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2月。マフラーに口元を埋め、目の前にそびえ立つ校舎を見つめる。
――雄英高等学校入学試験会場
校門の隣に立てられている看板を横目でチラリと見てから、その門を潜る。ポケットに手を入れ、中に入っていた合格祈願のお守りを握り締めた。
何故かホッとした後に、やはり入試というだけあって緊張しているのだと気付いた。
「……何してるの?」
「ハッ…!」
その先で何故か顔を赤くして奇声をあげていた緑谷に声を掛けた。怪訝そうに見つめ巴に、ハッと我に返ったように返事をした。
大きな講堂に誘導されると、受験票に記載された番号順に座る。番号順と言っても基本的には中学校ごとにまとまっているので、巴の座った席の隣は緑谷、その向こう側に爆豪が座っていた。
プレゼント・マイクが現れると隣で緑谷のいつもの癖が出る。ブツブツと嬉しそうに何やら呟く彼に、ピシャリとうるせえと返す爆豪。悪いがコレに関しては彼に同意見である。
聞き逃すということはないだろうが、ルールはきちんと把握しておきたい。
「同校ダチ同士で協力はさせねぇってことか」
「ほ、本当だ…。受験番号連番なのに、会場違うね」
「見んな殺すぞ」
仮想敵は三種類で多数。各々の個性で仮想敵を行動不能にしてポイントを稼ぐのが目的。
しかしプリントには四種という記載がある。そのことについてカクカクとした動きの少年が質問をしていた。その際に出久に対して気が散ると言い、それについてもまた残念なことに巴は同意するほかないのだ。
慣れている二人でさえ苦笑あるいはうるさいと感じるのだ、周りの受験生からしたらもっとうるさいのだろう。
また、質問に対する返答によると、四番目の敵はいわばお邪魔虫。ゼロポイントとのことだ。ならば無視しても構わないのだろう。
《俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校“教訓”をプレゼントしよう。
かの英雄ナポレオン=ポナパルトは言った!「真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者」と!
“Plus Ultraプルスウルトラ”!!それでは皆、良い受難を!!》
▽▲▽
講堂を出て実技試験をするのに各々更衣室へ向かう時、2人を呼び止めた。こちらを振り向く不思議そうな顔と、不審そうな顔。眉間にシワを寄せて不審そうな顔をする爆豪をチラリと見て「まあ、キミは無くても大丈夫そうだけど」と呟くと「ア゙ァッ!?」と返された。
「はい」
両手をグッと差し出すと釣られたように彼らも手を差し出した。その上に半ば押し付ける形で手に握っていた物を渡した。
「え、お守り…?」
「実技は学問なのか分かんないけど、筆記試験ならご利益あるでしょう。わざわざ菅原道真の神社まで行ったんだから大事にしてね」
「あ、ありがとう…!」
パァッと明るい笑顔になる緑谷と違って、爆豪はお守りを見つめたまま「んなもんいらねぇよ」と言いつつもポケットに入れていた。
「いらないなら返してよ」
「うるせぇんだよクソ女。俺に指図すんな」
それだけ言うとあのガラの悪い歩き方で更衣室まで向かう。もう言動がめちゃくちゃだ。苦笑いをしていた緑谷は時間が迫っていることに気付き、慌てて更衣室へと駆け出した。
“個性”を生かした服装なんて特に考えていなかったから、巴は普通に学校のジャージだ。会場に向かうバスの車内で一通りぐるりと見回してみると、各々動きやすそうな格好をしていた。
爆豪の方は問題ないだろうが、出久は大丈夫だろうか。
会場に着くまでの数分、流れていく窓の外を眺めながらそんなことをぼんやりと考えた。
そして巴の不安は的中してしまう。
試験後の帰り道、顔面蒼白になっている出久を見て巴はかける言葉が見つからなかった。
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