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「百合ちゃん、最近なにかあったー?」

バイトで店長に声をかけられた。
どこか心配そうな顔をして。

「いえ、特にないですけど…」
「そう?なんだかちょっと心ここに在らず、って感じだったけど」
「…もうすぐレポートの締め切りで、ちょっと徹夜しちゃって」
「……そっかー、疲れたら休憩入っていいからね」
「はい、ありがとうございます」

店長はそういうと、奥のほうへと入っていった。
自分の何が店長を心配させてしまったのだろうか。
確かに昨日少し寝るのは遅くなったけれど、鏡に映っていた自分はいつも通りだったし、大学の講義も普通に受けられた。
調子が悪いわけではないのだが、他に思い当たる節はとくになかった。

「大丈夫?」

随分と考えごとをしていたせいで、突然声をかけられ思わずびくついてしまった。
顔を上げるとそこには、店長と同じように心配そうな顔でこちらを見る斎藤さんがいた。

「あ、いらっしゃいませ…」
「考えごと?なんか表情暗かったよ」
「そうでしたか…?」

自分の顔に手を当てる。
接客の仕事をしているのだから、お客様に気遣われてしまってはだめなのに。

「悩みあるなら聞くよ?俺でよければだけど」
「…あ、本当に大丈夫です。ちょっと昨日あまり寝てなくて…」
「そう…?あ、そうだ。この間のお返し持ってきたんだ」

斎藤さんは鞄から可愛くラッピングされた箱を取り出した。
この間のお返しとは、つまり風邪のときの話だろう。

「好みが分かんなかったから、とりあえず女の子が好きそうなスイーツにしたんだけど…マカロン食べられる?」
「はい、好きです…あ、でも、私そんなに大したことしたわけじゃ……」
「貰って。俺、何も返せないと店長に怒られちゃうから」
「僕がどうかした?」
「店長」
「お、復活したねー斎藤くん」
「その節はどうもです」
「いえいえーどういたしましてー」

店長にも持ってきたらしく、自分のものとは別のお菓子を渡していた。
その二人の間に挟まれて談笑するのはいつものことなのに、今日はいつもと違っていた。

「百合ちゃん、やっほ」
「…ハルナさん」

そこへやってきたのは先日知り合った、PINKEYLILLYのハルナだった。
彼女は、偶然ですね、とあっさりその場で嘘を述べてみせた。
というのも斎藤さんが自分のバイト先の常連だと知ってから、今度行かせてもらうね、と言っていたからだ。

「あれ、高嶺さんと小川さん、知り合い?」
「そうなんです。この前モールで会ってから、ね?百合ちゃん」
「…はい」
「斎藤さんこそ、ここよく来るんですか?」
「うん、まぁね」

先ほどまで店長と、斎藤さん、自分という空間にハルナが加わった。
三人が話している様子を間近で見ているのに、その距離は遠くにある気がした。

音楽に関わるひとたちの話についていけない。
何で盛り上がっているのだろう。

いやだ、何かが、ここにいたくない。

「あの、私、休憩いってきます」
「あ、うん。…無理そうなら今日休んでねー」
「はい」

店長にそう伝えて、二人の顔を見ることなく足早にその場から去った。
百合の後ろ姿を心配そうに見る斎藤さんと、その彼を切なそうに見上げるハルナから。

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