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「何かリクエストはありますか?といっても、できるだけお腹に優しいものがいいんですけど…」
「うーん、高嶺さんの得意なものでいいよ」
「…それなら、かぼちゃのひき肉あんかけ、お味噌汁、卵焼きにしましょう」
「え、そんなに作れるの?」
「はい、…?」

不思議そうな顔で見てくる彼女に何も言えなかった。
自炊をしているとは言っていたが、もう主婦レベルのように見える。
食材を選ぶときも食材の質や値段を見定めていく。まだ20歳だというのに、随分しっかりしているんだと改めて思った。
しかし、こうして二人でスーパーで買い物をしていると…。

「むっくん、何食べたいー?」
「あーちゃんの作るのなら何でもー」
「えー、じゃあー…」

近くにいたカップルが今しがた自分たちがしていた会話と全く同じことを話していた。
それを見ていて、自分たちも傍から見れば恋人同士に思われるのだろうか、そんなことを考えてしまった。

「どうしましたか?」
「え、…あぁ、なんでもない」
「そうですか。あ、見てください、玉ねぎ半額になっていたんです」

そう言って嬉しそうに見せてくる彼女はとても可愛い。
少しでも節約しようとしてくれているのか、その心遣いがまた嬉しかった。

***

一通りのものを買って家に帰る。
まさか自分の家の冷蔵庫にこんなにも食材が入っている日がくるとは。
そして包丁や鍋など、引っ越して以来買っただけの存在達が今まさに本領発揮されていることも。

彼女は慣れた手つきで野菜を切っていき、無駄のない動きで作業を進めていく。

「なんか手伝う?」
「大丈夫です、すぐできるので」

さらっと断れてしまったが、確かに普段全く料理をしない自分がいても何の役にも立たないだろう。
彼女に従ってひとまずリビングのソファに座った。

「そういえば、どうして店長は斎藤さんが風邪をひいたことを知っていたんでしょうか…
私、ずっとそれが気になってて…」
「あー、まぁあの人、ああ見えてうちの業界にすっごい顔利くからねー…
うちの会社の誰かから聞いたんじゃないかなー………でも、そこで高嶺さんを行かせたあたり、あの人も食えないよね」
「…もしかして、店長って実は凄いひとですか?」
「うん、多分高嶺さんが思ってる以上かも」

いつもニコニコ笑っている店長を思い出し、自分のために気を利かせて彼女を送ってくれたのだろうけれど
ここまでしてくれるとは思わず、恐らく一生店長には頭が上がらないな、と思った。

暫くして、台所から美味しそうな匂いを漂わせながら彼女が出来上がった料理を運んでくれた。

「うわ、すごい」

食卓に並べられた色とりどりの料理。
いつも出前か外食、最悪インスタントラーメン、そんな食生活ばかりで
実家に帰れば母親の手料理が食べられるが、最近は全く帰っていなかったたため、誰かの手作りは久しぶりだった。

「じゃあ早速いただきます」
「はい」

炊きたての白いご飯とお味噌汁、あんかけのとろみが病み上がりの自分にはとても温かみがあった。
どれも想像以上に美味しくて、昨日まで全くなかった食欲が芽生えたように箸が進んだ。

「おいしい、ですか?」
「え、あ…ごめん、上手すぎてがつがつ食っちゃってたよ」

彼女が不安そうに聞いてきたところで、自分が何も言わず黙々と食べていたことに気づく。

「高嶺さん、本当に料理上手だね。すごい美味しい。
特にこの卵焼き、俺めっちゃ好きな味」
「……」
「…どうかした?」
「いえ、私こんなに料理褒めてもらったことなくて。
幼馴染にはよく作ったりするんですけど、全然おいしいって言われたことなかったから…自分の料理が不安で」
「そうなの?めっちゃ上手いけどな」
「卵焼きだって、もっと甘くしろって文句つけてくるんですよ」

失礼しちゃいますよね、と卵焼きを見て呟いていた。
それに少し笑って答えておいたが、自分以外にも手料理を振舞っていたことを知り、少し残念なのが正直なところだ。

「でも斎藤さんがこの味付けがいいというなら、やっぱりレシピは変えないでおきます」
「あはは、俺専用?」
「はい、いいんです」

けれど、それを聞いて、彼女の料理が自分のためになっていくようで。
自分も単純な男だなと笑ってしまう。

「この間のお菓子もうまかったし、色々作れるんだね」
「……あ、あの…その、お菓子なんですけど。私…14日に渡しちゃって……」

この間貰ったお菓子の話題をした途端、彼女は何処か焦ったようすを見せた。
14日、確かにその日に貰ったけれど何か問題があったのだろうか。

「ば、バレンタインデーって…わすれ、てて…」
「………あ、」

そこでようやく分かった。
自分も最近は恋愛行事には疎くなっていたので、全く気づかなかったが、確かに2月14日はバレンタインデーの日だ。
そして、その日に自分はチョコのお菓子をもらったのだった。
今思い返すとそれに気づけなかった自分は大分阿呆なのだが、彼女のチョコを貰ったと思うと急に鼓動が早まってきた。

「あのクッキーは本当にライブのお礼で……、彼女さんもいるのに私…勝手な真似をしちゃって…すいません」
「いやいや、ん?ていうか彼女?なに、どういうこと?」
「え、彼女さんいるんじゃないんですか?あ、というか私ここにいない方がいいですよね、もし来ちゃったら…」
「待って待って俺、彼女とかいないから。どっから出てきた話なの」
「…そうなんですか?…あんなに人気があったので、てっきりそうなのかと…」

まさかの誤解を招いてしまっていた。
彼女が自分に恋人がいると思っていたとは。

「幼馴染なんて、前に3人同時に恋人ができていたので。
有名人さんにはそれぐらい当たり前なのかと思ってました」
「3人て…さすがアイドルだね」
「でも、すぐに別れていましたけど。顔に綺麗な紅葉つくってきたんですよ」

見事にビンタ貰ってきたみたいで、と面白そうに話す。
こうやってこの家で誰かと談笑しながら食卓を囲むのは初めてだ。
確かに今まで恋人と呼べる人はいたことはあったが、ここまで尽くしてくれるひとは彼女が初めてだし、何より今までの女性と違って彼女といるときの方が心が安らぐ。

その後、食べ終わってから二人で食器を片付ける。
彼女が洗って、自分がそれをふいて棚に入れて、家族みたいだった。

そうしていると途中、玄関のインターホンが鳴った。
一旦作業を止めて玄関へと向かう。画面を見るとそこに見知った顔が。

「具合どうよ?」
「やっときたんですか、林さん。俺、昨日LINEしたじゃないですか」

そこにいたのは自分たちのマネージャーである林さんだった。
昨日の今朝方、風邪を引いたと連絡をしたのに一向に様子を見に来なかったので見放されたかと思っていたぐらいだ。

「だから送ったじゃない、彼女さん」
「……やっぱ林さんだったんですね」

やはり例の店長に自分のことを伝えたのはマネージャーだったらしい。

「店長さんにはお世話になったからね、無下にはできないんだよ。
それに感謝してるんじゃないのー本当は」

ニヤニヤと大の男がこちらを笑っている。
それに何だかむかついたので、何も言わないでおいた。

「で、彼女さんどんな子?店長さんに聞いたときは驚いたけど、すっごい気になる」
「だから彼女じゃなくて…ていうか、仕事いいんですか?」
「なんだよー、見せてくれないの?」
「もういいですから、俺明日から仕事出れますんで」
「ケチだねぇ、あ、ついでにこれお土産」

そう言って持たされたのは林檎が入ったビニール袋。

「ま、いつもの如くキミたちの私生活にまで口出さないけど、あんまり叩かれるようなことはしないでね」
「分かってますよ」

次の仕事の詳細はあとで送るから、と口早に言って仕事へと戻って行く林さん。
玄関を閉めて、リビングへと戻る。彼女はもうほとんど洗い終えていて、あとは拭いて棚に戻すだけだった。

「高嶺さん、林檎むける?」
「はい。…どうしたんですかそれ」
「今、マネージャーが来て貰ったんだ」
「そうだったんですか、じゃああとで剥きますね」
「ありがとう」

すると再びインターホンが鳴る音がした。
こうも続けて鳴るのは珍しい。林さんが何か伝え忘れてでもあったのだろうか。
彼女に声をかけてから、また玄関へと向かった。
しかし画面を見ると、そこにはマネージャーではなく別の見知った人物だった。

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