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「オールマイトの授業は――、え、きみすごく可愛いね!!テレビ映えするからこっちの仕事やってみない?」
「モデルもいけると思うわ!」
「一度テレビに出たらファンがつくよ!」
「……け、結構です」
翌日。平和の象徴オールマイトが雄英高校に就任したことによりマスコミが連日押し寄せる事態になっている。
在校生には勿論、教師にもマスコミのカメラとマイクが向けられて朝は校門前が騒々しい。今にも雪崩込んできそうな勢いだ。
もっとも雄英高校の門には通称“雄英バリアー”と呼ばれるセキュリティが至る所に施されており、学生証や通行許可IDなどがなければ強制的に門が閉じる仕組みとなっている。
このセキュリティはレベル3まであるが、今までレベル2や3の警報は鳴ったことがないという。故に外部からは勿論、マスコミは無理矢理足を踏み入れることはできないのだ。
静はクラスのドアを開ければ、芦戸や葉隠に朝のぼんやりした頭を覚醒させられるような声で挨拶をされ、巴はぐらぐらする頭を感じながら笑みを浮かべて返した。
「照己大丈夫だった?マスコミの餌食になってるんじゃーて葉隠と話してたんだよー」
「隙を見て駆けてきたから大丈夫――」
「照己ちゃんならスカウトされていたわ」
「梅雨ちゃん?!」
「断ってたけど」
目撃されていたのかと背後から顔を出した蛙吹に静は双眼を丸めた。蛙吹はそのまま自分の席へ行き、学生鞄を置く。
やっぱりーと苦笑いを浮かべる芦戸に続くように、静の容姿を羨む葉隠や、芦戸の前の席の青山が「マスコミも見る目ないよね」という独り言にはどのような突っ込みをいれようか考えあぐねる。
ひとつ息をつき、ヒーローにしか興味ないから、と困ったように笑って言い残し、自分の席へと向かった。
「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させてもらった」
本日最初のHRの時間に教室に入って来た相澤先生は教卓の上に紙の束をバサリと置きながら話し始めた。
「爆豪、おまえもうガキみてえなマネするな、能力あるんだから」
「……わかってる」
先生の一言に、意外にも爆豪は静かにそう応えただけだった。以前の彼ならウルセェ!大きなお世話だ!ぐらい先生にでも平気で言い捨てそうなモノだが。
昨日の事が余程彼の中で大きかったのだろう、後ろから見えた彼の背はどこか昨日までとは違って見えた。
「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一見落着か」
次に先生の標的になったのは出久だ。ビクリと肩を震わせて、明らかに先生に怯えているのが周りにも丸分かりだ。注意された矢先に昨日は腕を骨折したのだ。幾ら訓練とは言え自分の技で自分を壊すのは先生的にも不愉快だったのだろう。
「俺は同じ事言うのが嫌いだ。"それ"さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」
「っはい!」
先生の醸し出す雰囲気にもっと大きな雷が落ちてくるかと思っていたが、意外にも先生はそれほど怒っていなかったらしく、出久に軽い注意の言葉をかけただけだった。
その先生の言葉に、ついさっきまで怯えた様子だった出久も真剣な面持ちで返事を返す。
「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」
一通り昨日の反省点を述べたのか、先生が改めて話を切り替える。そのポツリと静かに話し始める先生が醸し出す雰囲気に、クラス中がまた臨時テストか何かあるのかとざわめいた。
ゴクリ、と周りの生唾を飲み込む音が聞こえそうなほど、皆次の言葉を待っている面持ちが尋常じゃない。が、
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たーー!!」
元々ここは学校なのだから、皆の綺麗に揃った安堵の言葉がそれって如何なものか。
否、今までが自分達の知る学校とかけ離れた事ばかりあったからこそ、こういった普通の学校の恒例などに新鮮味を感じてしまうのだ。
しかしその安堵もつかの間。学級委員長の言葉に、一斉に教室中が騒がしくなる。それも皆、自分を主張しようと片手を大きく上げて我が我がと学級委員長の座を狙っているからだ。恐らく、普通科であるならばこんな事にはならないだろう。
普通科など一般的に学級委員と言うと先生の雑務をこなしたりするイメージがあるし、寧ろやりたがらないものだろう。だが此処はヒーロー科。
学級委員になれば、集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられるし後々就職活動にも活かされていく可能性大の重要な役職だ。皆が狙うに決まっている。
俺やる俺やる!私やりたーい!なんて全面的に前に出ているクラス中を後ろから眺めている数名。
静を含め、ほんの数名だがその中に轟が居る事に自然と目が留まった。他にも常闇やお茶子なども目に入ったが、目に留まったのは轟だった。
騒ぐクラス内に、俺はまるで関係無いというように興味も示していない彼は頬杖を突きながらボーっと窓の外を眺めていた。
立候補するようなキャラじゃないとは思っていたが、せめて誰がなるのかとかそれぐらいの興味はあってもよさそうなものだが、それすら彼からは感じられない。
彼の横顔は髪で隠れて見えないが、何となく寂しそうな…そんな気がした。
「静粛にしたまえ!多をけん引する責任重大な仕事だぞ…!"やりたい者"がやれるモノではないだろう!」
騒がしい教室に大きな声が飛ぶ。その声に静も轟に向けていた視線と思考を教室内に戻す。
何だ?何だ?と自己主張を繰り広げていたクラス中が声のした方向に注目が集まる。その先に居たのは案の定、飯田だ。
「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら…これは投票で決めるべき議案!!」
飯田の言っていることはもっともだが、彼のその姿にすぐには誰も納得できなかった。それもこれも、
「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!!」
真っ直ぐ天に伸びる飯田くんの右手。彼も一番は投票で決めるのが正しいと諭しては居ても本当は自分が学級委員長をやりたい気持ちが大きかったのだろう。その体に現れてしまっている。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!?どうでしょうか先生!!」
「時間内に決めりゃ何でも良いよ」
結局、飯田の意見に半ば納得していない者も居ながらも彼の熱い主張に皆も一度試してみるかという流れになり、全員が自分に投票して決まらなければまた話し合おうという結論に至った。
皆平等に、一人一票。自分に入れても別の誰かに入れても可。自分が学級委員を任せても良いと思う人に入れる事。何も難しい事は無い。
皆、誰にも見られないように紙に学級委員長に相応しい生徒の名を書き、即席で作った箱の中に投票していく。
クラス全員が投票したのを確認し、飯田を中心に開票された結果が黒板に書かれていく。
だいたい軒並み自分自身に入れたのであろう1票ずつの中、なんと出久が3票、八百万さんが2票を獲得していた。
「僕3票―――!!?」
余りにも予想していなかったのだろう、現一位に選ばれた出久の声が教室内に木霊する。たった一票が大きく関わるその投票結果に、他の誰かから投票して貰えるなんて思っても見なかったであろう出久は、黒板に書き出された自分の名前の隣に並んでいる3票に未だ信じられていない様子だった。
「なんでデクに…!誰が…!!」
「まーおめぇに入るよかわかるけどな」
結果が分かるとまたいろいろな声、なんなら悲鳴みたいなものすら聞こえる。
「0票…わかってはいた!!さすがに聖職といったところか…!!」
「他に入れたのね……」
瀬呂と爆豪がなにか言い合っているそばで飯田が崩れ落ちていた。
どうやら自分に一票も入っていなかったらしい。
「じゃあ委員長 緑谷。副委員長 八百万だ」
「うーん、悔しい…」
「ママママジでマジでか…!!」
そんなこんなでヒーロー科1-Aの委員長は緑谷、副委員長は八百万に決定。
黒板の前で見るからに改めて決まった自分の立場に震えている出久に、一票差で副委員長になってしまった事に少し不服そうな八百万さん。
皆それなりに自分が選ばれなかった事が残念そうだったが、「緑谷なんだかんだアツイしな!」「八百万は講評の時のがかっこよかったし!」と選ばれた2人に納得がいったらしく、誰も異議を唱える者は居なかった。
ただ、静はどうも引っ掛かっていた。
黒板に書き出されている生徒の名前と投票数。照己静の横にある1票の文字。
本人は別の人に投票したというのに、何故だろうか。
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