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今日も来てしまった。
昨日CDを買ったばかりだというのに、自分はまた同じように例のレコード店に足を運んだ。
特に欲しいものがあるわけでもないのでとりあえず店内を適当に回っている。
どうして来てしまったのだろうか。そう疑問に思いつつも、自分の中では確信めいたものがあることに薄々気づいていた。
「百合ちゃん、このポスターあそこに貼ってもらえる?」
「はい」
タカミネユリ。彼女の存在がちらちら頭のなかで疼いていた。
昨日は”高嶺”とかかれたネームプレートしか分からなかったが、店長が呼ぶ名前が下の名前だと知ったのは今日。
自分が知らないうちにどんどん彼女の情報を入れようとしていることにはっと気づいた。
「申し訳御座いません、そこ…あの、…」
そして気づいた。いつの間にか彼女が自分の近くにきていたことに。
「え?あ、っと…」
考えごとをしていたせいで突然のことに思考が一瞬途切れる。
見ると彼女の手には丸められたポスターとテープがあり、先ほどの店長との会話から、彼女がポスターを貼りたい場所を自分が占領していることを察した。
「すみません、邪魔でしたよね」
「い、いえ…っ、こちらこそ急かしてしまって…」
自分が苦笑交じりに謝ると、客に謝罪させてしまったと思ったのか申し訳なさそうに頭を下げた。
とても真面目な子なのだと感じられる一面だった。
棚に並べられたCDに顔を向けつつ彼女のポスター作業を横目に見る。そういえばこんなに間近で見るのは初めてだ。
真っ直ぐに伸びた黒髪をしているが、よく見れば瞳が灰色のような明らかにアジア系の色ではなかった。
鼻筋が通っていたり真っ白い肌だったり、もしかすると外国の血が入っているのだろうか。そしてやはり睫毛はとても長かった。
「あ、」
「え?」
思わず声が漏れた。ポスターをよく見れば映っていたのは自分たちのバンドだった。
この間発表されたアルバムの告知ポスターだったらしい。
始めは気づかなかったが彼女の作業を見ていてようやく知った。
そして同時にしまったと思った。自分が声を出したことで、びっくりしたらしい彼女がこちらに目を向けてきた。
お互い目が合ってしまい、微妙な空気が流れる。
彼女は再びポスターへと目をやり、上から下まで見定めていたようだった。
おそらくポスターが変に曲がっていることで客である自分が声を出したと思っているのだろう。
しかしポスターの貼り方に問題はないし、全然曲がってなんかいない。
すると、じっとポスターを見ていた彼女がふと何か違和感を感じたのか、ポスターに映る自身の顔を見つめていた。
数秒してまた再びこちらへ顔を向け今度は自分の方がじっと見つめられた。
マスクをしているので顔をそのまま出しているわけでないのだが。不安が鼓動を早める。
ポスターを見て自分の方を見てを数回繰り返した彼女がようやく、
「あ…っ!」
と、声を出した。
女性特有の少し高めの声が店内に響いた。
すると店内にいた客たちが一斉にこちらに目を向けてきた。
店の中でも目立った存在の彼女が突然声を上げたことに、皆不思議そうな顔で見ていることだろう。
しかし自分も立場上ここから客たちの方へ顔を向けようと思えなかったので、あくまで想像だが。
彼女の方も、自分の行動にはっと気づき、思わずといったように口に手を当てて固まっていた。
なんだかいたたまれなかったというか、ほとんど自分のせいなので申し訳なかった。
「百合ちゃん、どうかしたー?」
「え、と…あ、あの……なんでもないんです、大丈夫です、すみません」
「そうー?」
レジの方にいた店長が声をかけてきたが、何でないんですという彼女に少し首を傾げつつも了解していた。
そして店長とのやり取りを見ていた客たちも、ようやくそれぞれの時間に戻っていった。
しかし自分と彼女の時間は今もフリーズしたままだった。
「…ご、ごめんなさい…」
恐る恐るといったような小さな声で彼女が謝ってきた。
相変わらず口に手を当てたまま、顔はポスターへと向けたままだったが、明らかに自分へと向けられた言葉だった。
「いや…こっちこそ、ごめんね」
「まさか本物とは…気づかなくて……本当にすみません」
お互い小さな声で、でも顔は合わせずに、他の客に気づかれないように。
その小さな空間を作っているのは彼女と自分だけなんだと思うと、また鼓動が早まった気がした。
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