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既に脳無によって怪我をしていたというのに、その体で更に爆豪を庇ったのだ。あの爆風は脳無のパンチをオールマイトが受けた事により巻き起こった風らしい。どちらの力も強大でなければ、あんな現象は怒らない。現に、オールマイトもかなりキツそうに見えた。

「仲間を救ける為さ、しかたないだろ?さっきだってホラそこの…あ―――…地味なやつ」

爆豪がふっ飛ばされた為に、彼が押さえつけていた靄男が自由の身になる。僅かに吐血したオールマイトの言葉に手男は悪びれた様子も無く、さも当たり前のように仲間の為と言い放った。そして辺りをグルリと見回して緑谷に目を止め、地味なやつと指を指す。

「あいつが俺に思いっ切り殴りかかろうとしたぜ?他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ?ヒーロー?」
「ッ!」
「俺はな、オールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローと敵(ヴィラン)でカテゴライズされ善し悪しが決まる、この世の中に!」

確かに、ヒーローと敵は紙一重。一歩踏み間違えば世界は一変する。今までだって、ヒーローから踏み外した人が居ないとは言い切れない。けど違う。偉そうに演説するこの手男の主張の核心は、きっと違う。真剣に訴えるのならそんなの此処までする必要などない。

「何が平和の象徴!所詮 抑圧の為の暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」
「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの…自分が楽しみたいだけだろ嘘つきめ」
「バレるの早…」

"殺す"という考えが浮かんだ時点で大間違いである。それがオールマイトでも、一般市民でも誰かを殺す事で証明できる事など、正論で成り立つわけがない。一見凄い事を言っているように感じるが内容は所詮薄いもの。オールマイトが見抜いた通り、自分のやりたい事に理由を…正当性を付けたいだけなんだ。
普通、見抜かれれば一瞬でも悔しそうな顔をするものだろうが、手男は薄く笑っただけで素直に認めた。

その態度にも、その思想にも湧いてくるのは怒り。
そうと決まればやるしかない。周りを見ても、皆どうやら私と同じことを考えているようで安心した。

「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!!」
「とんでもねえ奴らだが俺らでオールマイトのサポートすりゃ…撃退出来る!!」
「はい…っ」

傍に居た轟が自分を頭数に入れてくれたことに静はまず感謝する。逃げられたのはイタいが、緑谷の言う通り靄の男の弱点は爆豪が見事に暴いてくれた。弱点を知ってしまえば、あとは敵の攻撃を上手く避け此方の攻撃が届けば良い。構える切島の言う通り、皆でオールマイトをサポートし合えば勝てない訳ない。その皆の自信に満ちた声に自分自身もグッと意気込んた矢先、

「ダメだ!!逃げなさい」
「!!」

バッと片腕を翳し、意気込む私たち制止するオールマイト。その言葉に辺りは何を言っているんだとばかりに彼に視線を向けた。
子供の私たちが言うのも何だけれど、今のオールマイトは傷だらけで結構辛そうに見える。それに、相手は3人。なら、多勢に無勢という言葉もあるようにみんなで力を合わせて戦えば、楽に片が付くのではなかろうか。なのにそれを制止するなんて。

「………さっきは俺がサポート入らなけきゃやばかったでしょう」

静かに言う轟に、傍らで緑谷が時間がどうのこうのと傷ついたオールマイトに言っているのが聞こえた。何の事だか分からなかったが、出久はすぐに自分の口を塞いでそれ以上言葉を続ける事は無く、オールマイトは出久の言葉を振り払うかのようにいつもの満面の笑みで小さく此方を振り返って言った。

「それはそれだ轟少年!ありがとな!!」

グッと親指を立てて言うオールマイトに静は何とも言えない不満感に襲われていた。どうして、どうしてそこまで彼は独りで戦おうとしているのか。何故、誰の力も借りようとしないのか。彼が強いのは誰もが分かっている。けれど、それでも不思議な不満感は拭いきれなかった。

「…私たちは足手まといですか」
「そんな事は断じてない!」
「なら…」
「しかし大丈夫!プロの本気を見ていなさい!」

バッとオールマイトの腕が私たちの援助を拒む。大丈夫、まるで魔法の言葉のように言い続けるオールマイトのその大きな背中の向こうで敵が動くのが見えた。

「脳無 黒霧 やれ。俺は子どもをあしらう。クリアして帰ろう!」

刹那、グッと地面を踏み込みこちらに突進するように向かってくる手男。オールマイトは別の脳無とかいう男と霧男に任せたらしい。手男は、生徒たちを相手にするつもりだ。

「おい来てる!やるっきゃねえって!」

少し焦りの混じった切島くんの声。ドンドン距離を詰めて迫ってくる敵。能力は未知数。狙いは確実に自分たち。でも、やるしかない。切島くんの言う通り、やるしかないのだ。オールマイトの足手まといになんかならない。自分たちで、コイツを―…。

「!」

背筋を駆け上がる何とも言えぬ物凄い感覚。それはどこか悪寒にも似ていたが、違う。気迫だ。此方に向かって来ていた手男も思わず足を止め、驚いたような顔をしていた。こんな気迫、今までに感じた事など無い。そしてそれは、傍に居たオールマイトから発せられていた。
振り返る暇もなく、オールマイトはその物凄い気迫のまま脳無目がけて突っ込んで行く。他の敵も、静たちもその気迫と衝撃で体が強張ってしまい上手く動けないようだった。ドッという音と共にオールマイトの構えた拳と脳無の拳がぶつかる。が、やはり脳無の能力でそれほどのダメージを上手く与えられていないように見えた。

「"ショック吸収"って…さっき自分で言ってたじゃんか」
「そうだな!」

ヒョイヒョイと自分たちに迫っていた筈の手男が距離を取りながら呆れたように言う。が、彼とは対照的にオールマイトは分かっているさ!とでも言いたげに高らかに一言言い捨てると、そのまま脳無に向け、物凄い衝撃音を立てながら幾つも幾つも拳を繰り出してはぶつけていく。

「真正面から殴り合い!?」
「先、生…!」
「うっ、ち、近づけない…」

その衝撃波とでも言おうか、物凄い勢いでオールマイトと脳無の周りに見えない空気の壁が渦巻き誰一人としてその空間に近づく事を許さない。手助けどころか何も出来やしない。自分たちとは次元が違い過ぎる。そう思った。

「"無効"ではなく"吸収"ならば!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるなら!さらに上からねじふせよう!」

声を上げながらも拳を繰り出す手を緩める事は無い。私たちは呆然とそれを見ていた。この短時間の間に相手に対抗する手段を見出した。例えそれが答えとして合っているのか分からなくても、可能性が少しでもあるそれを答えと信じてオールマイトは脳無に拳をぶつけている。

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!」

その場の誰もが言葉を失っていた。口から血を吐きながらも、表情を崩す事無く相手に立ち向かっていくオールマイトの姿に。きっとあの脳無に向けて放っている拳1つ1つもただの拳じゃない。100%の力を1つ1つに込めて放っているのだ。

「敵よ こんな言葉を知ってるか!?」

"Plus Ultra!!(更に向こうへ)"

止めの一発が脳無の鳩尾に直撃し、脳無の体がドガアンと割れる音を遠くに響かせながらドームの天井を突き破って飛んでいく。
「漫画(コミック)かよ」という切島の声が何処か遠い。オールマイトは、脳無のショック吸収を無かった事にしてしまったのだ。再生能力も間に合わないほどの拳のラッシュ。
力技と言ってしまえばそれまでだが、これは本当にプロのヒーローでなければ出来ない事だろう。緑谷たちはその光景に開いた口が塞がらなかった。

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