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「っ、コブラ、待って」

思った通り、ユリは俺を追ってきた。
ゆっくり歩いたつもりだったが…走ってきたのか。
息を整えるユリ、走って乱れた前髪を整えてやる。

「…お前いつ鬼邪高の奴と知り合ったんだ、よその奴等には関わるなって言ってるだろーが」
「…ごめん、なさい…、この前、あの子追いかけられてて…助けようとしたら、ヤマトが代わりに助けてくれたの」

息を整えたユリから聞いた言葉は…何となく、予想がついた事だった。
…やっぱりお人好しが出たんじゃねーかよ、しかもお前が助けようとした?あの鬼邪高の奴等相手に?
ヤマトがいてくれてよかった、こいつが1人で助けようとしてたのだったら…考えただけでゾッとする。

「…危ねぇ事に首突っ込むんじゃねぇよ、ヤマトがいたからよかったものの…何かあったらどーすんだ」
「…でも、コブラも……前に、私のこと“助けてくれた”んでしょう?」

ユリの言葉に俺は目を逸らす。
確かに俺は昔、こいつを助けた。
チハルってやつと同じように、悪い奴に追われていたこいつを。
だからユリも、自分とチハルを重ねて見ちまったんだろう。

だが今回の案件はそう簡単なことも言っていられない。
この街を…大事なこいつを守るために、均衡を崩す訳にはいかねぇんだ。

「…さっきも言った通り、あれはヤマトの問題だ。
俺達山王が関われば…SWORDの均衡が崩れる。
この街を…」

お前を危険にさらすからと言いかけて…やめた 。
お前だけは、お前だけには傷ついて欲しくねーんだ。
言葉にするのがもどかしくてユリの頭を優しく撫でる。
俺を見上げるユリの目は、諦めの目。
俺の意思が固い事を察したんだろう。

「…うん、分かった。
私こそ身勝手なことして、ごめんなさい」
「…お前のお人好しは今に始まった事じゃねぇ。
ほら、ITOKAN戻れよ、俺は帰るから」
「うん…、ヤマト、仲直り…する?」
「仲直りも何も…喧嘩なんかしてねぇよ」

的外れなユリの言葉に笑いが込み上げる。
喧嘩なんかしたつもりはねぇが、女には…ユリには喧嘩したように見えたんだろうか。
我慢できずふっと笑えば何で笑うのと少し拗ねるユリ。

「ほら…ナオミのとこ戻れ、1人で戻れるか?」
「子供扱いダメ、戻れるから。
じゃあね、今日はずっとITOKANいる」

手を振るユリに軽く返し別れる。
ITOKANへ戻るあいつの後ろ姿をじっと見つめる。
大丈夫そうだと踵を返しユリとは反対方向へ進む。

…何で俺はこの時ユリを1人で帰したんだ。
まさか鬼邪高の奴等が山王に来てたなんて。
頭の村山が出て来たなんて。
チハルを出せとITOKANへ来た村山達がヤマトに追い返された帰りに…ユリはあいつらと会ってしまうなんて。
予想もしていなかった。

▽▲▽


チハルを連れ戻しにわざわざ山王まで来てみたが山王連合会のヤマトに門前払いを食らってしまった。
これは俺だけの問題だ、やるなら俺だけにしろ、か。
ヤマト個人が匿ってるだけで山王は関係ねーのか?
コブラもいなかったみてーだし…出直すと言ったのはいいがこのまま帰るのも癪だな…。
ふと前を見れば向こうからこちらへ歩いてくる女…
こっちはさっき行った山王の奴等がいる洋食屋だが…あいつらの知り合いか?

「村山さん…あの女、こないだヤマトといた女です」

後ろにいた奴がそう声をかけてきた。
こないだ…あぁ、こいつがチハルを追っていたのか。
そんでヤマトに返り討ちにされた、と。
聞けばヤマトは伸した相手が鬼邪高だと知り、あの女の手を引いて慌てて立ち去ったらしいじゃねーか。
ふーん…ただの知り合いじゃねーみたいだな。
ヤマトといたって事は…コブラとも…。

「…ちょっかいかけたら面白そーじゃん、あの女」

にやりと笑みを浮かべ、あの女が近付くのを待つ
だんだんこちらに向かってきて…よく見ればめちゃくちゃ美人じゃん。胸でけぇし。
広がって歩いていた俺達に気付き、端に寄って避けようとしたところに声をかける。

「そっちは山王連合会の溜まり場の洋食屋だけど?あんたみたいなかわいい子が何の用?」

そう声をかけて引き留めれば、山王連合会という言葉に反応したのかこちらを訝しげに見てくる。

「…その制服、鬼邪高…、」
「そっ、うちのチハルって奴引き取りに来たんだけどさぁ、門前払い食らっちゃって…せっかくここまで来たしさぁ、お姉さん相手してよ」
「チハルくんの…、貴方達が…あの子の居場所…」

ビンゴ、チハルの事情を知っている。
間違いなくこの子は山王と関わりがある。
もしかしてヤマトの女か?…いや、それかコブラの…

「そんな顔すんなって、美人が見つめると寧ろ逆効果。
俺村山っての、鬼邪高の頭。お姉さんの名前は?」
「…コブラが、貴方達と関わるなって」
「へーぇ、コブラが…あんたコブラの女?」
「違う…」

こいつに手出したら…コブラは出てくるだろうか。
女は否定してるけど、俺の勘が間違いないという。
こいつは…コブラの…そう思ったら目の前の女に興味が出てきて、女に近付き、下から覗きこむように顔を近付ける。

「……なに」

全く動じる様子がないんですけど。
さっきから人形みたいに表情が硬いっていうか、でも、それもそれでいいなんて思う。

「へぇ、近くで見るとますます綺麗だね、おねーさん。
名前、教えてくれないの?」
「…名前教えたら、もうITOKANにこない?」
「うーん、まぁどうせチハル出しそうにないしねー……いいよ、別に」

意外にも条件つきに持ってくるとは賢いとこあるじゃん、と感心してしまう。

「…ユリ」
「ユリチャン、ね…覚えとくわ。
じゃあな、お前ら帰るぞ」

後ろにいた古屋達にそう声をかけ、今度こそ山王を後にした。

「…あの子の名前、コブラと闘る時に出したら…どんな反応するんだろなぁー」

くつくつと笑いながらさっきの絆創膏を眺める。
…いーなぁ、山王にはあんな美女がいてよぉ。

「均衡崩すのも…悪くねぇかもなぁ」

近いうちに山王と闘り合う事になるだろう。
そう思うと笑いが抑えられなかった。

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