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「チョコクッキー作ったの?」
「うん、余ったから」
「余りかよ」

あの喧嘩以来、幼馴染である彼女の家を訪れた。
自分の好物であるオムライスを作ってもらい、食べ終わったころ、彼女がそういえばと冷蔵庫から出したのは手作りクッキーだった。

「でも珍しくない?百合がお菓子とか」
「この間のライブのお礼に斎藤さんに作ったの」
「……あー、なるほどね」

まさか彼女が自分以外に手作りのお菓子をあげる男が現れるとは、今までなら想像もつかなかったことだ。
自分の中で湧き上がる嫉妬の炎を抑えつつ、クッキーを頬張った。
すこし甘さを控えてあるのは、自分より年上の人物へ贈るためだったからなのか。

そんなことを思っていると、彼女のスマホが小さく鳴る。
それを聞いた彼女がスマホを取ると、画面を見て小さく笑った。
今まで見たこともないその表情を見て、送り主は何となく見当がつく。

「…サイトーさん?」
「うん、この間連絡先を交換したの」
「へー…」

明らかにつまらない風に答える。
それはそうだ。自分の好きな女が、自分ではない違う男のことで喜んでいるのだから。

「なぁ、お前その人のことどう思ってんの?」

思い切って聞いてみた。
今まで彼女の近くにいたのは自分なのに、それが変わってきていることが怖かった。

「どうって……優しいひと?」
「あー、印象とかじゃなくて、こう…、好きとか嫌いとか」
「好きか嫌いなら、好き」
「男として?」
「それは……斎藤さんは男の人だよ?」

何を言ってるのと不思議そうな顔をする彼女に、あー、と頭を抱えるしかなかった。
この幼馴染に”恋”はまだまだ未知のものだったらしい。

***

「え、おいしい!これ!」
「ほんとう?よかった」
「さっすがユリリンお菓子も上手!」

クッキーの余りを友人にも持って行った。
田中の美味しそうに頬張る様子は百合をとても安心させた。
幼馴染の彼はいつも「おいしい」とは言わないので、味が本当に大丈夫か不安だったが、どうやら心配はさほどなさそうだ。

「これ、いつ渡したのー?」
「先週の金曜日だよ」
「……え、もう一回」
「先週の金曜日」

何故か二回も聞いてきた田中。
そして、スマホのカレンダーをチェックすると驚いた様子で百合を見て、チョコクッキーを見る。
そうチョコのクッキーだ。そして彼女がそれを渡した日は――

「バレンタインデーに渡したの!?」
「え…?」

2月14日のバレンタインデー。
日本では女子が好きな男子にチョコのお菓子を贈る日だ。

「だだだだって、チョコのクッキーだよ!?」
「うん?」
「つつつまり、このチョコクッキーを14日に男の人にあげたってことは、ラブの意味に捉えられるよ!?」
「……………へ、」

そこでようやく百合は友人の言っていることの意味が分かったのか、真っ白い肌を真っ赤にさせた。

「だ、だって…気づかなくて……っ」
「えええええ、街中バレンタイン一色だったじゃん!」
「どうしよう…」

相手は一般人ではない、有名なバンドのボーカルだ。
あのライブのときの様子からしても女性に人気があるのは間違いないなかったので、彼女がいてもおかしくないだろう。
それなのに自分のようなものが渡してしまっては、困らせてしまうだけだ。

「また会ったら、強く言えばいいんだよ!あれはお礼です、ただのお礼です!って」
「う、うん…でもなんかちょっと失礼な気も…」
「なにいってんの!それぐらい言わなきゃ男なら勘違いするって!
バレンタインの日、男は女子から貰えるかどうかしか考えてないんだから!」

熱く語る友人に戸惑うばかり。
しかしそんな百合の様子を見て、田中は先ほどとは一変して真剣な顔で聞いてきた。

「…もしかして、本当に、好き?」
「……好きって?」
「サイトーさんのこと、好きだから……問題ないのかなって」

それは先日、幼馴染にも言われた言葉だった。
そして好きか嫌いかなら勿論、好きといえるだろう。

「好きだよ。だって…良い人だもん」
「…でも人として、だよね。異性としては?」
「異性として……?」
「そう。異性として意識しちゃうとか、…」
「それって…どういうこと…?」

どうして二人とも同じことを聞くのだろうか。
不思議に思いつつも、異性として、男性として好きとは一体どういうことなのか、百合はそれがいまいちピンとこなかった。

「うーん…私もあんまそういう経験がないから分かんないけど、多分、キュンってしちゃうんじゃない?
そのひとを想うと、胸が苦しくって…でも一緒にいると楽しくって…そんな風に心がかき乱されるんだよ」

胸が苦しくなったり、楽しくなったり。心の変動が激しくなること。
百合は自身の胸に問いてみる。
振り返ると確かにあの日、お菓子を渡した日、斎藤さんと一緒にいて少し心が浮足立っていた。
でもお店にいたときはいつもより心が沈んでいたのに。
どうして斎藤さんに会ったらあんなに変わったんだろう。

答えがなかなか出てこない百合に田中は優しく言った。

「いいと思うよ、いっぱい悩んで。
そういうのって自分から気づくのが一番いいからね」

いつか気付ける日を自分も祈ってるから、と心の中で呟いて。

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