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下駄箱にローファーを入れ、上履きを履く。校庭から聞こえる運動部の掛け声をBGMに職員室へ向かう。
3月に入ったのにまだ寒い。入り口前で鞄を下ろし、マフラーを外そうとすると舌打ちが聞こえた。
「…てめェもかよ」
「3人とも雄英受けたんだから合否報告も3人一緒でしょうに」
今丁度やって来た爆豪は不機嫌丸出しだった。そこに遅れて緑谷もやって来て、3人で職員室に入る。
…結果は、3人とも合格だった。
横で緑谷の結果を聞いて思わず固まる。あれ程までに落ち込んでいたのなら余程手応えが無かったんだと思っていた。でも合格は合格なので、巴も小声で「おめでとう」と言っておく。
先生は自分の中学から、しかも自分が担当するクラスから3人も雄英進学者が出たことにとても喜んでいた。
お世話になった進路指導の先生にも結果を告げ、職員室から出る。春休み中だし部活にも入っていないからもう用事はなく、そのまま家まで帰る、はずだった。
校舎から出た瞬間に爆豪は緑谷の腕を掴み、校舎裏まで引っ張り連れて行く。
慌てて追い掛けると、壁に追いやられた緑谷の胸倉を爆豪が掴んでいた。
でも巴は助けなかった。確かに彼女の目の前で起きている出来事だし、以前までなら彼らの間に入っていただろう。けど、緑谷の顔が…目が、今までと同じように彼に怯えた目ではなかった。巴は彼らの間に入らないんじゃない、入れないのだ。爆豪に反抗する緑谷は初めて見たし、あの反抗的な表情も初めて見た。
「爆豪、」
「ア゙ァ゙ッ!?…そうだよ、てめェもだかんなクソ女!!
てめェも雄英受けなけりゃ進学者が“3人”なんてことにはならなかったんだ!!!クソッ、どいつもこいつも俺の…」
「…キミのその“将来設計”に巻き込むのやめてくれない?」
「…あ゙?」
「…巴ちゃ……」
「私には私の“将来設計”があるの。そこにキミはいない。だってキミは私の人生に“関係ない”から」
「!!」
「キミの人生に私も“関係ない”。迷惑だからやめてよ」
その瞬間、爆豪の右手が飛んできた。殴られると思って個性を出す準備をするのに巴も左腕を上げようとすると、左肩をそのままガシッと鷲掴みされた。
少し驚くもすぐに落ち着かせる。スッ…とそのまま眉間に皺を寄せ今にも殴り掛かってきそうな爆豪の顔を見つめた。
「てめェ……!」
「何。“他人”なんだから当たり前でしょう」
「…“関係ない”だァ?人の気も知らねぇでよくそんな事言えんな!?オイッ!!」
「はい?」
「勝手にズカズカ入り込んできたのはてめェだろうが!!!」
「ちょっと、何言って」
爆豪の言ってる事が分からなくて思わず眉間に皺を寄せると、慌てたように緑谷が「すすすすストップ!!!」と間に入ってくる。そして無理矢理、爆豪の右手を払って巴の腕を掴んだ。
「じ、じゃあ!僕ら先に帰るから…!」
腕を引かれそのまま緑谷に連れて行かれる。いつもなら「勝手に帰んじゃねぇ!」と手を爆破させながら追い掛けて来るのに、彼は追って来なかった。
――ガッ!!!
「クソッ」と吐き捨てる声が聞こえた後何度か壁を殴るような音が聞こえてきた。
緑谷は何回か心配そうに振り返っていたが、走る足を止めずにそのまま校門から出た。
▽▲▽
「…出久」
「……」
「ちょっと、出久」
「!?…っあ、巴ちゃ、ご、ごごごごめ、」
怪訝そうに僕を見る巴ちゃんが視界に入り、思わず引っ張っていた手を慌てて離す。
あのままだと、気に入らない巴ちゃんの言葉や態度で勢いに任せてかっちゃんが手を出しそうだったから慌てて止めたけど…。
…ううん、かっちゃんが巴ちゃんに手を出す事なんて無かった。昔のアレだって、巴ちゃんが“個性”を使ったから結果的に未遂で終わったし、その後もかっちゃんが巴ちゃんに向けて何かしら暴力を振るう事は決してなかった。…僕にはあったけど。
だからさっきのは“手を出す”のが怖かったんじゃなくて、その後の…かっちゃんが勢いで言いそうになっただろう言葉に傷付くかもしれない巴ちゃんを見るのが怖かった。
実際は僕の心配のしすぎで傷付かないのかもしれないけど、何だか彼女に対して少し慎重になってるのが自分でも分かった。
(かっちゃんも色々拗らせてるなぁ…)
僕と巴ちゃんの関係は今でもわりと良い方だと思うけど、かっちゃんと巴ちゃんの関係はかっちゃんが色々と拗らせてるせいかあまり上手くいかない。
僕の場合も“わりと”良い方なのだけれど。
「…まあ、でも…私も少し言い過ぎたかも。いつも爆豪の自己中な考え方に振り回されていたから、色々溜まってたのかも」
「さすがに“他人”は僕も傷付いたよ…」
「ごめんね」
少し申し訳なさそうに謝る彼女に、「気にしないで」と笑う。
「でも、間違ってはいないと思うんだ」
「え…」
「幼馴染なんて、所詮は他人だよ。どう足掻いても決して、“家族”にはなれない」
そう呟く巴ちゃんの顔は、僕の幼い記憶の中に佇むかつての彼女の顔と同じだった。
ああ、この記憶は……そうだ、この日から僕らの関係が変わってしまったんだ。
この日から、巴ちゃんは変わってしまったんだ。
「帰ろう、出久」
振り返って僕にそう告げる彼女は、いつも通りの顔だった。あの日から変わらない、笑顔が消えた顔。
笑うことがなくなった彼女の代わりに、僕が笑ってあげようと、あの日そう決めたんだ。だから昔の彼女の真似をして、かつての自分と同じように謝る彼女に対し、僕は「気にしないで」と微笑みかけるようにした。
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