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朝、目を覚ましてリビングへ向かうと、何やらとても美味しそうな匂いがしてきた。
「おはようございます」
「…おはよう」
台所でエプロンをつけて立っているのは紛れもなく彼女で、そういえば昨日から一緒に住んでいたんだと改めて思い出す。
今日は土曜日だというのに、彼女はいつも早起きなのか慣れた様子で朝食の準備をしていた。
朝からこういう光景が見れると、寝起きの悪い自分でも気分が良くなるのが分かる。
「ご飯食べていかれますか?」
「うん」
テーブルにつくと朝ご飯が並べられる。
まさかこの家で朝から炊きたての白飯と温かい味噌汁、焼きたての鮭を食べれると思わなかった。
彼女がきてくれたおかげで自分の食生活は大きく変わりそうだ。
「今日はこれからお仕事ですか?」
「これからっていうか、昼過ぎから打ち合わせとラジオ収録がね」
「朝、早いんですね」
「いや、今日が珍しいだけだよ。普段もっと生活サイクルおかしいから」
「そうなんですか?」
「うん、夜中にラーメンとか」
「……私、頑張ります」
「え、気にしなくていいから…っ。バンドマンあるあるだし」
自分の私生活に想像以上の衝撃を受けたらしく、彼女は何か真剣に考え出していた。
すると今度は、昨日の洗濯ものをテラスへと持って行き干してくれている。
流石に自分の下着は自分で洗うことにして、それ以外の服やタオルなどは全て彼女がしてくれることになった。
彼女がこの家にきてくれたことで、家事の負担が大分減りギターの練習にも集中できるようになっていた。
「じゃあ、行って来ます」
「はい、いってらっしゃいです」
玄関で見送ってくれる彼女を背に家を出る。
いってきます、いってらっしゃい、一人ではできない会話。
誰かが家にいてくれること、帰りを待っていてくれることを久しぶりに実感する。
まるで夫婦みたいだな、と少し浮足立ちながら仕事へ向かった。
***
「え、ユリリン、お家追い出されちゃったの!?」
「工事の間だけだから」
夕方からのバイトに入っていたら、友人が訪れにきてくれた。
そして自分が今アパートに住んでいないことだけを伝えておくことにしたのだ。
「じゃあ今どこに住んでるの!?まさかホームレス!?」
「ちゃんと壁と天井があるところに住んでるよ」
「どこどこ?いきたい!」
「…………今度ね」
「なにその間は!?」
正直話していいのか迷っている。
友人には隠し事をあまりしたくないのだが、まさか自分が今斎藤さんの家に住まわせてもらっていると聞けば、彼女の性格からして家をチェックするだとか大袈裟なことになりそうだった。
そんなことになれば斎藤さんにも火の粉が降りかかりそうで、不安が頭をよぎる。
「心配しないで。本当に大丈夫だから、いつも通りに過ごせてるよ」
「むー…それならいいんだけど」
腑に落ちないといった友人の顔に苦笑いしてしまうが、丁度店長に呼ばれたので仕事に戻るしかなかった。
彼女が心配してくれているのも分かっていたので、どうしても罪悪感を感じてしまう。
近々斎藤さんに相談してみようと思った。
『今日のご飯なに?』
『ハンバーグです』
斎藤さんにLINEを送ると、やったーというスタンプが返って来た。
こんな可愛いスタンプ使うんだと思わず顔がゆるむ。
マンションまでの帰り道、スーパーで食材を買ってきたため左手が少し重い。
「やっと追いついた」
まるでデジャブだ。突然横から聞こえてきた声に驚きつつも、そう感じた。
いつから自分を見つけていたのか、スマホを片手に斎藤さんが現れたからだった。
「びっくりしました、いつから見えてたんですか?」
「スタンプ返してから。反対側の歩道にそれっぽい人いるなーって」
追い付いた、というのは遠くから自分を見つけ走ってきてくれたのだろうか。
直接聞きはしなかったが、もしそうだったとしたら何だか嬉しい。
「半分持つよ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
お互い半分こに荷物を持って、一緒の家に帰る。
今日はどんなことがあったとか、明日はこんな予定だとか、何気ない話をしながら帰る道のりは、まだ肌寒い夜の気温でもどこか暖かかった。
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