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「好きにしててください」

そう言って彼女はエプロンをつけると台所で調理を始めた。
部屋は寝室とリビングに分かれていて、一先ずリビングにある座布団に座らせてもらった。
本棚には大学生らしく参考書や教科書がたくさんあり、小さな観葉植物が緑をもたらしている。
今時の子にしては珍しく、ゲームや漫画など娯楽ものが全く見当たらない。
必要最低限のものしか置いていないようで、綺麗に掃除がされた清潔感のある部屋だ。

いざ彼女の部屋に上がると意識してしまうのは男の性か。
そしてふと目をやると、棚には自分たちのバンドのCDが飾られていた。
大切に持っていてくれているようだ。

この部屋には自分の以外の男がきたことあるのだろうか。
そう考えて一人の人物が浮かんだ。以前会った、彼女の幼馴染だというアイドルの子。
あの時、彼はまるで射抜くように自分を見ていたことを、今でも覚えている。
それほど幼馴染の彼女が大事な存在なのだろう。
見たところ恋人同士ではないけれど、彼が彼女に好意を持っているのは明らかだった。
それは長年の勘からなのか、それとも、同じ想いを抱えている者同士だからなのか。


「できました」
「おーすごい、うまそう」

一汁三菜がしっかり揃った、まるでお店のような献立だった。
思わず腹の虫が鳴りそうになる。

「いただきます」
「はい」

相変わらず彼女の料理は美味しくて、思わずがっつきそうになるくらいだ。
しかし、そんな自分を見ていた彼女が小さく笑った。

「?」
「あ、いえ…その、焦らなくてもまだおかわりあるので……ふふ、ちょっと可愛いなぁって」
「可愛いって、俺もうアラサーだからね」

つい恥ずかしくなってしまい顔に熱がいくのが分かる。
それは勿論、自分が結構勢いよく食べていたこともあるけれど、彼女の笑顔も自分の胸を高鳴らせる要因の一つだったのだが。

それから二人で最近の出来事や店長の共通の話題で盛り上がったりして、久しぶりに部屋では楽しい夕時の時間が流れていた。

食べ終わってからは自分も洗い物を手伝い、再びテーブルを囲んで二人でドラマの再放送を見た。

「そういえば…このドラマ、今映画化してるよね」

医療系のドラマで、数年前に大人気になり去年再び新作を出してきた。
その人気から今年は映画化もされ、巷では大反響だといわれている。
そういえばこのドラマの主題歌は自分も大好きなバンドが歌っていたな、と思い出す。

「はい、私このドラマ好きなので、近々観に行こうと思ってるんです」
「……一緒に行く?」
「え?」
「この前チケット貰ったから、二人分あるし、ちょうどいいから」

事実だった。つい最近、ちょうど映画のチケットをテレビ業界の知人から貰ったので、どうしようかと考えていたところだったのだ。

「えっと…どうかな?」
「は、はい…あ、ぜひ行かせてください」

何故かお互い固まってしまい、気まずい空気が流れてしまった。
しかし、彼女が行くと言ってくれたのは確かだ。
二人の都合が合う日を決め、それじゃあ今度と約束をした。
今更だが、自分は初めて高嶺百合という人とデートの約束をしたのだ。

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