一発胸にくらわせてトドメを刺したってことか」
「あるいは生死も確かめず連続で攻撃したか…1回より2回連続の方が、確実に仕留められるしね」
「…おかしい」
つい、声に出して呟いてしまった。周りにも聞こえていたようで、誤魔化さず疑問を口にすることに。
「彼が後頭部に受けた一撃で死ななかったとして、何故犯人はわざわざ前から刺したんでしょう?」
全員が、はっとしていた。…もうひとつ、おかしいところはあるが…それは、言うほどの事でもないか。
「確かに、2度攻撃すんなら同じ方向からが普通だよな」
「もしかしたら…犯人は複数犯かもしれません」
「ええ!?」
「例えば一人が前方から喋りかけて注意を引き、忍び足で回りこんだ二人目が後ろから頭を殴る。
そして間髪入れず前にいた一人がトドメを刺す」
「どちらにせよ、容赦もためらいも感じられないのは確かだね」
劉の言葉にコクコクと藍猫が頷く。
「あの執事君を殺したんだから、犯人は相当――「もうやめてよ!!」
そう遮ったのは、伯爵を抱きしめている庭師だった。
「坊ちゃんがいるのにそんな話…ッ坊ちゃんの気持ち考えてください!!」
劉の言葉を遮るかのように、フィニが声を荒らげた。
そして、すかさずメイリンがフィニを制し、謝罪の言葉を述べて頭を深々と下げた。
「…ま、確かにねー。いつまでも死体囲んでお話ってのナンだし、一旦コレ地下に運ぼっか。
犯人が誰とかそーゆーのは、また後で食事でもしながら話せばいいし」
「そんな悠長な…」
「確かに。焦ってもしょうがないしね」
「決ーまり!じゃ、キミたちはソレの片付けよろしく。あと、朝ごはんの用意もね……シルヴィア様は食事の前にお召し替えを。そのような格好では体調を崩されてしまいますから」
「え…ええ……」
踵を返すグレイに手を引かれるがまま、シルヴィアも部屋を後にした。
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