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結局、その後バイトに戻れる気が起きず、体調不良を理由に店を出た。
自分のこの気持ちに整理がつかない。
斎藤さんのことは嫌いじゃないし、ハルナのことも。
サインだってしてくれて、音楽が大好きないい人だと思っている。
けれど、あの二人が一緒に話をしている姿は見ていられなかった。
「……もう、いやだ」
その時ちょうどスマホの着信が入った。
LINEで斎藤さんから連絡がきたのだ。
『調子大丈夫?もしかして俺の風邪うつった?』
『平気です、今日一日ゆっくり寝ますから』
大丈夫です、というウサギのスタンプと共に返した。
直ぐに返信はきていたが、今日はスマホを見ないことにし、斎藤さんに心のなかで謝りながらポケットにしまう。
アパートにつくと玄関に寄り掛かっていたのは幼馴染。
最近は仕事が忙しかったらしく、連絡もあまりとっていなかった。
「…え、具合悪いの?」
彼の第一声はそれだった。
もう今日は自分の意思とは関係なく、大人しく寝たほうがいいようだ。
何も言わず静かに鍵をあける。
「おい、ほんとに大丈夫かよ」
「…私は大丈夫だけど……大丈夫じゃないんだって」
「いや意味わかんないから」
幼馴染をスルーしつつ、部屋へと入り早速寝間着に着替える。
明日は幸いにも学校もバイトもなにもない。
「熱測った方がいいんじゃね?」
「うん、でも…たぶんないと思う。ちょっと疲れただけだから」
歯磨きをしてさっさとベッドへと向かう。
それらを見ていた幼馴染が聞いてきた。
「…サイトーさんとなんかあったの?」
「……どうして」
「だって、それしか考えらんないじゃん。今のお前」
その根拠は一体どこからくるのだろう。
けれど、確かに最近の自分はどうも斎藤さん絡みで悩むことが多い気がする。
「……でも、今はいい。なんだか疲れちゃった…」
そうして布団のなかへもぐりこんでいく。
正人にはその華奢な身体がとても弱々しく見えた。
すると突然、けたたましくインターホンが鳴り響いた。
何度も押されるそれに正人が嫌な予感を感じながら、扉を開ける。
「ユリリーン!!大丈夫なの!?色々買ってきたけど、風邪!?インフル!?新手の感染病!?」
「うるっせぇわアホ!百合は寝てんだぞ!?」
「なに!?あんたのがうるっさいわよ!てか、あんたが連絡したんじゃない!
『百合がヤバい』って!焦りもするわそりゃあ!」
「だーかーらーいちいち叫んでんじゃねーよ!この鳥頭!」
「はあ!?現役大学生に言う台詞!?アイドル気取りのナルシストが!」
「気取りじゃなくて、本物だっつーの!!」
二人の怒声が部屋中に響いていたが、幸いにもこのアパートは防音になっているので今のところご近所迷惑にはならなさそうだ。
それだけ安心すると、二人の怒声があるなか百合は眠りについていった。
***
翌朝、目を覚ますと目の前には友人の田中の顔。
いつの間にか彼女は自分のベッドに潜り込んで、一緒に寝てしまっていたらしい。
心配してくれたのかベッドの下には、薬や風邪にきくような食材が入ったレジ袋があった。
そして、テーブルには一枚の置手紙があった。
『朝から仕事。また様子みにくる』
ぶっきらぼうな字で書かれたそれは幼馴染の書いたものだと直ぐ分かった。
一先ずシャワーを浴びようと、隣で眠る友人を起こさないよう静かに浴室へ向かった。
「お誕生日おめでとう、椿ちゃん」
「ええええ!?ありがとうううう!!」
今日は友人の誕生日。
先日買ったサイン入りのプレゼントを渡すと狂喜乱舞していた。
「ハルナちゃんのサイン!?凄い!え、どうやったの!?」
「……ちょっと知り合って…」
「うわああああやばいよおおおお」
心底嬉しそうな田中を見て、百合もサインを頼んで良かったと思う。
「店長さんのコネとか?あ、サイトーさん?」
「ううん、そうじゃないんだけど…」
斎藤さんの名前を聞くと昨日のことを思いだし、また心に沈みがかかった。
「…なんかあったんだね」
「………うん」
こういったとき本当に頼りになるのは同性の友人だと思う。
女ならではの考え方は女にしかわからないのだから。
「話してよ、全部聞いてるから」
百合の悩みを全て打ち明けてほしいと、田中は言ってくれた。
それから百合は自分が今何を考えているのか、全て打ち明けた。
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