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6月。夏が来る前の梅雨の時期がきていた。
しとしと、今日も雨は振り続ける。
「いやー明日も傘マークだね」
「梅雨ですから」
店のテレビを見ていた店長が、天気予報の並んだ傘マークを見て鬱陶しそうに言った。
「6月がくるとこれから夏になるんだなーって気分になるんだけどね」
「そうですよね、もうすぐ暑さが続くんですね」
「フェスもあるしねー」
音楽系の行事に鋭い店長は夏フェスを思ってか、気分も一変し嬉しそうな顔をしている。
「…でも、6月って他になんかあったような気がするんだよねー、うーん…なんだっけなぁ…」
百合は6月と聞いて特に思い当たるようなものはないのだが、店長はそれから何かを考え込んでいた。
そして、しばらくして。
「あ!思い出した!斎藤くんの誕生日だ!」
「…え?」
「6月24日、斎藤くんの誕生日なんだよー」
まさかの真実を知った百合。
驚きで声も出てこない。
「まぁ彼は今ここ(東京)にいないからねー、直接渡すのは難しいかもしれないけど…せっかくだし贈ってあげるといいよ。きっと喜ぶだろうから」
店長にポンと優しく肩に手を置かれた彼女は未だに固まったままだった。
***
「それで一緒に選んでほしいと?」
「うん…だって、こういうのしたことないから…椿ちゃんにしか頼めなかった」
「ユリリンの頼みなら全然構わないんだけど、アタシも男にプレゼントってしたことないよー?
弟たちのやつならいつも適当に選んでるし」
休日、早速百合は椿に一緒にプレゼント探しをしてほしいと頼み込んだ。
男性が好きそうなものは、同じ男性である幼馴染に頼もうかと思ったが、忙しい彼にお願いするのは難しいと判断した。
「でも、居候させてもらってる身だし…なにかしないと…」
「…だね!よし、一緒に考えよ!」
すごく不安そうな顔をしていた彼女を見て、自分もなにか力になれるならと田中は彼女の手を引っ張った。
「今更だけどさ、サイトーさんって大人だよね?
なんかうちらの周りにいる男子と比べたら、結構歳が上だったし…」
確かに自分たちの年代の男子たちと比べたら、一回りも上で大人の中の大人という人だ。
そもそもバンドをやっていて、アラサーで、男の人で。
「う……何がいいのか、全く分からない」
以前、友人へのプレゼントを買うときはそれなりにイメージがついたのだが、今回はあまりに未知すぎて、全く想像が湧いてこない。
そもそも彼が一体どういったものを好むのか、音楽が好きなことをは知っているが、それ以外特に思い当たることがないのだ。
知り合って半年は経ってきたこの頃でも、自分はあまりに彼のことを知らなかった。
「まぁまぁ、こういうのはいっぱい巡ってうんと考えるものだよ」
「うん…」
「サイトーさんってお酒好き?うちの親はどっちも大好きだから、うちら(姉弟)はいつもソレだよ」
お酒はビールをたまに飲んでいるのを見たことがある。
でも、特別大好きという感じではなかったし、何か好きそうな銘柄がある様子でもなかった。
「それか家電系とか!…あ、でもちょっと高そう。あんまお金かけすぎるのも相手に悪いよね」
それからも色々と目線を変えながら、様々なものを物色していったが、これといってピンとくるようなものは見つけられなかった。
一先ずお昼にしようと、近くのファミレスに入ることに。
「うーん、なかなか決まんないねー」
「…ごめんね、椿ちゃん。付き合わせちゃって…」
「何言ってんの!謝らないでっ、私だって久々にユリリンとショッピングできて楽しいから!」
「うん、ありがとうね」
お昼を食べながらも、二人であれはどうとかこれはどうなど話を交わす。
そこでふと百合はあることを思い出した。
「そういえば…斎藤さんって、よくシャツ着てるよね」
「あーそいや、ポスターとか見てもシャツにジャケットだったし」
私生活ではTシャツを着ていることも勿論あるが、確か以前、ライブでは必ずシャツスタイルと言っていたことがある。
自分でアイロンをかけるほどのこだわりもあると言っていたし。
シャツ、ジャケット…さすがに服を贈るのは無理があるかもしれない。
しかしそのとき、唯一引っかかったものがある。
「…ネクタイ」
「え?あー!確かにしてるよね!」
シャツに加え、細めのネクタイをしていた。
ネクタイならば高いものから、自分でも手が届きそうな値段のものもある。
おしゃれなものを選べばプレゼントらしく映えそうな気もする。
「いいじゃん!普段使うものなら贈ってもそんな困んないし!」
田中の押しもあり百合も決意を固め、早速二人でネクタイを見にいくことにした。
「え、俺にですか?」
「おう。さっきホテルに届いてたって」
リハーサルを終え、ホテルに着いたときマネージャーの林さんから呼び止められた。
そして渡されたのは細長い箱で綺麗にプレゼント包装されていた。
しかしファンの人からよくプレゼントを頂いているので、何故わざわざ林さんから個別に渡されたのか不思議だ。
「誰からですか?」
「宛名にこの名前があったぞー」
妙にニヤニヤしながら紙を見せにきた。
不審に思いながら見ると、驚いたことにそこにかいてあったのは”高嶺百合”という名前。
「…っ!?」
まさか彼女からとは思わず言葉も出てこなかった。
「なになに〜、恋人から送られてきて嬉しすぎた?」
「ま、まだ恋人じゃないですから…!」
「ほー?まだ、ですかー」
面白いものでも見つけた悪戯っ子のような顔をするマネージャーを睨む。
林さんは全く懲りてないようで、開けちゃえよと言ってきた。
「部屋で見ます」
「待て待て、オレだって一応マネージャーだからね。
キミたちに変なモノでも送られてきてないか確認しなきゃなのよ」
「彼女がそんなもの送ってくるわけないですから」
「これも仕事だから、頼むよー、ね?」
「……少しだけですよ」
仕方ないと思いプレゼントの包装をほどいていく。
部屋で見ると言っていたが、正直言って早く見たいというのも本心だった。
そして中を開けると、
「……ネクタイ?」
自分がよくつけるようなおしゃれな細長いネクタイが入っていた。
さらに中には一枚のメッセージカードがあって綺麗な字でこう書かれていた。
『お仕事お疲れ様です。
遅くなって申し訳ないのですが、お誕生日おめでとうございます。
いつも斎藤さんにはお世話になっていて、私なりの感謝の気持ちとさせてください。
これからも頑張ってください。 百合』
誕生日プレゼントで送ってくれたのか。
彼女からの初めてのプレゼントに、どうしようもなく嬉しさが込み上げてくる。
「…なんかネクタイといい、このメッセージの内容といい…」
「なんですか」
「まるで父の日みたいだな」
何故そうなる。確かに、父の日によくネクタイを贈ることは聞いたことがあるが、自分は決して彼女の父親代わりではない。
失礼なことを言ってくれると呆れながら、とにかく部屋に戻って彼女にお礼を伝えようとした。
すると林さんはさらに面白そうに加えてくる。
「知ってるか?女が男にネクタイをプレゼントするのは、「あなたに首ったけ」という意味なんだってよ。
まぁその子のことだから、きっと意味は知らずに贈ったんだろうけどな」
それじゃあな、と楽しそうに手を振っていく林さん。
しかし、自分の頭は既にヒートアップ寸前だった。
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